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聖と魔の名を持つ者~剣を手にした少女は、やがて国を守る最強の騎士となる/ラーソルバール・ミルエルシ物語~  作者: 草沢一臨
第二部 : 第二十一章 帝国を歩く

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(二)陰謀③

 カサランドラを発ってしばらくすると、岩場に木が生えたような場所にさしかかる。土もあまり無いように見えるのにどうやって生えているのだろうかと、ラーソルバールは気になった。荒地でも生えるなら、何かに役立てる事も出来そうだ、と考える。

 勿論、騎士学校の授業でも植物の講義はあるが、野営時に役立つように何が食用か、毒かといった話が主体で、植物の根本に関する部分は教書には載っていない。

 提案すれば、何かに役に立つかな? ラーソルバールは苦笑いした。


「ここが岩の森?」

「名前の通りだね。てっきり岩が森みたいに立ってる場所かと思ったよ」

 モルアールとディナレスが話している横で、ラーソルバールは黙って森を見つめていた。

 馬車の音が喧しいので分かりにくいが、確かに生物の鳴き声がする。鳥ではなく獣のような低い声が時折響く。

「厄介な物が出てこないと良いが」

 同じように聞き耳をたてていたエラゼルが、小さく呟く。

「これだけ馬車が音を撒き散らしてるとね……」

 ラーソルバールは苦笑する。音につられて何かがやってくるだろう事は想像に難く無い。願わくば何もない事を祈りたいが。


 道の脇には何かの白骨も転がっている。通行者と争い死んだ獣だろうか。それとも襲われた人間なのだろうか。

「見てて気分の良いもんじゃねえな」

「全くだ」

 ガイザの言葉にモルアールが同意する。次の瞬間、森を見て警戒していたエラゼルが声を上げる。

「来た! 御者殿、速度を上げて!」

 言うやいなや、手元にあった弓に矢をつがえて放つ。

「ギャイン!」

 馬車に取り付こうとした襲撃者が、エラゼルの矢に胸を貫かれ転倒する。あまりの手際の良さに、フォルテシアは感心しながらエラゼルの後ろ姿を見つめていた。

「ゴブリンか!」

 モルアールが身を乗り出す。

「数は、十匹程度だ」

「任せな」

 追いすがろうとするゴブリンを見て、モルアールが杖を取る。と、その瞬間にもエラゼルの矢がまた一匹、ゴブリンを貫く。

「早くせぬか!」

「うぁ……。炎球ファイヤーボール!」

 急かされるまま、予備詠唱無しで魔法を放つモルアール。その手から放たれた炎の球はゴブリン達の中央で炸裂し、周囲に居た五匹ほどを巻き込んだ。

「もう少し効率的にできんのか?」

「な……」

 良くやった、という言葉が来るかと思っていたが、想定外の言葉にモルアールは驚き、エラゼルの顔を見る。だが、彼女が「冗談だ」とばかりに笑顔を浮かべていたので、怒る気も失せて苦笑しつつ座り込んだ。

「もう来ないだろう?」

 数が少なかったせいか、半数以上の仲間が倒れたと見るや、ゴブリン達は早々に追撃を諦めた。

「向こうは今ので戦意喪失したようだし、大丈夫かな」

 出番は無さそうだと、状況を冷静に見ていたディナレスだったが、追うのを諦めた敵を確認すると、ようやく胸を撫で下ろした。


 この日は街道から少し外れた所にある、小さな村に日没頃に到着し、宿泊する予定にしていた。

 だが予想に反して、まだ夕方に差し掛かる前に村に到着する事になったのは、襲撃があった後が非常に順調だった為だろう。

 おかげで一軒しかない宿屋で部屋を確保することができたが 、行商以外での団体客は珍しかったらしく、一行が冒険者だと知ると宿の主人は首を傾げた。こんな所に、何の用事も無いだろう、と。

 実際、七人はただの通りすがりであり、そこそこの食事と、ゆっくり休める場所があれば良かっただけなので、主人の疑問も当然と言えた。

 宿に荷を降ろすと、明るいうちに村を散策するなど、しっかりと息抜きし、翌朝は早めの出立予定とした。

 目指すはカラリア。そして、まずは領地の一部に常闇の森を有する、ルクスフォール伯爵の元へ。


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