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聖と魔の名を持つ者~剣を手にした少女は、やがて国を守る最強の騎士となる/ラーソルバール・ミルエルシ物語~  作者: 草沢一臨
第二部 : 第二十一章 帝国を歩く

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(三)亡国の姫②

 オリアネータと名乗った女性は、二人の姿を見つめた。

「それで、あなた方の請け負った依頼とは? もし、ここに眠る人々を冒涜するようなものであれば、容認することができません」

 表情を厳しいものに変え、詰問するように問いかける。

「……あ、そういうのではないです。むしろ逆です。昔、ここに住んでいたという方からの依頼で、この街に花を捧げて欲しい、と」

「花、ですか?」

「あれです」

 あとからゆっくりとやって来たエラゼルを指差す。

「ん?」

 何のことやら理解が出来ず、エラゼルは首を傾げた。


 ラーソルバールが依頼内容と事情を説明すると、オリアネータは穏やかな笑みを浮かべ、銀細工の花を見つめた。

「見事なものですね。ご高齢な方なのですか?」

「いえ、ご主人はドワーフでしたので、まだそれ程のお年ではないと思います」

「そうですか、確かにこの街にドワーフの方が若干居られたとは聞いていましたが……」

 オリアネータは涙を浮かべ、銀の花にそっと手を添える。

「哀しさと、人々を想う心が伝わってくるような気がします。後で、その方の所へ行かなくては」

 感謝の想いだろうか、オリアネータは花に対し深々と頭を下げた。その時、胸元からペンダントがするりとこぼれ出る。

「……!」

 僅かにラーソルバールの表情が変わった。

「貴女は、エランドア王家の方ですか?」

「え……?」

 オリアネータは慌ててペンダントを服の胸元へ隠す。

「そのペンダントに刻まれた紋章は、エランドア王家のものとお見受けします」

「えっ……! 既に無い王家の紋章をご存知なので?」

 焦りと緊張にオリアネータは顔面蒼白となる。帝国の人間に知られれば、どうなるか分からないという恐怖心が窺い知れた。

「……一応。趣味の範囲ですが」

「この娘は、ただの歴史好きです」

 隣に居たガイザが笑った。

「私たちは、貴女が例え亡国の姫であったとしても何の問題もありませんし、誰にも言う事も有りません。信義に反するような事は致しませんのでご安心を」

 ラーソルバールの真剣な眼差しを見て、オリアネータは落ち着きを取り戻した。

「信義とは、まるで騎士のような言葉ですね」

「……そう……ですね……。って……いたたたた!」

 一瞬ためらいを見せたラーソルバールだったが、それを見ていたエラゼルに即座に鼻をつままれた。

「ルシェ……いや、ラーソルバール。偶然とは言え、相手の事を知ってしまったのだ。信義と言うならば、私達も正直に言わねばならぬのではないか?」

「……だね」

 エラゼルの言葉に応じると、ラーソルバールはオリアネータに向かって頭を下げた。

「私達は皆、ヴァストール王国の者です。それぞれが騎士団や魔法院、救護院の養成学校に属しています。故あってこの国に居りますが、帝国とは一切の関わりが有りません」

「むしろ敵だな。残念ながら、身分証明書は持参しておらぬが……」

 エラゼルが補足するように言葉を繋ぐ。

 説明に得心がいったように、オリアネータが大きく頷いた。

「そのお言葉、信じます。私は仰るように、エランドア王家直系の者です。帝国では消し去ったはずの血ですので、生きていては何かと不都合がある存在だという事は間違い有りません。そのせいで余計なお気遣いをさせてしまったようで、本当に申し訳ありません」

 オリアネータの瞳には強い意志が見え隠れする。だが、同時に迷いも見えた。

 国を再興したいという願いと、今は平穏に暮らしている人々を巻き込んで良いのか、という想い。その狭間で揺れているのかもしれない。

 ラーソルバールは自分達が力になれない事が分かっており、もどかしさを抱えつつその瞳を見つめていた。


「では、この花は貴女が捧げるのがふさわしい」

 エラゼルは、抱えていた箱をそっと差し出した。

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