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聖と魔の名を持つ者~剣を手にした少女は、やがて国を守る最強の騎士となる/ラーソルバール・ミルエルシ物語~  作者: 草沢一臨
第二部 : 第二十七章 違う場所

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(二)エイルディア修学院①

(二)


 四月も終わりを迎える頃、ラーソルバールは休暇を利用してカンフォール村を訪れた。視察を兼ねていたが事前連絡をしていなかったため、突然現れたラーソルバールに村は大騒ぎとなった。

 準男爵に叙されたことを、村人の誰もが知っていたからだ。

 あっという間に「お嬢様来訪」の噂は広がり、夜になる頃には村をあげての盛大な祭りになってしまっていた。その盛り上がり様は「静かで居心地のいい村に帰ってきたつもりなのにな」と、ラーソルバールを苦笑させる程だった。

 輪の中心に座らされて酒の肴にされつつも、我が事のように喜ぶ村人達の姿を見て、嬉しいやら恥ずかしいやらで顔を真っ赤にする。それでも、次々とやってくる村人達に笑顔を向け続けた。

「この村の人間はみんなお嬢様が大好きなんだって、分かってもらえましたか?」

 ターシャが言った。

「うん。私もみんなが大好き」

 ラーソルバールの言葉に、村人から大歓声が上がる。

「お嬢様おめでとうございます!」

 その言葉が、この夜は数え切れぬほど響き、乾杯の掛け声にもなっていった。

 翌朝、村を巡ったが、どこへ行っても飲み続ける者や酔い潰れた者ばかりで、全く視察の意味を成さず、ラーソルバールは苦笑しながらも、平和を喜んだ。

 三日目の朝、王都に戻る際には行商の馬車に無理矢理乗せられ、村人から山のような土産を持たされた。寮に戻った後、その土産を消費するため友の部屋を駆け回ることになったのだが、それは置く。


 ラーソルバールの休暇最終日、騎士学校の同級生らが各地から戻ってきた。怪我をしていた者もいたが、事前情報でも死者が出たという話は出ていない。

 二年生は一度顔を合わせたのち学園交流期間のために、騎士学校からは半分の四クラスが王国立エイルディア修学院に行く事になっている。逆に修学院側からも半数が騎士学校にやってくる予定だ。

 ラーソルバールのクラスは修学院に赴く側に割り振られているが、カンフォール村や、騎士学校がラーソルバールにとっての居場所だとすると、エイルディア修学院は他人の庭と言っても良い。

 不安が無いと言えば、嘘になる。休暇最後の夜、少し憂鬱になりながらベッドに潜り込み、ランタンの火を消した。


「諸君、長きに渡る校外活動お疲れ様でした」

 五月初日、講堂において二年生だけを集めた朝礼で、校長がそう切り出した。

「慌ただしい日程で申し訳無いのですが、明後日からは学園交流期間となります。疲れをとってから、また学問と武の鍛練に励んでください。詳細は、後程配布される資料に書いてあります」

 要点しか言わない、いつもの校長らしさに、忍び笑いがあちこちから聞こえた。

 続いて教官から校外活動の成果の報告と、騎士団からの感謝状の読み上げが行われ、朝礼は終了となった。

 自教室に戻り、配布された資料を眺めながら、エラゼルは眉をしかめる。

「我々は寮から歩いて通うという事で良いのか?」

 教官がまだ教室にやって来ないのを良いことに、前の席に座るラーソルバールを指でつつく。

「ん、そうだね。修学院までは大した距離も無いし、四半刻もかからずに着くでしょ」

「通学途中で面倒な事にでも巻き込まれなければいいが……」

「街中歩くのと変わらないじゃない。心配性だなぁ」

 エラゼルのこの漠然とした不安は、現実のものとなるのだが、それはまた後で触れる。

「……で、向こうに行って何を学ぶのだ?」

 読むのが面倒だとばかりに、ラーソルバールに尋ねる。

「相変わらず、そういう所は横着だね」

「良いではないか。ラーソルバールが居るのだし」

「私は貴女のメイドさん?」

「いや、友だぞ。だから頼っても良いはずだ」

 得意顔のエラゼルに、言い返す気にもならず、ラーソルバールは大きくため息をついた。

「建築・土木学と、農業学だってさ」

 授業科目を聞いて、やる気が無さそうにしていたエラゼルの目が輝く。

「ほう……。馬鹿な貴族の子女が無駄だと斬り捨てそうな授業ではないか」

「どっちも領地の運営に欠かせない知識だし、騎士としても長期に陣を張る時や、戦後収拾や復興に重要になるし、無駄どころか必須だよね」

「それを意図して、わざわざ交流期間中にやるのだろうが、分からん連中も多そうだな……」

 言っている側からエラゼルのやる気が伺える。

「実践授業も有るらしいよ。上級貴族のご令嬢が嫌がりそうだねえ」

 ラーソルバールは楽しそうに笑う。カンフォール村でどちらも多少の経験が有るため、全く気にする様子はない。

「私は気にしないぞ、それも知識のひとつだからな」

 ふふん、とエラゼルは胸を張ってみせた。


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