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聖と魔の名を持つ者~剣を手にした少女は、やがて国を守る最強の騎士となる/ラーソルバール・ミルエルシ物語~  作者: 草沢一臨
第三部 : 第四十二章 運命の糸は

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(一)願い③

 宿を発った騎士団の一行は、冒険者ギルドを訪れた。

 シルネラの冒険者はヴァストールとの国境を跨いで活動することも少なくない。

 また、時折ヴァストール側の町や村からの依頼も届くなど、シルネラのギルドはヴァストール国内の治安維持にも少なからず貢献している。

 しばしば騎士団との協力し合う事もあり、一年に一度は騎士団を派遣して挨拶を兼ねた交流を行っている。今回は大使交代の護衛を兼ねてその役割を任せられたという事になる。


 業務の邪魔にならないよう、朝の受付開始時間前の訪問という事もあって、館内の人はまばら。館内に現れた騎士達を何事かと遠巻きに眺める者はいるが、寄ってくる様子は無い。

 幸いラーソルバールやシェラの顔を知る者は居ないようで、特に反応はない。もっとも、受付付近で派手な立ち回りをして周囲を魅了したエラゼルがこの場に居たなら、また違ったかもしれないが。


「ようこそいらっしゃいました、私が当ギルドの長であるホグアードです」

 騎士団の到着を待っていたように、ホグアードが現れた。

「ヴァストール王国第一騎士団所属、フェザリオ三月官です。今回の派遣団の長でもあります。よろしくお願いいたします」

 簡単な挨拶を交わし、両者は握手を行う。

 すぐに騎士団全員が入れるような大きな部屋に通されると、そのまま形式的な取り決めの確認を行い、感謝状と謝礼金の贈呈とが速やかかつ事務的に対応が行われた。

 その様子を見ながら、早く終われとばかりに気を揉んでいたラーソルバール。最後に書面の交換が行われて会談が終わったのを見届けると、ほっとしたように小さく息を吐いた。

「では、あとは受付の者に任せてありますので、大変申し訳ないのですが私はここで……」

 話を終えて部屋を出る際、見送るようにホグアードはそう言って頭を下げた。

「では、失礼いたします。……ああそうだ。ミルエルシは話があるのだったな。我々は先に行っているから、後から来ると良い」

 フェザリオはホグアードに丁重に頭を下げた後、ラーソルバールに話を振った。

「分かりました。すぐに行きますので」

 皆が階段を降りていく背に向かって声を投げかける。その際、シェラがちらりと視線を送ってよこすのが見えた。

「何かあったのかね?」

 先日顔を合わせた際に用件は済んでいたはずと、不思議そうにホグアードは首を傾げた。

「これを……」

 ラーソルバールは袋から布の包みを取り出して手渡す。

「何かね? 思うに剣のようだが……」

「はい。昨夜、私の……いえ『ルシェ』の知人が暗殺者に襲われました。幸い、命に別状はありませんでしたが……」

 小声で話していたが、言いかけて止めた。

「物騒な話だが……その知人というのは?」

 ホグアードの問いかけに、階段を見やって人の気配が無い事を確認すると、ラーソルバールは言葉を続ける。

「ホグアード様もご存知かと思いますが、知人とはアシェルタート・ルクスフォール……。帝国の伯爵家の嫡男です」

「何!」

 聞き覚えのある名に一瞬眉をしかめたホグアートだったが、その意味するところを知って思わず大きな声を上げた。驚愕し青ざめた表情がホグアードが事件とは無関係であることを物語っている。

 ラーソルバールは人差し指を自らの唇に押し当て、ホグアードの目を見詰めた。

「それが意味するところを私も承知しておりますが、どこに耳が有るか分かりません。できれば私がこの場を去ってすぐ、お一人でその包みの中身をご確認ください」

 語らずとも中を見れば分かると匂わせた後、周囲を欺くようにわざと大きめの声で「有難うございました」と言い、ラーソルバールは深々と頭を下げた。


 同梱した書面には、アシェルタート自身は事件を公にするつもりは無いと前置きしたうえで、ホグアードに以降の対応を委ねる旨を記した。

 剣は暗殺者の物であり、これを手掛かりに犯人を特定して欲しいということ。そして、暗殺を企図した者が議会関係者に居り、アシェルタートだけではなく帝国の重要人物を殺害しようとする可能性が有ること。その際に軍を動かす恐れがあること、まで。

 あくまでもドグランジェの名は書かなかったが、帝国が交渉に訪れている事を知っていると文面では匂わせている。


 この証拠を生かすも殺すもホグアード次第。

 結果としてホグアードにアシェルタートの命を委ねる事になるが、これ以上ラーソルバールの立場では出来ることは無い。言い様のないもどかしさに唇を噛むと、階段を踏みしめながらアシェルタートの無事を祈った。


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