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聖と魔の名を持つ者~剣を手にした少女は、やがて国を守る最強の騎士となる/ラーソルバール・ミルエルシ物語~  作者: 草沢一臨
第三部 : 第三十七章 ヴァストール王国と英雄

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(四)ラーソルバールと小隊①

(四)


 五月八日、予定通り王宮へと出向き、男爵に叙される事となったラーソルバール。

 この陞爵が他の貴族に与える印象がどのようなものかという点はさておき、大臣に味方も居り、国王がラーソルバールに持つ印象も悪くない。おかげでこの日の謁見自体は和やかな雰囲気のまま無難に終えることが出来た。

 だが実際は、前回のように隣にエラゼルが居る訳でもなく、全て一人で応対しなくてはならなかったのが精神的に辛かったと、後に友人に漏らしている。

 そして、加増される事になった新領地はというと……。事前に決定していたようで、ラーソルバールの予想を寸分も裏切ることなく、イスマイア地区中央部が与えられたのだった。


 ラーソルバールは王宮からの帰りの馬車にふらふらと乗り込むと、座席に腰掛けてから、一仕事終えたというように大きく息を吐いた。

「お疲れ様でした」

 王宮まで随伴してきたエレノールは、戻ってきた主人の顔を見て苦笑いをしながら声を掛けた。

「うん、ようやく終わった」

 馬車の中、誰に聞かれることも無い。素直に心境を吐露した。

 今日の出来事で自分は王太子の婚約者候補からは外れただろうと、ラーソルバールは考えている。戦場で敵将を斬り、爵位を自分の力で手に入れるような娘を、将来の王妃に据えるような真似はしないだろう。それよりは騎士として飼っていた方が良いという算段になるはず。

 もっとも、それさえも加点とするような考え方であれば、逆に一番手に躍り出たかもしれないが、それは無いと信じたいところだ。

「なるようになるか……」

 馬車に揺られながら、運命に弄ばれるかのような己の未来を思い、小さくつぶやいた。


 午後にはラーソルバールが男爵に叙された旨が王都に掲示された。これで国内での知名度は否が応でも増すことになり、英雄や聖女と呼ばれる機会は増えていくことだろう。

 国としても救国の英雄という有効な手札を活用しない手は無い。今後、何かにつけて行事に引っ張り出されるに違いない。

 本人が望んで手にした地位ではないにせよ、当然それが気に入らない者も出てくる。持て囃される反面、成り上がり者よと言われるのは覚悟しなければならない。

 ラーソルバールにしてみれば、どちらも有り難くはないが、双方に気を使いつつ折り合いをどうつけていくのか。今後はただ流されているだけ、という訳にはいかなくなると腹を括るしかなかった。


 夕方にはどこから情報を仕入れたのか、屋敷を遠巻きに伺う人物が現れ始め、屋敷の警護兵が牽制する様子が窓から見えた。

 警護兵は国から十日間という約束で貸し出されている。その間に、雇用を決めてしまわなければならない。

「先程、人員を斡旋して貰うよう商人に依頼を出しておきましたので、警備の方はすぐに決まると思います。侍女や執事の方も手配しますが、そちらは人選も必要ですから少々お時間が掛かるかもしれません」

 今日まで待ったのは「男爵」として募集をかけるという意図が有ったためだ。準男爵という肩書きで行うのとでは商人の対応も異なってくる。

「面接、苦手なんだよね……」

 任せきりにならないよう、自分でやるべき事はやっていかないといけないが、元来人付き合いが得意ではないラーソルバールにとって、面接もまた気の重い仕事だ。

「お嬢様が面接をしたら、男性は大変ですよ……」

「ん?」

 エレノールがぼそりと漏らした言葉が聞き取れなかったようで、ラーソルバールは小さく首を傾げた。

「いえ、お嬢様はお美しくなられたな、と思いまして。初めてお会いした頃は、まだ少女のあどけなさが残っておいででしたが……」

「二年ならそんなに変わらないでしょう? エレノールさんがしっかりと化粧を施してくれたおかげでそう見えるだけです」

 照れながらも否定する。

「いえ、普段のお顔も素敵ですが、王宮に入られる時の立ち居振る舞いや、その表情までもが洗練されていました。凛々しくもあり、淑やかでもあり、私はとても誇らしく、嬉しくなりました」

 いくら何でもおだて過ぎだ。ラーソルバールは恥ずかしさに頬を染めエレノールに背を向けた。


 翌日、騎士団本部に向かったラーソルバールは掲示されていた意外な人事に驚きを隠せなかった。

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