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聖と魔の名を持つ者~剣を手にした少女は、やがて国を守る最強の騎士となる/ラーソルバール・ミルエルシ物語~  作者: 草沢一臨
第二部 : 第二十三章 剣が語るもの

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(三)背負うもの②

 オーガの片腕を使えなくしたものの、それ以外は依然として無傷で、脅威で有り続けている。ラーソルバールは精神を集中し、眼前の敵を睨む。

 オーガは手近に有った大きな石を拾い上げると、軽々と持ち上げラーソルバールに向かって投げつける。

「ちょっ……!」

 投石に反応して避けようとしものの、近距離であった事に加え、速度と石の大きさが災いし、避けきれずに左の肩当てを掠める。鎧が防いだとはいえ、その衝撃は大きく痛みも伴った。

「今回もね、私には背負ってるものが有るんだよ!」

 だから負けられない、倒れる訳にはいかない。ラーソルバールは地を蹴ってオーガに切りかかった。


 周囲に注意を払っていたボルリッツが声を上げた。

「まずいぞ、盗賊共が出てきやがった!」

 度重なる大きな音に気付かぬ筈もなく、盗賊達が各所から現れる。

「奴と盗賊は連携が取れておらんのか?」

 オーガと共に襲いかかる事をしなかったのは、単純に連携が取れていなかったからなのか、オーガを完全に制御出来ておらず、攻撃に巻き込まれる恐れが有ったためか。

 いずれにせよ、目の前のオーガは視界を失い、片足も動かない。距離さえとれば、問題無い。

「少し後退する」

 エラゼルの判断は早かった。

 オーガに止めを刺すのには、まだ時間を要するし、危険が無い訳でもない。それならば、視界を失ったオーガを障害物として残しておけば良い。

 近くを通る者を、少しは排除してくれるかもしれないし、盗賊がオーガに止めを刺してくれるかもしれない。

「エリゼスト、ルシェは?」

「この状況では……」

 シェラの問いに対し、エラゼルが躊躇いを見せた時、ボルリッツが動いた。

「俺が行く。彼女にもしもの事が有ったら、アシェルに顔向け出来ねぇからな」

「よろしくお願いします!」

 シェラは頭を下げた。心配でならないという表情を見て、ボルリッツは自身に問いかける。その期待の眼差しに応えることが出来るのか、と。

「ああ、任せておけ!」

 自分に言い聞かせるように言うと、ボルリッツは遠くに見えるラーソルバールのいる場所へと走っていく。

「さて、相手は人殺しの悪党共だ。容赦無く行くぞ」

 ボルリッツを見送ると、エラゼルは振り返ること無く、仲間を鼓舞する。

「やれるだけやる」

 隣に立つフォルテシアが、緊張した面持ちで

 応える。迎え撃つ相手の数は倍以上、心を映すように、刃先が揺れていた。


 遺跡の警戒区域に、何者かが侵入した事をファタンダールは感知していた。

 下僕としたオーガをけしかけたし、周辺に居る盗賊達も自衛のために動く。それで片付くはず、そう思っていた。

 ところがどうも様子がおかしい。

 いつまでも戦闘が続いている音がする。気になって表に出ると、オーガの一体は既に無力化され、戦闘を継続している盗賊達も数を減らしていた。

 戦闘の集団の中には見覚えの有る金髪が踊っていた。

「まさか!」

 ファタンダールが驚きの声を上げた直後、別の方角から大きな音が響く。即座に音のした方を見ると、オーガが血まみれになり、地に伏していた。その横に居た人影が金色の髪をふわりと踊らせるのを見て、ファタンダールは歯軋りをする。

「またあの娘か!」

 どこまでも邪魔をするのか。

 完治した筈の傷跡がうずき、怒りで我を忘れそうになる。今すぐにでも魔法を叩きつけてやらなければ気が済まない。だが、その前にやる事が有る。

 意を決して地下に戻ると、異形の石像に向かって念を込める。

「ガーゴイル達よ、働いて貰うぞ!」

 ファタンダールの声に反応するかのように、四体の石像は羽ばたきを始めた。


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