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聖と魔の名を持つ者~剣を手にした少女は、やがて国を守る最強の騎士となる/ラーソルバール・ミルエルシ物語~  作者: 草沢一臨
第一部 : 第十六章 動乱

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(四)カレルロッサ動乱③

「やれやれ、この程度で勝てると思って居たのかねえ?」

「昨日のうちに王都を急襲され、住民を盾に取られていたら、こうすんなりとはいかなかっただろうな」

 呆れるジャハネートに、シジャードは釘を刺す。

 相手の思惑通りに事が運んでいたら、どう転んでいたか分からない。

 捕縛され連行される貴族を横目に、二人はため息をついた。

「そういえば、昨日は大変だったみたいだな」

 シジャードは苦笑いしながらジャハネートを見やる。

「もう散々だったね。素手で完全装備の相手と戦うなんて、そうそうできる経験じゃないよ。ただ、収穫もあった」

「収穫?」

「アンタの知人の娘だったか? アレは色々と危なっかしいが、いい素質がある。ますますウチに欲しくなったよ」

 満面の笑みで語る。

「ジャハネートがそう言うのなら、大したもんだろうな。あと一年あるし、どうなるかな」

 シジャードは「アレ」の顔を思い浮かべて、楽しそうに笑った。


 カレルロッサ平原での戦いに破れた兵士達は、今後それぞれの事情を抱え平時に戻る。

 平時に農民として生活しているのであれば、家に帰れば良いだけ。平穏な生活に戻る。傭兵達はまた、どこかで雇ってもらえる場所を探し、冒険者と変わらぬ生活を送りつつ国内外を放浪する事になる。

 だが、警備等のために貴族に常時雇用されていた者達の多くは、今回の一件で雇用主を失うことになる。

 別に雇用主を見つけるか、運良く農民になる事が出来れば良い方だ。それが叶わず、盗賊にまで落ちていく者も少なくないだろう。

 本人達にとっては止むを得ない事情とは言え、国として治安問題という問題をひとつ抱える事になる。

 兵士に限らず、貴族の屋敷で働く者達も同様で、職を失い路頭に迷う事になり、受け皿が必要になってくる。一部は別の貴族に雇用される事になるだろうが、多くは職を変えて生きて行くしかない。

 貴族の専属で商売していたものも大きな打撃を被る。中には商売が破綻する者も出るだろう。

 いずれにせよ今回の事件では、大量の失業者を生んだほか、治安問題など様々な問題を国が抱える事になってしまった。

 不正の一掃を図ったが、思わぬ落とし穴が待っていたという訳だ。


 この後、フォンドラーク侯爵の所持していた連判状から、今回の騒動に加担した者達の名が割り出された。

 戦場で捕縛された者は勿論、逃亡した者にも追っ手が掛かり処罰が待っている。

 派兵、参戦していなかったとしても、そこに名を連ねていた者は事情聴取され、それなりの処罰が下される事になるだろう。

 また、今回の一件に加担するという事は、その多くが貴族特権の維持や不正の隠蔽などを目的としていたと見てよい。そういった動機も明らかにされ、不正などの罪があれば、併せて処罰される事になる。

 貴族自身の爵位剥奪などにより管理者が居なくなったり、没収されたりした領地は国有地、つまりは国王の直轄地になるわけだが、その管理者問題も重く圧し掛かる。

 管理の役人を派遣しなくてはならず、人選やらその人材の確保やらと混乱を招く事になる。

 今回の一件では、騎士団が動員されたため、大きな功を挙げた者もおらず、領地を下賜するべき相手も出なかった。


 ただひとりを除いては。


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