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聖と魔の名を持つ者~剣を手にした少女は、やがて国を守る最強の騎士となる/ラーソルバール・ミルエルシ物語~  作者: 草沢一臨
第二部 : 第三十一章 騎士になる者として

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(四)剣は踊る②

 ラーソルバールの剣が閃き、暗殺者の剣と交錯して高い金属音を奏でる。

「何人を相手にしているんだ?」

 探知(ディテクション)の魔法を使いこなせないモルアールは、姿の見えない相手に何もできないもどかしさを感じ、拳を握り締める。

 ガイザも気配を察して剣を振っているようだが、空を切り影を捉えるには至らない。

「しまった、中にひとり……!」

 剣を振るいながらも、気配を察してラーソルバールが慌てて振り返る。

 その間にも、別の暗殺者の剣が執拗にラーソルバールに襲い掛かり、動く事を許さない。苛立ちに虚空をひと薙ぎして、一歩足を踏み出そうとした瞬間だった。

「問題ない」

 会場内に踏み込んだと思われる暗殺者が、姿を現し、ぐらりと崩れ落ちた。

 そこには純白のドレスに返り血ひとつ浴びることなく、凛と立つエラゼルの姿が有った。

「罠に掛かったとはいえ、復讐にしては手ぬるいな」

 エラゼルが暗殺者を見下ろし、吐き捨てるように言った。

「復讐……だと? 何の事だ……?」

 床に伏したまま、男はエラゼルの顔を見上げる。

「何……? 誰が狙いだ? 何の為に来た!」

 暗殺者を睨みつけ、剣の先を首筋に当てる。

「どうせ……死ぬのだ……。嘘など言ったところで意味は無い……。我々の狙いはお前と、あの赤い服の女だ。俺たちは雇われ、二人が騎士学校以外で揃う今日が狙い目だと言われた。そしてどちらかでも殺せれば良い、とな」

 想定とは別の暗殺者が動いているのか。エラゼルは歯軋りしながら、バルコニーの様子を見る。ラーソルバールの剣が暗殺者の剣と交錯して、幾度と無く火花が散るのが見えた。

(我々二人を狙う、まさかとは思うが……)

 足元の男は警備に当たっていた者達によって取り押さえられたため、エラゼルは剣を男の首元から外し、バルコニーへと歩き出した。


 ラーソルバールは二人の暗殺者を相手にしている。

 その事を自身でも理解している。だが、動かない殺気が他にもあることが気になり、中に入れないよう、牽制しつつ戦っていたため。思い切り剣を振るうことが出来ないでいた。

 だが、エラゼルがやって来て、その近くにジャハネートが居る事も確認した。

「そっちに行ったらよろしくね」

 エラゼルに一瞬視線を送り、ラーソルバールは柄を握り直す。直後、剣が纏う青白い光が、輝きを強める。その光が幻想的にゆらめいた瞬間、ラーソルバールの右斜め上へと、さながら青白い虹を描くが如く閃き、闇を捕らえた。

 ガキッという高い金属音と鈍い音がほぼ同時に響き、暗殺者の一人が脇腹を痛撃されて、闇のベールから引きずり出されるように姿を現し、折れた小剣と共に床に叩き落とされた。

「グァ……」

 剣の背で殴られたにも関わらず、あまりの衝撃に呼吸もままならぬというように、暗殺者の男は悶絶する。

 ラーソルバールはそのまま半歩踏み出すと、左下から剣を振り上げた。片刃の剣の反った切っ先が、闇に紛れていた男の衣服を引っ掛け、その姿を衆目の中に引きずり出した。

「何なんだ、この女は! ただの貴族の娘じゃないのか!」

 欄干に立ち、ラーソルバールを見下ろしながら、暗殺者は恐怖に声を荒げた。

「え……?」

 予期せぬ言葉に、ラーソルバールは一瞬手を止める。

 その隙を突いて逃げようとした暗殺者だったが、モルアールの魔法による網で絡め取られると、そのままバルコニーに引きずり下ろされた。


 何故、復讐に来たはずの者が、自分をただの貴族の娘と言うのか。それが意味するもの。「別の暗殺者が何者かの依頼により、自分達を狙っていた」という答えしか無い。

「我々が死んで利する者が居る、という事だ」

 背後からエラゼルの声がした。

 標的は全く同じでも、別の思惑で動いている。では、その依頼主の意図するところとは……。

「まさか!」

 ラーソルバールはエラゼルをちらりと見やる。

「多分、同じ結論だと思う。だが、その話は後回しだ」

 そうか、無い話ではないなと、ラーソルバールは頷き、小さく息を吐いて月を仰いだ。

 エラゼルは友の無事な様子を見て安堵すると、血の滴る剣をゆっくりと動かして、誰も居ないはずの空を指し示し不敵に笑った。

「さあ、そなたの為に出てきてやったぞ」


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