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聖と魔の名を持つ者~剣を手にした少女は、やがて国を守る最強の騎士となる/ラーソルバール・ミルエルシ物語~  作者: 草沢一臨
第一部 : 第八章 心機一転

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(一)次のステップ①

(一)


 騎士団にもたらされた情報は、安堵していた騎士達を再び悩ませるものだった。

 自分達が退治した怪物が、出現報告のあったものと別の個体だったと言われたのだ。

 倒した個体が、報告のあったものだと思い込んでいた。それは間違いない。

「オーガの娘からか?」

 ある騎士が呟いた。

「オーガの娘」とはラーソルバールの事である。本人にすれば、また不本意な名前をがひとつ増えた訳で、喜ぶべき事ではない。

 正確に言えば「オーガを発見し、報告した娘」なのだが、どうやら面倒だったらしく、騎士達の間ではそのように呼ばれるようになっていたらしい。

 この呼び名が、後日また誤解を生む元になるのだが、それは置く。


 納得のいかない騎士たちだったが、調査を終えて処分直前だった討伐個体を、廃棄場から取り戻し、身体的特徴を再度確認することにした。そして、演習場で発見された足跡との比較を行った。

 結果は、完全な別個体と判明。

 決め手になったのは、足の大きさ。そして付近に落ちていた、人のものではない謎の黒い体毛だった。これが、ラーソルバールの言っていた、「黒い体毛」を持つオーガの存在を裏付ける形になった。

 騎士団は慌てて再調査を行ったが、手掛かりになるものは容易に発見できない。入念に調査し、行方を追ったが、柔らかい土が堆積している地点で足跡は途絶えていた。

 このあと、どこへ行ったのか。

「ここからどう消えた?」

 不自然な途切れ方に、誰もが頭を悩ませた。

 足跡を遡っても、ある地点から突如現れ、しばらく移動した後、突然消えたのではないか、という不自然さだった。

 出現地点、消失地点で共通するのは、付近の植物が不自然な枯れ方をしていた事。

 ここで、騎士団の依頼で調査に随行していた、魔法院の魔術師達が仮説を立てた。

「オーガは(ゲート)を通って現れ、門に入って消えた」

 討伐された個体も、門によって現れたのではないか。

 そう考えた魔術師達が調べたところ、やはり同様に植物が枯れた箇所と、そこから始まる足跡を発見した。

 人為的なものか、時空の歪みか。

 もし、街中に同様の門が出現したとしたら、怪物が街中に放たれて、大惨事になる可能性がある。

 出現条件は……?

 今度は魔術師達が頭を悩ませ始めた。

 門が存在するとしたら、もはや騎士団の手の及ぶ範囲ではない。調査は魔法院に引き継がれる事となった。

 怪物が何処かに消えたのであれば、むしろ騎士団にとっては有難い。あとは消えたあと、出た先が何処なのか。国民に被害が及ぶ場所でなければ良い。他力本願的な結論になるが、どうしようもなかった。

 この一連の出来事は、何を意図したものだったのか。

 まだやる事がある。騎士団や魔法院だけでなく、国として調査をしなければならない。たかがオーガ一匹、では済まされない状況になりつつあった。


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