(四)依頼書①
(四)
「済まなかった」
応接室に戻って来た際の、ホグアードの第一声だ。
「頂いた書面に対し、穿った見方をしてしまった。確かに書かれていた通りだった。……だが、最後に一点気になることが有る」
「何でしょうか?」
ホグアードの言葉にラーソルバールは首をかしげる。
「いくら強いとはいえ、君達は実戦経験は有るのか?」
命のやり取りをしたことが有るのか、その度胸は有るのか、ということだろう。例え訓練や模擬戦で強かったとしても、いざ命が懸かると尻込みする者も少なくない。
「恥ずかしながら先日、賊を退治して参りました」
恥ずかしながら、とは付け加えたのは理由がある。賊の発生は国内事情が安定していない事の証拠でもあり、他国の人間には特に秘匿したい事柄でもあるからだ。
「我々二人はそれ以外にも何度か……。怪物や、暗殺者ともやりあったな」
「は?」
声を上げたには仲間の方だった。
怪物は分かるが、暗殺者と戦ったなど聞いていない。二人に向けられる驚きの視線。その反応を見て、失言だったかとエラゼルは慌てて口を押さえた。
さすがに魔法使いと言わなかった辺りは、配慮した結果なのだろうが。
「分かった。愚問だったようだ。正式な手続きをしておこう」
「ありがとうございます」
ラーソルバールは素直に頭を下げた。もとより、ここでの揉め事は望んでいない。
「それと、君達は上級者相当の力が有ることは分かったが、私と同じように疑念を持つ者が居るかもしれん。申し訳ないが、中級という扱いのままとさせてもらう」
悪意の有るものではなく、純粋に今後を考えての申し出なのだろう。表情がそれを物語っていた。
「それで行動に制限や支障が無いのであれば、何も言うことは有りません」
「問題ない、自由にやってくれ。で……、これが今回の依頼書だ。内容は、常闇の森の調査と、怪物の退治、遺跡調査、そして森に眠る宝の持ち帰りとなっている」
「宝ですか?」
モルアールが興味津々というように身を乗り出す。
「有るかどうかなんて知らんよ。あくまでも口実だ。これを常闇の森に領地がかかるどこかの領主に見せて、許可を取ってくれ」
「自領地内の宝などと言われて、素直にハイそうですかと言ってくれるとは思えませんが?」
腑に落ちないようで、モルアールは更に聞き返す。
「そこは、自領地を荒らす怪物を倒したとしても、報酬は頂きませんよ。懐は痛みませんよ、という意味と受け取れば良いのですか?」
補足するようにラーソルバールが続けると、モルアールは納得したように頷いた。
「うむ。常闇の森とはいえ、自領地の一部だ。宝が有るかどうかは良く知っているだろうさ。もしそこに宝では無いにせよ、探られて困るような物が有れば拒否されるだろう。その時は隣の領主にでも了承を取って、森の中で越境でもすれば良い。森には境界線も無いんだ、知りませんでした、迷いましたで済む。」
「中々強引ですね……」
「そうか? 冒険者ってのは目的のためなら、多少の危険も犯すもんだ」
元冒険者らしい言い草だった。
「そうでした、我々は冒険者でしたね」
その言葉で一同は笑いに包まれた。




