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聖と魔の名を持つ者~剣を手にした少女は、やがて国を守る最強の騎士となる/ラーソルバール・ミルエルシ物語~  作者: 草沢一臨
第一部 : 第十六章 動乱

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(四)カレルロッサ動乱②

 食堂は重い雰囲気に包まれていた。

 皆が沈痛な面持ちで、ただ黙々と食事をしては自室へと戻っていく。

 卒業後に帰宅する予定だった卒業生達は、翌日の追悼式を終えてからの帰宅へと予定を急遽変更せざるを得なかった。

 卒業式自体は半月後に再度行われる事になったが、出席を取り止める者も居るだろうと誰もが予想している。


 大講堂の片付けが終わっても、ラーソルバールに付き添っていたエラゼルだったが、食事を終えた直後にデラネトゥス公爵からの緊急呼び出しを受け、公爵家の王都別邸に戻る事となってしまった。

「それどころでは無いというに……」

 使者を前に不満をぶつける。

 本人は憔悴しているラーソルバールが心配で、この日も共に寝る気満々でいた。

「よいかシェラ、確と頼んだぞ!」

 事情が事情だけに思い通りにならず、去り際にシェラを捕まえると、代理をしっかりと言いつけて去っていった。

 苦笑して見送ったシェラだったが、やはりラーソルバールの様子が心配だったのか、しっかりと言いつけを守って一緒に寝ることにした。


 翌日、ジャハネートが予見した通り、騎士団と一般兵を合わせ一万人以上が王都を発つ事となった。そこには前日に奮戦したばかりのジャハネートの姿も有った。

「忙しい人だな……」

 シェラに無理矢理に連れ出されたラーソルバールは、騎士団の出陣の様子を見て感心しつつ苦笑いした。

 そんなラーソルバールを群衆の中から見つけたジャハネートは、目配せをして小さく手を振って見送りに応えてみせた。


 後に「カレルロッサ動乱」と呼ばれる事になる、宰相暗殺未遂から始まった内乱は、国内に大きな傷跡を残す事になる。


 王都近くのカレルロッサ平原に軍を展開した反乱貴族連合は、約一万一千の兵を以て正規軍と対峙することとなった。

 フォンドラーク侯爵は当初、宰相暗殺計画に呼応する形で、同時に王都を急襲するつもりであった。

 だが、貴族間の足並みの乱れと遅参する者達に足を引っ張られ、軍は王都近くで動く事が出来なくなってしまっていた。更には反乱に参加すると約束しながらも、土壇場になって派兵を取り止めて日和った貴族も少なくなく、数で勝ると踏んでいたフォンドラーク侯爵にとっては大きな誤算となった。

 こうした、負の連鎖で後手後手になったところに、即応した正規軍が王都を出たという情報が入り、最早退く事もできず平原での決戦を余儀無くされたのである。


 見晴らしの良い平原での正面決戦となったが、昼過ぎに始まったこの戦闘は、僅か一刻程度であっけなく勝敗が決する。

 貴族連合側は数ではやや上回ったものの、気力も練度も装備も、全て正規軍が上であり、その差は歴然としていた。一部には善戦する部隊も有ったものの、戦局を左右するには至らない。

 貴族連合側は所詮、寄せ集めの雇われ兵士が主体である。一点が崩れ、均衡が傾いた瞬間に総崩れとなってしまった。

 フォンドラーク侯爵は逃亡しようとした所を捕縛され、参戦した貴族達は敗色濃厚と見るや兵士に身をやつして我先にと逃亡していった。

 だが、逃げたところですぐに露見し、国内に居場所は無い。

 命があるだけまし。まさに絶望の中での逃走となった。


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