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聖と魔の名を持つ者~剣を手にした少女は、やがて国を守る最強の騎士となる/ラーソルバール・ミルエルシ物語~  作者: 草沢一臨
第二部 : 第二十五章 任務の終わりと成果

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(三)フォルテシア奔る①

(三)


 宿舎で朝を迎えると、フォルテシアは部屋の扉を叩く音で目覚めた。ラーソルバールだろうか、それともエラゼルかシェラか。

「はい……」

 半分寝惚けながら返事をする。

「フォルテシア、俺だ」

 その声で眠気が一気に覚める。

「父さん……」

 慌ててベッドから飛び降りると、扉に駆け寄って鍵を開ける。

「よう、久しぶりだな」

 扉を開けた先には一年振りに会う父の姿があった。

「おいおい、父親の前だからって、もう少しマシな格好をして出てきたらどうだ?」

 父の言葉ではっとする。まだ肌寒い季節とは言え、薄い部屋着だけで寝ていた姿そのままで出迎えたのだから、言われて当然だった。

「今、父さんに起こされたから……」

「ははは、昨晩帰ってきてジャハネート様に報告したら、お前が居るって聞いたもんで朝が待ち遠しくってな。朝早くてすまんな」

 豪快に笑う父に、フォルテシアは冷たい視線を投げかける。

「絶対に悪いと思ってないでしょ」

「お、少しは言うようになったな」

 嬉しそうな父の姿に、フォルテシアも思わず笑みを浮かべた。


 少し後、フォルテシアを含め、全員が食堂で当日の予定の話し合いを始めていた。

「今日の予定だけど、デンティーク子爵領の街ブルテイラか、道は違うけど、もうちょっと足を伸ばして王家直轄領のビブリオルにするか」

 本来であれば、前日にでも決めておくべき事などだが、ジャハネートとの夕食が長引いたせいで時間が取れなかったという事情がある。早急に決めて出発したいところであった。

「うーん、なるべく早く王都に戻りたいけど、次の街までは徒歩だからね。ブルテイラに行って、そこから馬車で移動というのがいいな」

 シェラはそう言うと、パンを千切って口に入れる。荷物もあるので、徒歩でそれほど移動距離を増やしたくは無いという思いがある。

「あの……」

 普段はあまり発言をしないフォルテシアが珍しく声を上げたので、皆の視線が集まる。

「父と少し剣の稽古をしていきたい。あとから父の馬で追いかける事にしてもいい?」

 遠慮気味に言うと、フォルテシアは首を傾げて反応を待つ。

「お父様にはもうお会いしたの?」

「うん、さっき部屋に来た。そして剣の腕を見たいと……」

「そっか。久しぶりなんでしょ、ゆっくりしていけばいいよ。んじゃあ、フォルテシアが追いつきやすいように、今日はブルテイラに向かおうか」

 ラーソルバールの言葉にエラゼルが頷く。

「成長を父上に見せてやるがよい」

「ありがとう」

「フォルテシア達をブルテイラの宿で待つとして、まずは出発前に砦の人達に、宿の情報を聞いて決めておかないとね」

 苦労を共にしてきた仲間に、親子の時間を大切にして貰いたいという気持ちは誰もが持っている。特に異論が出る事も無く、行動予定が定まった。安心したように、フォルテシアは嬉しそうな笑顔を浮かべ、仲間に頭を下げた。


 朝食を終えると、宿の情報を聞き込みに砦に出掛ける。砦では候補となる宿をいくつか挙げてくれたうえに、親切に大まかな地図まで書いてもらえた。

 宿舎に戻って、ジャハネートに出発の挨拶と宿泊の礼を済ませると、フォルテシアを残して六人は予定通り先に出発することになった。

「みんな、気をつけてね」

 フォルテシアが父を伴って見送りをする。

「フォルテシアの父、ダジル・クローベルです。娘がお世話になっております。皆さんに色々と話を伺いたいところですが、それは今日の夜にでも」

「はい、ご挨拶を含め、また後程」

 雨雲のようなものが遠くに見え、天候が悪くなりそうなので、挨拶もそこそこに急いで出発する。

「じゃ、ブルテイラの宿……『羊の角』で待ってるね」

「うん、昼過ぎにここを出て追いかける」

 手を振って笑顔で仲間達の出発を見送る娘の姿に、父親は成長のあとを見た。

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