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聖と魔の名を持つ者~剣を手にした少女は、やがて国を守る最強の騎士となる/ラーソルバール・ミルエルシ物語~  作者: 草沢一臨
第三部 : 第三十九章 人と人

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(三)小隊長と公爵令嬢①

(三)


 王宮で開かれる華やかな晩餐会。

 名目上の主役はレンドバールの第二王子リファール。だが、実際は敗戦国の王子であり、立場上は人質のようなものであり肩身が狭い。王子を軽く見る者や、侮辱する者が出ないとも限らない。

 そこで宰相であるメッサーハイト公爵は先手を打った。

 出席する各家に対し「王子を軽んじたり侮辱した者は禁固刑に処する。また同様にレンドバール王国を蔑むような行為、言動を行った者も同様とする」という約束事を盛り込んだ。これはラーソルバールがリファール王子が親ヴァストールだと告げた事と無関係ではない。

 そして会場の警備も厳重にし、不測の事態を防ぐよう配慮している。

 会場警備や、王宮の警備、王都エイルディアに入る人々の検査と監視。その全てを騎士団が分担して行うことになっていた。


 王宮警備の担当となったのは第二騎士団。

「この前と言い、今回と言い、重要な場所を任されている気がするんですが……」

 ビスカーラが眉間にしわを寄せ、不満げに言った。色々とあっただけに、ラーソルバールもこの配置にはナスターク侯爵らの思惑が絡んでいるのではないか、と勘繰ってしまった程だ。実際のところは分かりようもないが。

「いいんじゃない? 信用されてるとか良い方に受け取っておけば」

 苦笑いをしながら、なだめるように言うドゥー。

「そんな無駄口叩いていると、隊長に怒られるよ」

 二人のやり取りを見ていたルガートは窘めるように言ったものの、普段の行動からか言葉に重みがない。

「誰が聞いている訳でもないし、少し不満を吐き出すくらいならいいんじゃないですか?」

 苦笑しながらラーソルバールは応じた。


 まだ晩餐会の参加者がやって来る様子もない。会場は近衛兵が警備しており、特に問題が発生した様子もない。もし不安があるとすれば、近衛兵と騎士団との連携だけだろうか。

 噂には聞いていたのだが、王家が管理する近衛兵と軍務省管轄の騎士団は立場が異なるため、時折対立することがあるらしい。基本的に仲が悪く、連携に支障が出ることも少なくないと聞かされている。


「馬鹿、近衛の奴らに聞かれたら何言われるか分からねえぞ。お前も隊長らしく部下の管理をしっかりやれ」

 見回りに来たギリューネクに聞き咎められ、ラーソルバールは頭に軽く拳骨を入れられた。

「はい、すみません」と、ラーソルバールは謝ったのだが。

「元々全員が小隊長時代からのギリューネク中隊長の部下ですけどね」

 自身が管理できていなかったから、今の自分たちが有るのではないか。わざわざ、聞こえるようにビスカーラがからかった。

「はいはい、俺が悪いんだろうさ。いいからしっかりやれよ」

 捨て台詞を残して、ギリューネクは次の第十八小隊の居る場所へと歩いて行った。

「あれぇ? 意外とさらりとしたもんだな……」

 以前、犬猿の仲だったルガートは不思議そうに首を傾げる。そうした感想を抱いたのはラーソルバールも同じで、彼も少し変わったのだろうかと感じるには十分な出来事だった。


 日が傾き空を赤く染める頃になると、会場入りする馬車が到着し始め警備も慌ただしくなってきた。

「第十七小隊は次の馬車の確認と警護だ!」

 ギリューネクの指示が飛ぶ。

 そこに二台の馬車が連なるようにやってきた。側面に描かれた家紋は同じ。

「うちは何処の家担当?」

 何か失態を演じれば、貴族相手だけにどうなるか分からない。戦々恐々といった様子でビスカーラが震えた声を出す。

 その馬車の家紋、ラーソルバールには見慣れたものだった。

「何の悪戯かな。デラネトゥス家だ……」

 ラーソルバールはぼそりと呟いた。

「デラ……」

 家名を聞いても特に動じる様子もないルガートに対し、ビスカーラは言葉を詰まらせ震えあがるように身を強張らせた。公爵家の名前くらいはビスカーラでも知っている。公爵家といえば王族を除けば最も身分が高いという認識があるだけに、緊張で手足がまともに動かなくなる。

「大丈夫です。何かあっても責任は私が持つので」

 ラーソルバールは苦笑いしながら、年長の部下に微笑みかける。

 知己にある家という甘えから言っている訳ではない。デラネトゥス家の人々が理不尽な事をするはずが無く、失態が有ったとしても順序立てて説明すれば分かって貰えると信頼しているからだ。

「そうそう、公爵家と隊長は仲良しらしいからね」

 ラーソルバールの考えを知ってか知らずか、ルガートが茶化すように続ける。

 それでビスカーラの緊張がほぐれるならそれでもいいか、とラーソルバールはルガートの言葉を否定しないでおく。

 第十七小隊の面々が様々な思いを抱えつつ待ち構える中、馬車はゆっくりと速度を落とし、そして停車した。

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