表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖と魔の名を持つ者~剣を手にした少女は、やがて国を守る最強の騎士となる/ラーソルバール・ミルエルシ物語~  作者: 草沢一臨
第二部 : 第二十八章 行いと見返り

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

283/589

(三)手招き②

 治癒を終えた後も、ラーソルバールの意識は戻っていない。

 それをメサイナの口から聞いたエラゼルは、席を立つと今にも掴みかかりそうな勢いで駆け寄った。

「助かると……大丈夫だと、そう仰ったではありませんか!」

 明らかに冷静さを欠いたエラゼルの態度に、王太子は驚いた。あの何事にも動じないようなエラゼルが、これ程取り乱す事があるのかと。ファルデリアナに視線をやると、彼女も同じように驚いたような表情を浮かべていた。

 ひとり冷静に座っているクレストは、エラゼルを優しい瞳で見つめ、成り行きを見守っていた。


「申し上げた通り、命に別状はありません。ですが、意識が戻らない理由はまだ分かっておりません。魔法が精神に大きく影響するものであったとは思えませんし、それ以外だとすると、それは呪いの範疇です。私共の手に負えるところではありません」

「呪い……?」

「仮定の話です。実際に、彼女の体からは呪詛の反応はありません。ですから、恐らく魔法による一過性のショック症状が出ているだけではないかと、推察いたします。二日程度あれば目が覚めると思いますが……」

 やるせなさに体を震わせ、エラゼルがメサイナを問い詰めようとした時だった。

「では……娘はもう命の心配はなく、あとは目が覚めるのを待てば良い、ということですね」

 クレストの言葉がエラゼルに先んじた。

 それは穏やかな声。皆を落ち着かせるため、肉親である者が、務めてそう振舞う必要があると感じたからに他ならない。

「はい……仰る通りです。彼女のお父上……ミルエルシ男爵様……ですか?」

「そうです。では……殿下、そういう事ですので、私はここに残ります。お付き添い頂き、誠に有難うございました」

 クレストは王太子に深々と頭を下げる。

「元気な姿を見たかったが、今日の所は無理そうだな。明日、明後日は登城しなくても良いよう取り計らっておく」

「殿下のお手を煩わせる事になり、申し訳ありません」

「いや、それは気にしなくて良い、当然の事だ。……さて、私が居ては色々と邪魔になるだろうから、引き上げるとしようか……。では、エラゼルとファルデリアナは、私の夕食に付き合ってくれないか?」

 王太子に言われれば、エラゼルもここを離れざるをえない。無論、心配は募るだろうが、思い詰めるようにしているよりは余程良い。エラゼルの性格を見越して、ここに来るまでの間に、もしもの場合を含めてクレストと王太子との間で事前に決めていたことだった。

「……はい」

 うつむき、力無くエラゼルは答えた。

 王太子は立ち上がると、ファルデリアナに目配せをする。エラゼルの横に歩み寄ると、彼女の肩にポンと手を置き、微笑を浮かべた。

「では、いい店を紹介してくれよ」

 エラゼルは無言で頷いた。王族に対して無礼だと分かっていても、この場を離れるという事が素直に受け入れられず、言葉が出てこなかった。

「あとをよろしく頼む」

 頭を下げるメサイナに短く告げると、王太子はファルデリアナを伴い、部屋を出て行った。


「全く……。公爵家の令嬢が二人も居て、供をたったこれだけしか連れてきていないのか?」

「いえ殿下、ここに居るのは全て私の供でございます。単独で来たエラゼルとは違います」

「人件費をかけないのは良い事だがな」

 部屋の外から聞こえる言葉に、クレストは苦笑する。沈んだ雰囲気をなんとかしようとする、いかにも王太子らしい場の作り方だと。

「食事を終えたら戻って参ります」

 弱々しく、涙を堪えるような声でそう告げると、エラゼルはクレストに頭を下げ、二人を追うように扉の向こうへ走っていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ