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聖と魔の名を持つ者~剣を手にした少女は、やがて国を守る最強の騎士となる/ラーソルバール・ミルエルシ物語~  作者: 草沢一臨
第二部 : 第三十三章 その手に掴むのは

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(四)羽ばたくとき②

 続いて宰相メッサーハイト公爵と軍務大臣ナスターク侯爵が順に祝いの言葉を述べた。昨年の事件については、軽く触れる程度で済ませたのは、当事者と責任者という立場上あまり話したくない事だったのか、それは誰にも分からない。


「卒業生代表、ラーソルバール・ミルエルシ、前へ」

 一年生の送辞の言葉を受けて、卒業生としての一番の大役がやってきた。

 ラーソルバールは大きく深呼吸をすると、隣でにやにやと笑うエラゼルを軽く睨んでから歩き出す。


 同じ側の手足が同時に出るのではないかと自ら危惧する程、緊張しながら歩みを進める。ふと視線を上げると、ジャハネートが楽しそうにこちらを見やる姿と、心配そうに見詰めるナスターク侯爵の姿が目に入った。

(お二方に恥ずかしい姿を見せる訳にはいかないな……失敗しても命を取られる訳でも無いし、覚悟を決めようか)

 気持ちを切り替えると、周囲が少しだけ見えた。

(ああ、大講堂の壁の穴は、その痕跡も残さず直されている。過去に囚われてばかりでは前に進めないという事かな……)

 所定の場所へ到着して足を止めると、大きく息を吸った。

「私達、二年生は本日をもって、卒業致します。希望を持って入学してより二年、数多の教えを頂き、ようやく騎士となる資格を得て一歩前へと踏み出すことが出来ます。共に学び、共に戦い、訓練の剣を交えた友たちとここで一旦別れを迎えますが、異なる騎士団、異なる進路、ほんの少し違う道を歩くだけで、歩む方向も辿り着く先もきっと同じ、このヴァストール王国のため、国民のためであると信じています」

 一瞬、エラゼルの顔が脳裏に浮かぶ。そしてエラゼル意外にも、止むを得ず騎士となる道を捨てる者も居るだろう。これから違う道を歩むとしても、自分達は一緒だ。その思いは伝えたい。

「今まで、私達を指導して下さった教師、教官の皆様に感謝をすると共に、この二年間を無駄にしない事をここに誓います。そして一年生の皆様も、あと一年の訓練を無事に終えることを願っております。これで二年生代表としての言葉を終えさせて頂きます」

 深々と頭を下げると、式場内に響き渡る程の拍手がラーソルバールに向けられた。

 頭を上げ、ゆっくりと周囲を見渡す。

 共に励んできた仲間達の顔が見える。そのほとんどが、これから共に戦う仲間だ。同じクラスの友、シェラ、フォルテシア、エミーナ、ガイザの顔が見えた。そして、少し寂しそうに笑うエラゼルの姿に、涙が出そうになる。

(まだだ、泣くのはまだだ……)

 拳を握り、涙を堪えると、少しでも凛として見えるよう背筋を伸ばし、靴音を響かせた。そして、エラゼルの待つ場所へと戻る。

「無難に仕事をこなしたな」

 エラゼルが小さな声で迎えた。それが彼女なりの慰労のなのだろう。

 その表情は嬉しそうでもあり、悲しそうでもあり。彼女の手に背中をぽんと叩かれて、堪えていた涙が滲んだ。


「以上で、本年の王国立騎士養成学校の卒業式を終了します!」

 司会の声が響いた。

 誘導員の指示に従い卒業生の退場が始まると、ラーソルバールも胸を張って大講堂の出口へと向かう。

 卒業時のしきたりに従い、途中で式場を彩っていた花の束から一輪を手に取って、胸のポケットに挿してから式場に深々と頭を下げる。これで騎士学校での全ての行事も終わりかと思うと、言い様のない切なさと寂しさが胸に到来し、涙が自然に溢れ出した。

「何だ、泣いているのか?」

 肩を震わせ歩いていると、背後にいるエラゼルからそんな言葉が飛んでくるのではないかと思っていたが、一向にその気配が無い。式場を退場後にちらりと振り返ると、エラゼルを含め、皆が等しく泣いていたので、ラーソルバールは悲しいはずなのに何故か少しだけ笑いたくなった。


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