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聖と魔の名を持つ者~剣を手にした少女は、やがて国を守る最強の騎士となる/ラーソルバール・ミルエルシ物語~  作者: 草沢一臨
第三部 : 第三十八章 新人隊長

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(二)交錯する思惑③

 サンドワーズは戻ってくるなり、ラーソルバールの顔をちらりと見遣るとすぐに大使館の中へと消えた。

 何か書類を手にしていたようにも見えたので、軍務省での話はついたのだろう。次はレンドバールとの交渉になる。

 ただ小隊長という立場上、ラーソルバールはレンドバール側との話し合いにまで首を突っ込むわけにはいかない。サンドワーズが交渉を終えて出てくるのを待つしかなかった。

 サンドワーズが大使館に消えてから半刻を過ぎた頃、彼は何事も無かったかのように戻ってきたものの、ラーソルバールと視線を合わせる事も無く周辺警備に戻っていった。

(交渉がまとまらなかったという事かな……)

 要人の身辺警護を、敵国だった人間に任せるなどというのは所詮は無理な話だ。それも相手側からの打診であれば、警戒するのも当然の事だろう。

 少々落胆したが、まずは自らの任務を全うしなくてはならないと頭を切り替え、集中力を切らさずに警備に没頭した。


 七つの鐘が響いて交代時間を迎えたが、既に陽は沈み空は暗くなっており街灯には火が点されている。任務を引き継ぐ騎士達もランタンを手に、挨拶を交わす。

「お疲れ様でした、ミルエルシ三星官殿!」

 騎士の一人が敬礼をした後、ぺろりと舌を出した。

「あとの警備をよろしくお願いします。ファーラトス一星官」

 形式ばった挨拶をシェラと交わすと、互いに笑い出したいのをこらえながら、わざとらしく握手を交わす。誰も見ていないのであれば、飛びついて抱きつきじゃれ合いたいところなのだが。

「今夜は要注意だよ」

 友の耳元で小さく囁く。

「そうだね、明日の会談を阻止したい人が狙うなら今夜だよね」

 意図を察したように、小さな声で答えが返って来た。ラーソルバールが無言で頷きかけると「夜が貴女だったほうが良かったんじゃない?」という言葉が続いた。

「そこを決めるのは私達じゃないしね。じゃ、責任重大だからね、よろしく」

 そう言ってシェラの不満を封じると、にやりと笑って肩に手を置いた。


「では、第十七小隊は引継ぎを終えた時点で解散します。門前に集合してください」

 翌日はまた朝からの警護が待っている。手早く解散して、翌日に備えなくてはいけない。それぞれが速やかに引継ぎを終え、門の前に集まる。

 サンドワーズとの交替のためにやってきていた第二騎士団長ランドルフに敬礼をし、第十七小隊は解散となった。

 帰路につこうとしたところ、背後から肩を掴まれた。

「ミルエルシ三星官」

 聞き慣れた声ではないが、今日は何度と無くこの落ち着いた声を聞いている。

「サンドワーズ団長……?」

 ラーソルバールが驚いて振り返ると、サンドワーズは自らの口元に人差し指を当てた。何事か理解はできないが、声を出すなと言われている事だけは理解できる。そのまま付いて来いというように手招きをされ、存在感のある大きな背を追っていくと、すぐに人気の無い路地に出た。

 暗く街灯も無い道にも関わらず、サンドワーズのランタンは明かりを最低限にまで絞っており、月と星の明かりを頼りに歩くのと大差ない。

 ラーソルバールが何事かも理解できずに周囲を見回していると、サンドワーズは路地の行き止まりで足を止めた。

「……?」

 サンドワーズはおもむろにしゃがみ込んで地面を手甲で叩くと、金属がぶつかり合う音が小さく足元から響いた。サンドワーズの手元、ランタンの僅かな光に映し出されているのは、雨水用の地中排水路を塞ぐ青銅製の蓋。

 何をしているのだろうかとラーソルバールが見守る中、蓋が内側から持ち上げられ、穴の中から人の頭が現れた。

「どうぞ……」

 中から現れた人物に誘われ、サンドワーズが排水路へと身体を沈める。その体躯が邪魔をして少々窮屈そうに見えたが、間もなく中へと消えた。

 ラーソルバールも理解が追いつかないが、それに続く。


 中に入ると内側から蓋を閉じるよう指示され、二人を追って梯子を降りる。

 広がる暗闇の中、ランタンの明かりに照らされて認識できる空間は小さな路地程度のもの。水音に視線を落とすと、足元一段下にはわずかに水が流れていた。陰湿でカビ臭い空間だが、我慢できないという程のものではない。

 無言で進む先導の人物に続いて歩くと、時折濡れた石畳に足を滑らせそうになる。

「この地中排水路を通って、大使館下に出ます」

 察するに大使館の隠し逃亡路のひとつといったところだろうか。

 そこを案内されるという事は、護衛の件が受け入れられたと考えて良いだろう。しかも、館の入り口からではなく隠し通路からとなると極秘とみていい。だが、先導をするのは大臣でも王子でもない。となると、側近など信用の置ける人間という事になるが。

「着きました」

 案内人は、一つの扉の前で足を止めた。


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