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聖と魔の名を持つ者~剣を手にした少女は、やがて国を守る最強の騎士となる/ラーソルバール・ミルエルシ物語~  作者: 草沢一臨
第一部 : 第八章 心機一転

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(一)次のステップ②

 騎士学校では、ようやく教育内容が全体的に次の段階に移りつつあった。

 対人戦闘、合同演習に加え、魔法も遂に実践段階に入った。

 ラーソルバールはというと、体内の魔力循環が良化したとはいえ、未だにその扱いに慣れたとは言えず、他人に劣ると言っていい。

 時折、魔法の出力を誤って暴走気味になったりもした。だが、少しずつ改善してきており、本人もそれを実感している。

 オーガの一件で、剣が使えない場合、身一つで対処しなければいけない、ということを痛切に感じた。

 こういった時に有効な魔法を使う事が出来れば、事態を打開できる可能性がある。皮肉にも、これがラーソルバールの意識改革に繋がった。

「少しでも魔法を上手に操る事が出来れば」

 魔力循環の良化と併せ、以前より前向きな気持ちで、魔法という課題に取り組む事が出来るようになっていた。


 授業の最初の魔法は魔力盾シールドである。

 物理的な衝撃を、展開した魔力で吸収、拡散させることにより、損害を減らす魔法だ。

 魔法の詠唱時間などもあり、効果発動までに若干の時間を要するため、使用タイミングが難しい。それでも、激しい戦闘を行う可能性がある騎士団にとっては、非常に重要な魔法のひとつとなっている。

 魔力を前方に展開するのみであれば、案外容易に出来るのだが、それだけでは意味を成さない。

 攻撃が常に前面から来る訳では無い。防御膜を全身に纏わせるようにするのが正しい使用方法、完成形となる。


 本に書いてある魔法の名前を口にするだけで、完全な形で発動するのなら、どんなに楽だろうか。皆、口にはしないが、同じような事を考えていた。

魔力盾シールドと言っただけで魔法が展開できればいいのに」と。

 都合よく行かないが、皆が熱心に練習するのには理由がある。

 魔法の行使自体は使用回数を重ねて熟練度を上げることで、効果も上がる。

 少しずつでも練習することが重要だという認識がある。熟練すると、即時発動で一部分のみ強化という事も出来るようになるらしい。

 相手の攻撃を直前で防ぐということが可能になる訳だが、それはまだ先の話だ。


 神聖魔法の詠唱は、効果発動のイメージ補助、精神集中の役割を持つ。

 精霊達への呼び掛けを行う精霊魔法の場合とは違い、神への呼び掛けを行っている訳ではない。

 詠唱の基本的な部分は同じだが、個人によって内容は若干異なる。それぞれ魔法をイメージしやすいように、アレンジしているからだ。

 誰かにとって有用でも、他者にはそうでない場合が多い。

「エ・ランディオーラ……万物の力に耐えうる、盾を我が身に!」

 ラーソルバールは五度目の挑戦で、ようやく魔力盾の全身への展開を成功させた。

 一安心、というところだが、まだ始まったばかり。上手くいったイメージを忘れないよう練習を続けた。

 慣れない精神集中とイメージ構築を続けたため、ヘトヘトになりつつも何とかこの授業を終えることが出来た。

 ラーソルバールに比べ、シェラやフォルテシアは順調に出来たようだ。

 そこはやはり魔法に対する慣れの違いだろう。

「二人みたいになれたらいいねぇ」

 その言葉にシェラは何も言わず、微笑んで返した。

 魔法に関して、ラーソルバールは自身が他人に比べ、劣っているということは理解している。その言葉は友の姿を羨む意味ではなく、ラーソルバールとしては前向きな発言だったらしい。

 以前とは違う、気持ちの変化がしっかり現れていた。


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