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聖と魔の名を持つ者~剣を手にした少女は、やがて国を守る最強の騎士となる/ラーソルバール・ミルエルシ物語~  作者: 草沢一臨
第二部 : 第二十三章 剣が語るもの

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(二)心と森と仲間と③

 目視で確認できる盗賊二人に、警戒する様子がないことを確認すると、ラーソルバールはエラゼルに目で合図を送る。

「行くぞ」

 エラゼルは剣の柄に手を掛けると、後ろに振り向く。皆が無言で頷いたのを確認すると、ラーソルバールと息を合わせたように飛び出す。

 虚を突かれた盗賊達は剣に手をかけ、応戦の構えを見せるが、抗う間も無くラーソルバールとエラゼルの二人によって一撃のもとに剣を弾かれ、無力化されてしまった。

「声を上げれば、命は無いぜ。お前らの主の所まで素直に案内してくれるなら、生かしておいてやる。さもなくば殺す」

 ボルリッツは即座に盗賊に剣を突き付けると、睨み付けながら問いかける。

「馬鹿か? 何しに来たか知らんが俺達『暁の狼』が仲間を売るような真似をすると思っているのか!」

 盗賊は強がるように拒絶する。ボルリッツの後ろに居るのが、年少者だと侮っての事だろう。自分達が負けたのも、不意を突かれたせいだと信じているようだった。

「そうかい……やはりお前らが……」

 ボルリッツは容赦しなかった。怒りを滲ませた表情を浮かべると、即座に一人の首に剣を突き立てる。

 男は悲鳴をあげる間も無く、地に崩れ落ちた。まさか即座に殺されるとは思っていなかったのか、もう一人は驚き一歩後ずさる。

「何しやが……」

 声を上げた瞬間だった。ボルリッツの剣は即座にもう一人の胸を貫いた。

「お前らが何人、罪の無い人々を殺したと思っていやがる。そんな奴らに俺が情けをかけるわけがねぇだろ?」

 眼前の出来事から目を逸らしたい気持ちを抑え、誰もがその光景を見届けた。

「すまんな、手柄を奪っちまったみたいで……」

「いえ、肝心な所を預けてしまい、心苦しい限りです」

「気にすんな。傭兵やってりゃ、人の生き死にの感覚が薄くなってくるもんだ。……じゃあ、先に進もうぜ。相手は何人居るか知れねえからな、ゆっくりしている暇は無い」

 剣についた血を振り払うと、ボルリッツは背を向ける。その背中が悲しみと共に有るような気がして、ラーソルバールはそれ以上話しかける事ができなかった。


 警戒しつつ、遺跡を探索する。

 今までの場所とは比較にならない広さだが、戦力の分散をする訳にもいかず、長時間の緊張が精神を消耗させる。

「木を伐採したり整地をしたりと、この辺りはかなり手が入ってるな」

 感心したようにガイザが呟いた。

「伐採した木を薪にしたり、ああいう小屋を建てたりしているんだろうさ」

 モルアールが指差す方向には、確かに最近建てられたような小屋が見える。恐らく盗賊達の住居のひとつなのだろう。

 炎の魔法で燃やしてしまえば、手間が省けるかもしれないが、そこに捕らわれた人や重要な物が無いとも限らない。だが、大人数を相手にするのも厄介だ。モルアールが思案を始めた時だった。

「何か来る!」

 ラーソルバールの声が皆の足を止めた。

「この気配はアレか?」

「多分……」

 遺跡の建物の陰から姿を現したのは、二体のオーガだった。

 身の丈は四エニスト近くはあるのではないだろうか。ラーソルバール達が王都で見たものと同じか、それ以上の大きさだった。

「でけぇな……」

 モルアールは初めて目にする巨体に、絶句する。

「こちらに気付いて、けしかけて来たって事かな?」

 ラーソルバールは剣を握り直し、身構えると、ガイザに目で合図を送る。ガイザは無言で頷くと、馬を隠すため後方へと下がり、石壁の向こうへと姿を消す、

「奴の事だ、高みの見物でもするつもりで居るのだろうさ」

 エラゼルも両手で剣を構えると、背筋を伸ばし、ふぅと息を吐いた。


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