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聖と魔の名を持つ者~剣を手にした少女は、やがて国を守る最強の騎士となる/ラーソルバール・ミルエルシ物語~  作者: 草沢一臨
第三部 : 第三十八章 新人隊長

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(三)剣に誓って①

(三)


 何故このような状況になったのだろうか。緊張で膝の上に置いた拳に汗が滲む。

 ラーソルバールはサンドワーズと共に、レンドバールの第二王子リファールと向かい合うように座っていた。

「実直な人柄として知られるサンドワーズ殿の申し出という事で、有難く警護の件を受けさせて貰ったが、話を知っているのはここにいるグロワルド……軍務大臣と、その息子レイファンだけだ」

 軍務大臣の息子というのが、ラーソルバール達をここまで案内した男だ。彼は大臣の後ろに立ち、ラーソルバール達の動きを監視しているようにも見える。

「我々の存在は秘匿されているという事ですか?」

「そういう事になるな、まあ、こちらにも色々と事情が有ってな」

 リファールは二人を前に足を組み、くつろいでいるように見せてはいるが、心中穏やかではないのだろう。

 自国の護衛を完全に使用している訳ではないというのは、ヴァストール側の護衛を受け入れた事と、レンドバール側の人間にも知られないように緊急避難経路から招き入れ、一部の人間しかそれを知らないという事実からも察する事ができる。

「君達の部屋は、この部屋の隣の隠し部屋だ。夕食は部屋に用意させてある。レイファンが待ちで買ってきた物で、毒は入れていないから安心していい」

 一食抜いたところで大きな支障が出るわけではないが、用意されているというのであれば、断る理由も無い。もし毒が盛られていたとしても、それと分かっていれば検知する方法は騎士学校で学んでいるので対処はできるつもりだが。

「では、ミルエルシ殿もよろしく頼む」

 王子がそう言ってわずかに頭を下げたので、ラーソルバールは驚いた。

「わ……私などを信用していただき、有難う御座います。剣に誓って信頼に応えられるよう、努力いたします」

 戸惑いながらも慌てて頭を深々と下げたため、居合わせたレンドバールの三人には安堵したような笑みが漏れ、少しだけ部屋の雰囲気が軽く感じられるようになった。

「何なら貴女が私の部屋で警護してくれても構わないが」

 王子の本気とも冗談ともつかぬ言葉に、ラーソルバールは小さく「いえ、隣室で待機させていただきます」と答える事しかできなかった。


 その後、与えられた部屋にサンドワーズとともに移動すると、沈黙の時間が始まった。

 窓の無い小さな部屋だけに周囲の変化も感じられず、時折何かの物音が聞こえてくるのみ。テーブルには用意された食事があるのみで、本などがある訳でもない。

 時間の流も分からないような、世界から隔絶したような空間だけに、何をして時間を潰せば良いのだろうかと悩ましく思えた。

 サンドワーズは元々が寡黙な事で知られる人物だけに、二人だけの空間での時間は、ラーソルバールにとっては苦痛でしかない。

「あの……」

「ん?」

 耐え切れず、ラーソルバールは周囲の部屋に漏れぬよう、小声で話を切り出した。

「警護は、私とサンドワーズ団長の二人……ですか?」

「二人も三人も大差ないだろう? 人員の選択や都合をつけるのも面倒だったからな。それに君の剣の腕はカラール砦の戦いを見ずとも、武技大会を見て良く知っているつもりだ」

「え……?」

 小声での会話だったが、意外な発言にラーソルバールは驚き、危うく大きな声を出すところだった。

「何か変な事を言ったか?」

「……いえ、何でもありません」

 誤魔化すようにテーブルの上に置かれたパンに手を伸ばす。

 それから幾度、会話と沈黙を繰り返しただろうか。この時間がいつまで続くのだろうか、そう思えてきた時だった。

 部屋に隣接する場所から数人の足音が聞こえた。気配を消そうとして消しきれないといったようにも取れる。

 現在の部屋の配置からすると、廊下に面した側だ。グロワルド大臣は、王子の居る部屋の接するこの区画は緊急時以外の立ち入りを禁じている、と話していたはず。であれば、誰が来たのか。

 この隠し扉の向こうに居るのは王子リファールだけ。自身でも剣を使えるという話らしいが、それもどの程度の実力なのか、測る機会も無かった。

 ラーソルバールが静かに剣に手をかけるのと同時に、サンドワーズも動いている。ちらりと視線を送ると、それに応えるように僅かに頭部が縦に揺れた。


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