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聖と魔の名を持つ者~剣を手にした少女は、やがて国を守る最強の騎士となる/ラーソルバール・ミルエルシ物語~  作者: 草沢一臨
第二部 : 第二十四章 胸の内にあるもの

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(一)ひとつの区切り②

 盗賊の行方を追ってひとり離れたボルリッツだったが、探し始めて間もなくその役目を終えることになる。

 盗賊達はいずれも遺跡近くで死亡しており、死因はファタンダールと同様の毒物によるものと思われた。命惜しさに逃げた者達が、自殺などするはずもない。やはり、この場所には誰かが居たのだと、ボルリッツは確信した。

 いとも簡単にファタンダールや盗賊達を毒殺するなど、どのような手を使ったのか。言い知れぬ恐怖に襲われながら、まずは事実を伝えに戻ることを優先する。

「次に生まれるときは、真っ当に生きろよ……。まあ、俺も偉そう言える稼業じゃないがな……」

 死体に背を向けると、剣を鞘に収めた。


 発見した盗賊の小屋を調べながら、ラーソルバールは時折首を傾げていた。

 ファタンダールと盗賊は主従関係にあったのか、それとも共助関係だったのか。

 それを今は知る術は無い。だが、王になると言っていた以上、盗賊を従えていたと見るのが正しいかもしれない。

 では、見返りは何だろう。

 略奪した金の一部を得る事と、護衛、怪物の世話、そして食事の提供といった生活周りだろうか。闇の門に加え、恐らくは魔法や魔法付与物品などを提供していたのだろうが、その割には、得るものが少ない気がしてならない。

 腑に落ちないが、ラーソルバールの想像の範囲は広がらない。

 別の小屋には盗賊の溜め込んだ財宝があった。それは十分な量で、盗賊達が生活していくのに十分な金額は有っただろう。にも関わらず、何故際限なく荒事を行ったのか。

 ファタンダールと併せて考えるならば、国を作るための資金にでもするつもりだったのだろうか。そう考えれば納得も行く。

 日陰者である盗賊にとっても、自由に暮らせるかも知れない楽園を手に入れるという夢が有ったのかもしれない。


 そして最後の小屋の扉を開けた時、ラーソルバールは一瞬動きを止めた。それは盗賊の行いを考慮すれば、想定の範囲内であったが、出来れば無い方が有り難いものだった。

 小屋は牢のように作られており、中には盗賊達に囚われた人々が多数居た。その多くは女子供であり、奴隷とするために攫われて来たであろう事は想像に難くない。

 ラーソルバールは盗賊を討伐したことを告げ、近くに有った鍵で牢の扉を開ける。解放された虜囚は口々に礼を言いつつ外へ出ると、互いに抱き合って等しく喜んだ。

 だが、ここで問題が発生する。

 まずは解放した虜囚を全員を近くの街まで連れて行き、そこから家へと帰らせる必要がある。だが、この人々を連れて常闇の森を横断するのは危険が伴う。そもそも彼らの足では、街までの距離を歩ききれるかさえも怪しい。では、どうやって街まで戻すのか。

 相談した結果、唯一の解決手段を使用する、という結論に至る。それは、闇の門を利用するという事。ラーソルバールとしては、それを使用する事自体に抵抗を感じるが、今回に限っては悩んでいても意味がない。

 門石はファタンダールの落とした物は全て回収したが、盗賊の小屋や、ファタンダールの部屋にはまだ有るはずだ。何処かの街に通じる門石を発見し、その使用方法を調べなくてはならない。

 とすれば、ファタンダールの研究成果を押さえるしかない。

 結論が出たところで探索を続行すべきなのだが、日も暮れて疲労も限界に近く、この日は諦めるしかなかった。


 腹も減っており何か食べたいと思っていたが、夕食を作る気力も無い。

 持ってきた保存食ならば、手間も掛からずに食べられるという話になったが、当然虜囚だった人々の分の食事も用意せねばならず、持って来た量では足りないという結論に至る。

 困り果てていたラーソルバールらを見かねた元虜囚の幾人かが、盗賊達の食事の用意をしていた事もあり、解放の礼にと料理番を申し出てくれたので、食事問題は何とか解決することになった。

 食材は、盗賊の食料庫に有る物で作られる事となったが、料理を担当した女性曰く「食材は残して帰るくらいなら、使い切らないともったいない」との事で、結果的にかなり豪華な料理が作られ、夕食はいつの間にか解放を祝う宴となってしまった。


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