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聖と魔の名を持つ者~剣を手にした少女は、やがて国を守る最強の騎士となる/ラーソルバール・ミルエルシ物語~  作者: 草沢一臨
第三部 : 第三十四章 背負う責任

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(二)編成①

(二)


 騎士団についての説明を聞かされたあと、部屋に入ってきたのは、オリウス・ランドルフ第二騎士団長だった。

「よし、面倒臭い説明は終わりだ。これからは、俺の話だ。知っている者も居るかと思うが、俺は第二騎士団の団長、オリウス・ランドルフだ。今後、第二騎士団所属として、皆には頑張ってもらいたい。それでだ……」

 ランドルフはわざとらしく咳払いを挟むと、ちらりと視線を動かした。

「まず、新人のお前さん達の中に例外が一人混じっているが、言わなくても誰のことだか分かるな?」

 ランドルフの言葉に、室内が笑いに包まれる。

「通常、新人は一星官なんだが、一人だけ二星官がいる。そいつには軍務省の方で借りがあって、人格や成績も含めて二星官で問題ないと判断されての事なんだそうだ。まあ、それについて文句がある奴は、この中に居るとは思えないが……」

 確認するように、そこで言葉を止めた。


 同期の騎士学校出身者の中で、好き嫌いこそあれ、ラーソルバールの実力に対して疑念を抱く者は居ない。

 騎士学校に入学した当初は、入学試験の結果に関して懐疑的だったり批判的な態度を取る者も居た。元々、高位の貴族の子女にそうした傾向が強かったが、身分の上下関係なく寄り添うエラゼルの存在や、ラーソルバール本人の実力を幾度となく目の前で見せ付けられ、次第にそうした態度を取る者がいなくなっていった。


 ランドルフは室内にいる新人を見回したが、一人不満げな顔を浮かべている者を除いては、誰も気にしている様子もなかった。

「よし、不満があるのは、本人だけのようだから、次の話だ」

 ランドルフが思いの外すっぱりと話を切り上げたので、あちこちから笑い声が聞こえた。

「ここからはちょっと厄介な話だ。ある事情があって、我々は特に部隊編成を急がにゃならん。各小隊への割り振りが決まっているので、これから読み上げる。指示に従って、各部隊の部屋へ行き、小隊長や中隊長との顔合わせをしておくように。以上だ」

 先程まで騎士団についての説明をしていた担当者が、再び名前を読み上げ始めた。それを確認すると、ランドルフはラーソルバールに目配せをして手招きをする。

 変に特別扱いされると困ると思ったが、上司に対して渋い顔を続ける訳にも行かず、面従腹背で立ち上がって、ランドルフのもとへ歩み寄る。

「あー、続けててくれ。デオール、ちょっとミルエルシ二星官を借りるぞ」

 そう言うと、ランドルフは着いて来いと言わんばかりに、顎で合図する。


 隣の部屋に移動すると、ラーソルバールは促されるままにソファに腰掛ける。

「ミルエルシ嬢……いや二星官。こうやって話すのは、あの時以来か?」

 わざわざ言い直し、記憶を手繰り寄せるように少し首を捻る。

「ランドルフ団長と直接お話させて頂くのは、入学試験の時以来かと思います」

「あの後、お前さんとは、もう二度と剣で戦うものかと思ったものだ……」

 ランドルフは愉快そうに笑う、あの日、剣を交えた時の屈託の無い笑顔が思い起こされる。

「ああ、すまんな。昔話をするつもりで呼んだんじゃない」

 そう言ったランドルフの顔から笑みが消え、その表情は険しいものに変わる。いつもの豪快さは影を潜め、鋭い眼光がラーソルバールに向けられた。

 自分を威圧するためのものではないことはラーソルバールも理解しているが、さすがに団長ともなると、それだけでも射すくめられそうになる。

「部隊編成を急ぐ理由を、お前さんにも伝えておけと軍務省から言われていてな……」

「……はぁ」

 何故、騎士団長自ら伝える必要があるのか。ラーソルバールにはその意図が理解できす、曖昧な返事を返してしまった。

「そう不思議そうな顔をするな。理由は至極簡単だ。近々、我が国はレンドバール王国と一戦交える事になりそうだ」

「はい」

 平然と答えるラーソルバールに拍子抜けしたように、ランドルフは苦笑いをする。

「……驚かんのか?」

「はい、想定のうちですが……」

 国内事情をただの一騎士である自分に、こんな重要情報を伝えるよう働きかけがあったとすると、軍務省の意向というよりジャハネートや軍務大臣が絡んでいるということだろう。ただの小娘を何故巻き込もうとするのか。その手回しの良さに呆れなくもない。

「お話しから察するに、喫緊の問題ということですね。早くてひと月以内……そして第二騎士団も迎撃の任に当たるという事ですか?」

 昨年八月の地震発生後、半年から一年と見積もったが、まさに事態は深刻なところまで来ていた。


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