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聖と魔の名を持つ者~剣を手にした少女は、やがて国を守る最強の騎士となる/ラーソルバール・ミルエルシ物語~  作者: 草沢一臨
第二部 : 第二十五章 任務の終わりと成果

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(三)フォルテシア奔る③

 ラーソルバール達が拘束されてから二刻半が経過した頃、フォルテシアは父の馬に同乗し、ブルテイラの街に到着する。周囲は既に暗くなっており、降り出した雨で雨除けの外套はすっかりと濡れていた。

「身分証明を提示して頂きたい」

 二人は門衛に止められた。

 ダジルは下馬すると、懐から騎士団の身分証明用のプレートを取り出す。

「王国騎士団二月官、クローベルだ。そしてこっちは娘だ」

「失礼致しました、お通り下さい」

 兵士はすごすごと引き下がると、二人を通す。

「待ち合わせは『羊の角』だったな。場所の案内は任せるぞ」

「任せて」

 自信満々に宿まで道案内をする。だが……。

「いえ、仰るような待ち合わせのお客様はいらっしゃいませんし、そのような方々もおいでになっておりません」

 宿屋『羊の角』の受付で、仲間達は宿泊も来訪もしていないと告げられる。

「そんなはずは……」

 そう思いながらも、第二候補の『旅の杖』へと向かう。だが、そこでも答えは同じだった。焦りながらも第三候補に向かうが、またしても結果は同じ。

「おかしい」

 違和感を感じ、父と顔を見合わせるが答えは出ない。道を間違えるはずもないし、追い抜きもしなかった。当然、もう着いていても良い時間だ。

 何か背筋に寒いものを覚えつつ外に出る。雨は次第に強くなり、外套の下の衣服をも濡らす。俯くと髪を濡らした雫が垂れる。

 仲間達が持っていた身分証明はシルネラのものとは言え、正規のものだ。問題はないはず。であれば、門を通った後に何かがあったに違いない。

「父さん、お願い。門まで戻って……」

 娘の切実な声に父は黙って頷く。


 馬に乗り急いで門まで戻ると、近くでまだ開いている店を見つけて飛び込む。何か知っているかもしれないと、一縷の望みをかける。

「いらっしゃい、もう店じまいなんだよ」

 店主は背を向けたまま断りをいれるが、振り返ってみると入ってきた二人連れの一人が騎士団の鎧を身に付けていたので、驚いて背筋を伸ばす。

「な、何かウチの店に問題でも?」

「いや、そうじゃない」

 騎士の言葉に、店主はほっと胸を撫で下ろす。

「すみません、今日の夕方前後、冒険者風の若い一団が前を通りませんでしたか?」

「いや見てな……いや、あれがそうか?」

 フォルテシアの問いに、何かを思い出したように、ボソリと呟く。

「何かあったのですか?」

「探している人達かは分からないが、門衛ともめていた一団がいたな」

「……それで、その人達は?」

 焦りに身を乗り出す。フォルテシアは自分の鼓動が早くなるのを感じた。

「拘束されて、男女別々に連れて行かれたよ。たまにあるんだが……」

 店主は言葉を濁し、視線を外す。

「お嬢さんの知り合いかい?」

 質問をしつつも、店主はそわそわとしながら、近くにあった物を持ち上げて片付ける振りをする。

「はい! 私の大事な友人達です!」

 フォルテシアの言葉に、店主はびくっとする。

 普段のフォルテシアからは想像も出来ない程、焦りを表に出し、今にも泣き出しそうな表情を浮かべる。

「他言しないでくれよ、こっちまで身の危険が及ぶかもしれないからさ。あくまでも噂だけどね……」


 店主の言葉に、顔面蒼白となりながら、フォルテシアは店の外に出る。

「どうしよう……。私に何ができる?」

 隣に立つ父の顔を見るが、首を横に振り困ったような表情を浮かべる。

 フォルテシアの頭には、ただひとつだけ手が浮かんだが、それを頼りにする事が正しいのかと自問する。いや、迷っている暇は無い。少しでも可能性があるなら。

「父さん、まだ門は開いてる。宿舎へ戻ろう!」

 馬は疲れているかもしれないが、無理をしてもらうしかない。二人は馬に飛び乗ると、門を抜け宿舎へと走らせる。

(何とかする!)

 フォルテシアは胸に手を当て、焦りを握りつぶした。


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