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聖と魔の名を持つ者~剣を手にした少女は、やがて国を守る最強の騎士となる/ラーソルバール・ミルエルシ物語~  作者: 草沢一臨
第二部 : 第二十四章 胸の内にあるもの

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(二)報告と……①

(二)


 ラーソルバールはガラルドシアの裏路地に立っていた。

 ここは人通りもなく、闇の門が突然出現して、そこから人が現れても誰にも気付かれることはない。それが盗賊がこの場に門石の片割れを置いた理由だろう。

 闇の門は二つの石で機能する。片方の石の有る所から、もう片方の石のある所へと道を開く。実際には道というよりも、まさに門であり、ただ通り抜けるだけで別の場所に移動する事ができるようになっていた。

 石に添えてあった、「ガラルドシア」という紙を信じてモルアールに石を預けたが、大丈夫だと分かっていても、門を通るには勇気が必要だった。

 恐る恐る闇の門を通り抜けた先は、この見知らぬ場所であり、ボルリッツが居なければ人を探して「ここは何処ですか?」と尋ねなければならないところだった。


 全員が通り抜けると、門を一旦閉じて石を回収する。

 まずはルクスフォール邸に報告に戻らなければいけない。

 解放した人々は二十二人。ラーソルバールらを合わせれば三十人にもなるわけで、人通りのあるところでは非常に目立つ。裏通りばかりを通り、なんとか邸宅にたどり着いた。

 邸宅に到着すると、ボルリッツのおかげですんなりと中へと通される。

 執事のマスティオに事情を説明すると、すぐに虜囚だった人々は今後の対応の為に別室に連れて行かれた。

 ラーソルバール達は応接室に通されると、ほとんど待たされる事無く、アシェルタートが現れた。


「お帰りなさいと言いたいところだが、出掛けたばかりだというのに、すぐに戻って来たかと思えば……大勢連れて帰って来て、さらにそのぼろぼろの姿だ。僕には事情が飲み込めないんだが、説明してもらえるかい?」

 ソファに腰を下ろすなり、アシェルタートは半ば呆れ気味に言った。

「申し訳ありません、何から説明して良いやら……」

 ラーソルバールは苦笑いしながら、常闇の森の遺跡で有った事柄を説明する。

 この近隣を荒らし回る盗賊を退治したこと、怪物をも操る()()()()()も併せて成敗したこと、そして盗賊に捕まっていた人達を連れ帰った事を、順を追って説明した。

 信じられないといった表情のアシェルタートだったが、横に座るボルリッツが証人でもある。チラリと様子を伺うが、否定する様子も無い。

「事情は分かったが、『暁の狼』と言えば各地の領主が懸賞金をかけていたはずだ。それはどうする?」

「もし本当にお支払い頂けるのであれば、今日連れてきた方々への生活補償なり、襲撃された地域の為にでもお使い頂ければよろしいかと」

「何も要らないというのか?」

 アシェルタートは驚いたように聞き返す。

「当初からそういうお話だったかと思いますが?」

 ラーソルバールは微笑を浮かべつつ、エラゼルの顔を見る。当然とばかりにエラゼルは、ふんふんと軽く頷く。

「それは有り難いが……、討伐したと各地の領主を納得させるのには、骨が折れそうだな」

 苦笑いしつつ、アシェルタートは背もたれに寄りかかった。

 例え盗賊の死体を見せたとしても、各地の領主が信用するとは限らない。下手をすれば、「ルクスフォールは嘘を言って金をせしめるつもりか」と言われかねない。

「そこでお願いと提案があります」

 反応はラーソルバールの想定していた範囲のもので、当然その対応も用意してあった。

「ん?」

「まずはお願いです。遺跡に宝は有りませんでしたが、盗賊達が略奪した品がまだ遺跡にありますので、その回収。次に盗賊の死体の回収もしくは確認。最後に盗賊に捕まっていた方々の家への帰還援助、または雇用の保障です」

「ふむ、虜囚だった人々の補償は当然約束するが、遺跡まで行って略奪品や死体の回収と言われても、現地まで行くのにもそれなりの労力が必要だが……」

 戸惑いを見せるアシェルタートの横で、事情を知るボルリッツはニヤニヤと笑いを浮かべながら、弟子の反応を楽しんでいる。

「そこは問題ありませんので、方法は後程ご説明します。次に提案の方ですが……、回収した略奪品は明細を付与した上で、信頼できる方を通して国に再分配を依頼してください」

 一瞬、思案するような様子を見せたあと、アシェルタートは納得したように大きく頷いた。

「……ん、なるほど。盗賊を退治したと偽って私財を国に献上する、などという何の利もない事をする訳が無い。略奪品の提出こそが証明だ、という訳だな。明細は横領を無くす役目も果たすという訳か」

 ラーソルバールの顔を見つめ、アシェルタートは笑顔を浮かべた。


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