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聖と魔の名を持つ者~剣を手にした少女は、やがて国を守る最強の騎士となる/ラーソルバール・ミルエルシ物語~  作者: 草沢一臨
第三部 : 第四十一章 人の繋がり

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(三)心の表裏①

(三)


 ギルドを後にしてからラーソルバールは悩んでいた。

 特使として来ているアシェルタートにどんな顔をして会えばいいのか。そんな思いを抱えながら、ラーソルバールはアシェルタートが居るという店へと向かう。


 店があるのは見知らぬ地区だけに、受付のミディートから貰った地図が無ければ迷っていただろう。その地図を手にしたシェラの案内に従って街を歩く。

「そこの小路を曲がったところだね」

 最後の確認を終えると、シェラは地図を折りたたんで小袋に仕舞い込む。シルネラの冒険者であるはずの二人が、地図を頼りに店に来たというのは疑われる材料になる。ボルリッツには正体は知られているとはいえ、アシェルタートに気付かれる訳にはいかない。


 周囲を警戒しつつ店の前まで来たところで、二人は入店すべきか悩むことになった。

「……なんか、高級そうな店だよね?」

「うん。この格好で入るべきかどうか、悩むよね……」

 周囲は少し大きめの邸宅が有る高級住宅地。そんな立地の店だけに、シェラが口にした通り一般的な町民を意識した今の服装でさらに帯剣している状態では入るのに抵抗がある。

 二人ともこうした店に入ったことが無い訳ではないだけに、その敷居の高さも承知しているつもりだった。


 二人が店の前で悩んでいると、その様子に気付いたのか中から店員と思しき中年の男性が現れた。

「お待ち合わせか何かですか?」

「……あ、はい……そうなんですが。こんな高級な店だとは知らなくて……」

 愛想笑いというよりは苦笑いに近い表情を浮かべつつ、シェラは店員の問いに答える。

「大丈夫です。貴族がいる国とは違いますから、一般的な服装で問題ありませんよ。……但し、腰のものはお預かり致しますが」

 物腰柔らかく応対され、逃げる訳にもいかずに二人は案内されるまま、店内へと足を運ぶ。

「失礼ですが、お客様のお名前は?」

「あ、えっと……ルシェ……・ノルアール……です」

「ああ、ルクスフォール様のお連れの方ですね、伺っております。うちの店はこんな感じですが、緊張なさらずとも大丈夫ですよ」

 二人の緊張をほぐすように、店員は和やかな笑顔を浮かべながら語る。


 短い廊下を歩くと、個室と追われる扉の前で立ち止まった。

「こちらでございます」

 店員は扉を二度軽く叩き、中からの応答を確認してから二人にお辞儀をして一歩後ろに下がる。店員として優雅に洗練された動きだった。

「ありがとうございます」

 ラーソルバールが感謝を示すと同時に扉は開かれ、室内が見えた。

「ルシェ!」

 扉を開けて現れたラーソルバールの姿を見るなり、アシェルタートの声が弾んだ。

 純粋に再会を喜ぶ様子に、ラーソルバールはやや後ろめたさを感じながらも笑顔を浮かべる。笑顔はぎこちないものでなかったかと言われると、その自信はない。

「お邪魔かもしれないと思いつつも、ついてきてしまいました」

 葛藤を察していたシェラが助け舟を出すように、一歩前に出る。

「え……と、今日は二人で夕食の予定だったんですが、お手紙を頂いたので……」

 シェラに合わせるよう続ける。二人で食べる予定だったというのは嘘ではない。

 正騎士となってからゆっくり会う暇が無かった二人は、夕食を食べながら以前の旅を思い出しつつ色々と語り合うつもりでいたのだ。

「コッテさんも一緒なら、更に楽しく食事ができるというものだよ」

 何故、ここに居るのかと訝しがる様子のボルリッツとは対照的に、アシェルタートの表情は明るい。

「さあ、立ってないで二人とも腰掛けてくれ」

 身分証を呈示した事があるとはいえ、シルネラの冒険者という事しか分からぬ身分の怪しい娘を相手に、伯爵家の長男がとるべき態度ではないのではないか。例え領内の賊を討伐してくれた恩のある相手だとしても。

 アシェルタートの好意につけ込むような真似をしているのではないかと、胸が痛む。


「今日は依頼を終えて丁度シルネリアに戻って来たところなんです。お手紙を頂いているなど思いもしなかったので、このような格好で……」

 半分の嘘を交えて苦笑いを浮かべる。

「いやいや、気にする必要はないさ」

 対するアシェルタートは一見普段着にも見える服装だが、シャツは上質な生地を使用しており、椅子にかけた礼服を見るに、議会に顔を出した後なのだろうと想像できる。彼はやはり交渉に……と、そこまで考えて、ラーソルバールは思考を止めた。


 ここで詮索して何になる。

 本心では予期せぬ再会ができて涙が出るほど嬉しいはずなのに、素直になれないでいる。微笑んだつもりだが、ちゃんと笑えているだろうか。

 愛おしいという思いの裏側で、後ろめたさが頭をもたげる。ここで全て打ち明けてしまえたなら、どんなに楽になるだろうか。

「ルシェはいつも『アシェルタート様に会いたい』って私に言ってるんですよ。だったら素直に行動すればいいのに、って思うんですけどね」

 心の内を見透かしたような、そんなシェラの言葉が胸に刺さった。


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