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聖と魔の名を持つ者~剣を手にした少女は、やがて国を守る最強の騎士となる/ラーソルバール・ミルエルシ物語~  作者: 草沢一臨
第二部 : 第二十九章 歩みは止めず

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(三)再びのガラルドシア②

 ラーソルバール達を応接室で出迎えたのは、濃茶の髪の領主代行とその妹。

「いらっしゃい。皆さん、お久しぶり」

 アシェルタートは優しい微笑みを湛え、両の手を広げた。

「お言葉に甘えて、またやってきてしまいました。ご迷惑をおかけします」

 今にも飛びつきたい衝動を押さえ、ラーソルバールは極めてしとやかに、礼節を欠くことの無いよう気を使いながら、優雅にお辞儀をする。

 アシェルタートの後ろで、エシェスがちょこんと挨拶を返す。その可愛らしさに、思わず笑みがこぼれた。

 すぐにエシェスはきょろきょろと周囲を見回したかと思うと、首を傾げた。

「エリゼスト様はいらっしゃいませんの?」

 エラゼルの不在を確認すると、不思議そうに尋ねる。

「彼女は都合がつかず、来る事ができませんでした」

「そう……、残念ですわ。使用人たちも落胆するでしょうね」

 寂しそうにするエシェスを見かねて、話題を変えようとラーソルバールは頭を巡らせた。

「あ、エシェス様にはお土産を用意しましたので、あとでコッテからお渡ししますね」

「まあ、本当ですか! 何でしょう、楽しみだわ!」

 すぐに機嫌を戻したエシェスの様子に、内心で胸をなでおろすと、アシェルタートの方を向く。

「この度は、予定よりも一日早く来てしまい、申し訳ありません。ご迷惑でしょうから、今日は街の宿に……」

「いや、皆が君たちの来るのを待っていたのだし、早くて何も悪い事は無い。部屋の準備は問題ないし、夕食の用意くらいは何とかなるだろう」

「待ってたのはお兄様ですけどね」

 小さな声でエシェスが付け加え、ラーソルバールに目配せして、にやりと笑う。

 アシェルタートはエシェスを小突くと、ひとつ咳払いをしてから、腰掛けるように促す。


「先日の盗賊退治のおかげで、その類の陳情が減ったので大いに助かっている」

「その割には浮かないお顔ですね」

「……そうか? そんな事はない」

 ラーソルバールの問いをはぐらかすようにアシェルタートは笑って見せた。

 この後、翌日以降の予定について話し合うと、各自が前回と同じ部屋へと移動する事になった。


 応接室から出ると、忙しそうに動く使用人に配慮し、部屋への案内を断る。前回何度も歩いた廊下だけに、部屋へと自然に足が向く。

「さっきの件だけどな」

 部屋に向かう道すがら、モルアールが小声でラーソルバールに話しかける。

「ん?」

「この街の活気が以前ほどじゃない気がしている」

「そうだね、男の人が少なくなった気がした」

 小声で即答したラーソルバールの言葉に、モルアールは少なからず驚いた。

「引きずられてただけじゃないのかよ」

「引きずられてました」

 ちらりと横を見ると、視線に気付いたのかシェラが笑顔で返す。

「その先の話は部屋に行ってからみんなで……」

 口元に指をあて、小さく微笑む。


 武器と防具をマスティオに預けたので、荷物は着替え程度しか持っていない。

 ラーソルバールは荷物を放り投げると、ベッドに転がりたいのを我慢して、椅子に腰掛ける。

「ふぅ……」

 やっと一息つける、そう思うと身体の力が抜けた。

 本当ならば、今すぐにでもアシェルタートの側に行って、色々と話したい。その瞳を見ていたい、けれど……。

 ままならぬ恋にひとりため息をつく。

 そして窓の外に視線を向けたとき、扉を叩く音に反応する。

「どうぞ」

 声に応えて入ってきたのは、モルアールとシェラだった。

 全員で来なかったのは、伯爵家の人々に疑いをかけられないようという配慮だろうか。

「モルアール、遮音できる?」

「あいよ」

 モルアールは要求に応えるように、詠唱を始めると、即座に遮音魔法の力を発動させた。

「ありがとう。これで話ができる」

「四半刻程度のもんだから、早めに済ませてくれ」

「なに? 何の話?」

 モルアールに呼ばれて来ただけなのだろう、状況を理解できずにシェラは首を傾げた。


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