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聖と魔の名を持つ者~剣を手にした少女は、やがて国を守る最強の騎士となる/ラーソルバール・ミルエルシ物語~  作者: 草沢一臨
第一部 : 第十七章 突然の出来事

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(一)追悼②

 多くの涙と決意と共に、死者の魂は送り出される。

 楽隊の奏でる静かな悲しい音楽が、余計に生徒達の涙を誘う。


「友よ、またあの世で会おう。だが、我々は君たちを待たせるかもしれない。その時は遠慮なく、新たなる生を受け、地上に舞い戻るといい。そして出来れば君たちを守れなかった我々にも、笑顔を向けてくれないだろうか……」

 追悼の言葉が大講堂に響く。

 二年生の代表は書面を用意する事無く、自らの想いを口にしたが、その言葉は最後には涙で止まった。

 ラーソルバールは重く痛切な追悼の言葉を、涙と共に心にしっかりと刻んだ。

 式の後、この生徒は無二の親友と互いに呼び合った相手を、爆発で喪ったのだと教えられた。この追悼の言葉を述べたとき、その心中はいかばかりであったろうか。


 遺体はそれぞれ家族に引き取られたため、この場には無い。

 だが、彼らの存在を示す模擬剣には名札が添えられ、その代わりとなっている。

 生徒たちが剣のそばに花を一輪ずつ供え、校長が最後に一言述べて、追悼式は終了となった。

 だが友を喪った者達の悲しみは暫く消える事はないだろう。


 そして追悼式が終了した直後、反乱軍の鎮圧と首謀者捕縛の報が学校に届けられた。

「これで、死者に対する報告は一つ出来るな」

 校長は皆をその場に止め、もたらされたばかりの情報を生徒にも伝える事にした。報を知った生徒らは、歓声と、安堵のため息と、拍手と、涙でそれに応えた。


「我々も前を向かねばならぬな」

 エラゼルはラーソルバールに歩み寄り、悲しげな表情を浮かべたまま言った。

「そうだね」

 そう答えたものの、心ここに在らずといった様子に、シェラが首を傾げた。

「どうしたの、ラーソル?」

「……うん、まだ終わってないんだよ」

「終わってない、とは?」

 エラゼルが聞き返す。

「エラゼルはあの場に居て、疑問に思わなかった?」

「疑問?」

 エラゼルは一瞬動きを止めたが、何かを思いついたようにラーソルバールの目を見詰めた。

「考えた事は私と同じ……? 大講堂の壁にあんな大きな穴を空ける爆発というのは……」

「魔法以外にありえんな。だが、あの時の相手にそれらしい姿は無かった」

「けれど誰かが昨日、兵士の突入の手助けをした事は間違いないよ。そして退却も」

「消えた兵士……。ゲート……。奴か!」

 合点がいったというように、エラゼルは手を叩く。

「奴?」

 事情が飲み込めないシェラだったが、話の腰を折る訳にはいかない。

「黙っておったが、因縁のある魔法使いがおるのだ。其奴は年始の騒動の主でもある」

 エラゼルが見せた怒りに、シェラの表情が曇る。街の破壊については怪物が荒らし回ったが、退治されたとだけ聞いている。

 またラーソルバールが大怪我をしたと後で聞かされたが、治癒により完治した後だったので、あまり深刻には受け止めていなかった。


「自分の手を汚さず、背後で操る。恐らく、昨日の成否はどうでも良かった。この国を混乱させるのが目的なんじゃないかな」

「となれば、帝国あたりが背後に居るのか。厄介だな」

 大きなため息が漏れる。

「背後が国内か国外かも分からず、単独の愉快犯かとも、と思っていたけど、その線が強いね……」

「思えばフォンドラーク家も北方にあって、帝国と領地を接している。何かと介入しやすかろうな」

「うん。でも、まずは確証が欲しいね。現場にはまだ兵士の足跡残っているかな」

 ラーソルバールが気落ちして動けないのでは、と思っていたエラゼルだったが、それが杞憂だったと安堵した。その原動力が、怒りであろう事も分かっている。良くは無いが、潰れてしまうよりはましだ。

 今は見守ろう。エラゼルは拳を握り締めた。


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