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聖と魔の名を持つ者~剣を手にした少女は、やがて国を守る最強の騎士となる/ラーソルバール・ミルエルシ物語~  作者: 草沢一臨
第二部 : 第三十三章 その手に掴むのは

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(一)王宮に咲く華③

 城内の時を告げる鐘が鳴り、会場に国王ゼラフィム・ヴァストールの出座が宣言される。国王が静かに登場すると会場が静まり返り、緊張が会場を包む。国王は壇上から周囲を見渡すと、一呼吸おいてから口を開いた。

「昨年は我が国にとって苦難の年であった。帝国の西方戦線の話や、隣国の地震災害後の怪しい動きに関する情報など、国外から聞こえてくるのはどれも耳障りの良い話ではない。国内に目を向ければ、地震の被害や、カレルロッサ動乱による各地の混乱もあった……」

 誰もが国王の言葉に静かに耳を傾け、そしてうなずく。様々な思いを抱えつつ、ただ一点を見つめる。

「……だが、皆の尽力と、国民の力によって復旧が進んでおり、明るい話題も無いわけではない。前年は嫌な年だったからこそ、新しい年は良い事があるようにと皆で願おうではないか。ゆるりと食べて飲んで、英気を養って欲しい。これが国王としての言葉だ」

 挨拶の言葉が終わると、会場は盛大な拍手に包まれた。

 この後、宰相と二人の王子の短い挨拶が終わり、その次に登場した人物に会場から驚きの声が上がる。

「ああ、オリアネーテ様……」

 エラゼルも少し驚いたように声をあげた。

 本来であれば十五歳となった来年の新年会で、社交界にお披露目となるはずだったのだが、ともすれば暗くなりそうな雰囲気を払拭するために、繰上げされたのだろう。

 ラーソルバールは初見だが、恥をかかぬよう名前くらいは覚えている。エラゼルは王家との付き合いも深いため、見知った存在なのだろう。

「可愛らしい方だねぇ」

 誰に言うとも無く、シェラがつぶやいた。

「そうであろう……。意外に活発なところもあるのだが、お優しい方なのだ……」

 妹を見るように目を細めるエラゼルを見て、ラーソルバールは思わず苦笑いする。普段、あまり見ない顔だけに、少しからかいたくなった。

「エラゼルでもそんな顔するんだね」

「……馬鹿にするでない。ほら、ご挨拶だ。静かに聴け」

 気恥ずかしさに少し頬を染めると、悔しそうにラーソルバールの鼻をつまんで誤魔化した。


 一連の挨拶が終わると、演奏が始まり会場は再び賑やかさを取り戻した。

 参加者も歓談し、真偽のしれぬ噂や流行の話で盛り上がる。

 当然、男女の出会いや恋の話もこういった場にはつきもので、話を交えつつ条件の良い縁談を探そうとする者、目の色を変えて実際に動き出す者もいた。

 また、顔を売って貴族間の横の繋がりを広げようという者や、水面下での派閥への組み込みを模索する動きも見て取れる。


「さて、今年は隠れている訳にはいかない。ここからは気持ちを切り替えていくぞ」

「そうだねえ。どこかに爵位を賜った人もいるしね」

 二人はラーソルバールの顔を見て、くすくすと笑う。

「他人事のように……」

 憂鬱そうにため息をついた時、ふとシェラの動きが止まった。

「あれ、()()()()つけてないの?」

「ん? なんのことだ?」

 シェラはにやりと笑みを浮かべると、エラゼルにこそこそと耳打ちする。

「ふんふん……なに!」

 アシェルタートの指輪の事を聞かされていなかったエラゼルは、少し驚いたような表情を浮かべたが、良い事を聞いたとばかりに笑った。

「ここにそんな物を着けて来られる訳ないでしょ。帰国してからもずっと箱の中だよ」

「確かにそうだな……、()()というものもある」

 そう言うと、エラゼルは二人が王太子の婚約者候補に選ばれている事を、こっそりと告げる。驚きすぎて何とも言いようのない顔をしたシェラだったが、得心がいったように、大きくうなずいた。

「なるほど、そういう事か。それじゃガイザさんが居たらまずいよね」

 羨むわけでもなく、ただ事実を受け止めるあたりがシェラの無欲さの表れなのだろう。

「お嬢様方、少しよろしいかな?」

 声のする方を振り向くと、そこにはナスターク侯爵が笑顔を浮かべて立っていた。

 三人とも慌てすぎて思わず敬礼しそうになるが、すんでのところで思いとどまり令嬢らしく淑やかに頭を下げる。

「高嶺の花には誰も近寄らないようなので、今のうちにと思って声を掛けました。軍務大臣としてのご挨拶です。昨年は色々と苦労をさせてしまい、本当に申し訳ありませんでした。今年は正式に騎士となられる訳ですから、楽しみにしておりますよ」

 このナスターク侯爵の訪れから、堰を切ったように人々が三人のもとにやってくるようになった。

 遠巻きに見ていた人々も、話し掛ける機会を伺っていたのだろう。その大半が三人を見初めた者達だったが、エラゼルが公爵家の娘と知ると、誰もが及び腰になって去っていった。

「やあ、お久し振り」

 似たようなやり取りに辟易し始めた頃、見知った人物が笑顔を湛えて三人の前に現れた。

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