表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖と魔の名を持つ者~剣を手にした少女は、やがて国を守る最強の騎士となる/ラーソルバール・ミルエルシ物語~  作者: 草沢一臨
第二部 : 第二十四章 胸の内にあるもの

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

234/589

(三)小さな晩餐会②

 夕食を終えると、歓談が始まる。

 酔ったボルリッツが身振りを交えつつ、遺跡での出来事を語って見せると、余程興味が有ったのか、エシェスは手を叩いて喜んで聞いていた。

「すみません、少し涼ませて下さい」

 ドレスの生地が厚いのか、場の空気にあてられたか、ラーソルバールは暑さに耐えられず、席を立つ。

「こちらへどうぞ」

 控えていた執事のマスティオが、バルコニーの扉を開け、軽くお辞儀をする。

「有り難うございます」

 マスティオに礼を言うと、ラーソルバールはひとりバルコニーに出る。ひやりとした風が心地よく、後ろ髪を掴んで持ち上げると、うっすらと汗をかいた首筋が冷やされるのを感じる。脚も暑かったが、さすがにスカートを捲り上げるのは憚られるので、そこは我慢するしか無かった。

 視線を落とすと、火を囲んで楽しそうに歌い、踊る人々の姿が目に入った。すると、ラーソルバールに気付いたひとりの幼い少女が、飛び上がるようにして手を振ってみせたので、笑顔で手を振り返す。

「あの子にとって、貴女達は英雄みたいなものでしょうね」

 ふわりと良い香りを風に乗せ、夫人がラーソルバールの横にやって来た。

「オースティア様!」

 ラーソルバールは慌てて頭を下げる。

「気にしないで頂戴」

 部屋からの光が、夫人の穏やかな笑顔を映し出す。

「貴女がたは、ただの冒険者じゃない気がするのよねぇ。特にあの白いドレスの娘さんなんて、隠していても溢れるような気品が有って、立ち居振舞いも絶品。何処かの国のお姫様なんじゃないかと思うわ」

「ふふ、本人はそう言われたら喜ぶと思います」

「でも貴女がお姫様でも、驚きはしないんですけどね。美しくて人を惹き付ける魅力が有って、優しさと強さを兼ね備えたような瞳。あの子が魅せられたのも良く分かるわぁ……」

 面と向かって言われる程、恥ずかしいものはない。ラーソルバールは赤くなってうつむいた。

「貴女はアシェルのことがお嫌い?」

「い、いえ、そんな事は……」

「そうよねえ、貴女がアシェルに向ける瞳は優しかった。まるで……」

 その先は続けず、物思うように視線を外すと、街の灯りを眺める。

「貴女達は何処かの国の貴族のお嬢様で、国を捨てることが出来ない、そんなところかしら?」

「!」

 驚き、一瞬身を固くしたが、夫人は街を眺めたまま、それに気付かないのか、気付かぬ振りをしているのか。

「それは冗談として……貴女にとってここは異国で、仕事のために来ただけ。自分の国は大事ですものね、守るべき物も人も有る」

 言葉が見つからず、黙るしか無かった。取り繕う笑顔の裏を、夫人に見透かされている気がしてならない。

「私はね、あの子達が幸せになってくれれば嬉しい。領主の子なんていう肩書きが邪魔だったら、捨てちゃえばいいのに、と思うの。そうしたら、貴女は受け入れてくれるかしら?」

「それは……」

「こんなご時世だもの、帝国が他国をまた侵略してもおかしくないし、内乱が有って帝国の人間同士が敵になっても不思議じゃない。だから、先の事を気にしていたら何もできなくなってしまうわ」

 夫人は優しい微笑みを浮かべたまま、ラーソルバールを見詰める。これが母親が子を思う顔かと、幼い時に失った母の面影を重ね、暫し沈黙した。

「あら、困らせちゃったかしらね」

「あ、いえ、そういう事では無いのです。幼い時に母を無くして居りまして、少々うらやましいな、と思っただけです」

「ふふ、何ならお義母さんと呼んでも良いのよ。エシェスも喜ぶわ」

 温厚な顔のまま攻めてくる夫人に、押されっぱなしのラーソルバールは、顔は笑顔のまま、心の中で苦笑する。

「貴女がたは、あとどれくらい滞在できる猶予があるの?」

「期限までに報告しなければなりませんので、遅くとも三日後には帰らないと……」

 嘘を言った。報告を早くしたいのは間違いないが、期限にはまだ余裕がある。ただ、国内がどうなっているか、気になって仕方が無かった。

「残念ね、でも帰るまでには貴女の素直な気持ちを伝えてあげてね。……そろそろ、寒くなってきたし戻りましょう」

 夫人は庭に向けて手を振ると、戸惑うラーソルバールの手を引いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ