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聖と魔の名を持つ者~剣を手にした少女は、やがて国を守る最強の騎士となる/ラーソルバール・ミルエルシ物語~  作者: 草沢一臨
第三部 : 第三十八章 新人隊長

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(一)小隊の初任務①

(一)


 カラール砦攻防戦から一月が経過し、六月を迎えた。

 正騎士となってまだ二ヶ月。新人の見習い期間中であるにも関わらず、隊長としての仕事も与えられ、何もかもが慣れない中で周囲の支えを頼りに必死にもがきながら続けてきた毎日だった。

 この間に行われた戦勝パーティでは、ラーソルバールは勝利の立役者として否応無く表舞台に引きずり出されたが、当人にとっては百害有って一利なし。さんざん挨拶回りをさせられて、苦労ばかりで何も良い事のない一日だったと、疲れ切った表情でエレノールに愚痴る結果に終わった。


 懸念事項だったルガート・ティリクスだが、意外にも大きな問題を起こす事無くここまできている。

 ある程度はラーソルバールの言葉に従っていたため、大事にならなかっただけで、小隊内の不和に繋がりかねない言動や行動は何度もあった。

 だが命令に従ったとは言え、決してラーソルバール自身を認めたわけではない。男爵家の娘であり自身も男爵位を持っていて、父は王太子の剣術の師でもある。そういった権威に対して頭を下げているだけというのは態度に出ており、改善があるようには見えなかった。


 六月二日、大隊長の執務室に呼ばれていたラーソルバールは、戻ってくるなり訓練を行っていた小隊の面々を呼び集めた。

「明後日にレンドバールの王族と大臣が、戦後交渉のために我が国にやって来るというのは聞いていると思いますが、我々第二騎士団は第一騎士団と共に、王宮と王都内での要人警護の任に当たることになりました」

「我々がレンドバール側の警護をするのですか?」

 ビスカーラが表情を曇らせた。

 先日剣を交えたばかりの国だけに、思うところが有るのは仕方の無い事だろう。

「敗戦国側が多数の人員を伴ってやって来れば、何か問題を起こすつもりかと思われかねません。百名程度の護衛は連れてきているそうですが、半数は王都の外に留め置かれ、半数は武装解除のうえ用意された邸宅で待機となるという事です。とはいえ、他国の要人を無防備な状態で行動させる訳にもいがないので、監視も兼ねて護衛するという事でしょう」

「で、我々は何をするんです?」

 軽い口調で表情を変えずにルガートは尋ねた。

 ラーソルバールの反応を見ようというつもりなのか。腕を組み、隊長である年下の小娘を見下ろす。不遜な態度ではあるが、ラーソルバールとしてもいちいち相手にしていられない。

「先程の連絡事項はそこまででした。各小隊の担当は明日発表されるという事なのでその時に連絡しますが、武器や防具など装備品の手入れは十分にして置いてください。また、携行品の確認も怠らないように、今から点検を行ってください」

 ルガートの意図を無視するかのように、視線を外し事務的な対応に終始する。

 だが、これではギリューネクのやってきた事と変わらないのではないか、改善しなければいけない。ラーソルバールは部屋に戻っていく隊員の背を見ながら小さくため息をついた。


 翌日、予定通りに各小隊の担当任務が発表されたが、その内容はあまりにも想定外なものだった。

「私達が王族の警護……ですか?」

 ラーソルバールの口から伝えられた言葉が信じられないとばかりに、ビスカーラは聞き返した。肯定するように無言で頷く年下の上司を見て、ビスカーラは大きくため息をついた。

「美人なお姫様の警護とかなら喜んで承りますけどね」

 ルガートの言葉に、ドゥーは眉をしかめた。一つ年上で階級的にも上に当たる相手だけに、彼も注意できない。

「ティリクス二星官、他国の王族とは言え不敬にあたるような言動は控えてください」

「はいはい」

 ラーソルバールに咎められても悪びれる事もない。それうした態度は彼が配属されてから全く変わっていない。改善をしたいと思うが、まずは目の前の任務に集中しなくてはいけない。

「明日の朝ここに集合してから、第一騎士団十六小隊と一緒に王都西大門へと向かいます。そこで警護対象を迎えてからが任務開始となりますが、第一騎士団のサンドワーズ団長も同行されるそうですので、気を引き締めて行動をするようにしてください」

 小隊の面々の嫌そうな顔を見ながら、ラーソルバールは平静を装ったが、内心は同じような心境だった。解散指示を出して訓練に戻らせると、自身はため息をついて椅子に腰掛けた。


 戦勝の立役者として持ち上げられた人間を敵国の要人警護につけるなど、相手を刺激しかねないだけに、何か思惑があるとしか考えられない。となれば裏で軍務大臣あたりが糸を引いているのだろうか。

 いつもよりも更に座り心地の悪い椅子にもたれかかると、渡された指令書を破り捨てたいという気持ちを抑えつつ、投げ込むように机の引き出しに片付けた。


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