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聖と魔の名を持つ者~剣を手にした少女は、やがて国を守る最強の騎士となる/ラーソルバール・ミルエルシ物語~  作者: 草沢一臨
第三部 : 第三十五章 出陣

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(一)出征②

「何を申し上げても無駄だという事は分かりました。それでも騎士として、国と国民、そして仲間を守る為、言わなければならない時には言わせて頂きます」

 例え憎まれようとも、自分は騎士なのだから。

 母と約束したからだけではない、自分の後ろには守らなければいけない人たちも居るという、責任を認識している。無駄だと分かっていても、逃げるわけにはいかないのだ。

 ラーソルバールは真っ直ぐにギリューネクを見詰め、そして頭を下げた。

「勝手にしろ」

 自らを見詰める瞳に気圧されたのか、ギリューネクは言葉みじかに答え、顔を背けた。

「先程、一月官殿が言った通り、今日はここで解散だ」

 わずかに間を置いて、ばつが悪そうにギリューネクは言葉を捻り出した。

「明日には物資が入った荷袋が届く。最低限必要な物を揃えてそこに入れろ。非常用として荷袋に保存食が二食分入ってくるはずだが、通常の食料は補給部隊が運ぶので心配するな。それから、言うまでも無いが、武器防具は特別な許可が無い限り、騎士団制式のものを使用するように」

「はい!」

 一同が声を揃えて応える。

「最後に、戦場に出れば何があるか分からんから、王都を発つ前までに友人、家族にしっかり挨拶をしておくように」

 その一言で、戦場に向かうのだと実感する。友と帝国への旅をしていなければ、その恐怖に震えていたかもしれない。

 命のやり取りをする場面が有ったとはいえ、それは小規模なもの。大軍同士が激突する戦場で、そんな小さな経験が役に立つとは思えないが、無いよりはましだと心に言い聞かせる。

「では、解散!」

 全員が敬礼をし、散会する。


 着用していた訓練用の防具を脱いで棚に戻すと、僅かに手が震えた。

 次に纏うのは、実戦用の鎧。その姿に憧れていたとはいえ、戦争に向かうのだと思うとやはり素直に喜べない。

「さて、いつ皆に会おうかな」

 誰にも聞こえないように、ラーソルバールはぼそりとつぶやいた。


 帰り際、騎士団本部の門の近くにシェラの姿が有った。

 思うところは同じなのだろう、フォルテシアらもその傍らに居る。

「ラーソルこっちこっち!」

 大きな声でシェラに呼ばれ、やや恥ずかしさに顔を染めながら、仲間のもとへと駆け寄る。

「みんな揃ってるね!」

「貴女が一番最後だよ」

 エミーナが笑った。その笑顔もどことなくぎこちない。

「よし、全員の顔を見た。ここからは女性だけの話になりそうだから、俺は帰るよ」

 ガイザは寂しげな笑みを浮かべると、小さく手を振った。

「大丈夫! みんな無事に帰ってくるから!」

 心配させないよう、ラーソルバールは精一杯の笑顔で応え、手を振り返す。

「そうそう、戦女神がついてるから」

「ああ、そういや、そんな呼び名がついてたんだっけ」

 シェラが隣で悪戯っぽい笑みを浮かべつつからかうと、その言葉にミリエルが失笑した。騎士学校時代、ひとりクラスが異なったミリエルは、噂程度にしかその呼び名を聞いていなかったからだ。

「じゃあ、エラゼル嬢によろしくな!」

 女性陣のやりとりに苦笑いすると、ガイザは背を向け帰っていった。


 エラゼルの帰宅時を狙おうと、五人は修学院へと向かう。

 その道すがら、出兵に関する話になる。とは言え、周囲に聞こえては困るので、誰かとすれ違う折には、声を小さくするなどの配慮は欠かさない。

「今回の戦争だけど、魔法院や、救護院も動員されるんでしょ?」

 周囲を見つつ、シェラが仲間内にだけ聞こえるような声で尋ねる。

「うん、きっと動くだろうね。その話は出なかったけど」

 相手方の魔法戦力に対抗する手段は必要だし、怪我人への対処も必要となる。彼らの存在なくして戦争はできないだろう。

 モルアールやディナレスはもう一年間は学生だから、今回戦場に出ることは無いはず。できれば、二人にも会っておきたいが。

 ちらりとフォルテシアを見る。

「うん、モルやディナレスには話しておく」

 意図を察したかのように、彼女は応えた。


 修学院近くにやってくると、丁度帰宅時間となる鐘の音が周囲に響いた。

「半年ほど前なのに、妙に懐かしいね」

 感慨深げにラーソルバールはつぶやいた。

「色々あったけどね。良い事も悪いことも」

「ああ、そういや私、死に掛けたんだった」

 シェラの言葉を受けて、思い出したように眉間にしわを寄せた。

 その様子が可笑しかったのか、シェラとエミーナが笑い出す。無事だった今だからこそ、笑い話で済ませられる出来事だ。当の本人も、思わず釣られて笑いそうになったのだが。

「……エミーナとシェラの笑い声が響いておったぞ。淑女として恥ずかしいと思わんのか?」

 門から現れたエラゼルは開口一番、苦言を呈した。


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