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聖と魔の名を持つ者~剣を手にした少女は、やがて国を守る最強の騎士となる/ラーソルバール・ミルエルシ物語~  作者: 草沢一臨
第一部 : 第十六章 動乱

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(三)戦いの中で①

(三)


「ジャハネート様!」

「行きな!」

 正に阿吽の呼吸で了承を得ると、ラーソルバールは大きくステップを踏み、軍務大臣と兵士の間に割って入る。

 止めを刺そうとする兵士の剣を弾くと、剣を大きく振って兵士をのけぞらせる。

「大丈夫ですか?」

 兵士達から視線を外さず、背後の大臣に問いかける。

「ああ。肩を刺されたが問題無い。剣を振るのが辛い程度だ」

 騎士特有の強がりだろうか。

 出血が多いようなら早く手当てをしなければならず、戦闘を長引かせるのは危険だ。

 だが、ラーソルバールも多数の兵士を相手にするのはさすがに厳しい。

 シェラとフォルテシアの二人を相手に訓練をしていることもあり、複数人を同時に相手にすることに慣れていないわけではないが、兵士が持っているのは模擬剣ではない。

 一撃でも食らえばただでは済まない。


 ラーソルバールはひとつ迷いを捨てた。

 相手を傷つける事を恐れていては、自分自身も、守るべき人も守れない。

 振り下ろされた眼前の相手の剣を受け流して、隣の兵士の攻撃を阻害すると一瞬の余裕が生まれた。

「ここだ!」

 ラーソルバールは全身鎧の隙間を狙って剣を突き出す。

「ぐあぁ!」

 寸分違わず、兵士の利き腕の付け根に剣が突き刺さる。そのまま戻す剣で、膝上の隙間を切りつけた。

 たまらずバランスを崩して兵士が倒れ、兵士達の足元に転がる。その瞬間を使って、ラーソルバールは隣の兵士にも同じような攻撃を加えた。

 ジャハネートと違い、非力なラーソルバールに出来る攻撃、それを実践してみせた。


 兵士二人が倒れた事で、押し寄せる相手との間に僅かな壁ができた。

 もともと壁を背に戦っていたので、四方を取り囲まれるという事態にはならなかった。

 だが、活路といった明確なものは無く、ジャハネートが切り開く先が道になるといった程度のものだ。

 敵の数が減っているのかも数える余裕も無く、下手をすればジリ貧になる状況だけに焦燥感は募る。

「援護します!」

 兵士の後方から、大きな声がした。

 その声には聞き覚えがある。

「リックスさん!」

 姿は見えないが、間違いない。

「勲章仲間の皆が居る! もう少し持ちこたえてくれ」

 エラゼルの声が聞こえた。

 嬉し涙がこぼれそうになるのを堪えて、追っ手を振り払う。

「ドラッセ、左を頼む!」

「応!」

 リックスは二年生数名と共に、ラーソルバール達の活路を拓こうと奮戦していた。

 一際体格の良い二年生、ドラッセはラーソルバールらが参加した演習で班長をしていた事も有る。

 リックスの声を聞いて、ラーソルバールはそれを思い出した。

「無理はするなよ!」

 リックスらも鎧も着ずに、模擬剣で立ち向かう事の難しさを先程から思い知らされている。

 多対一を心がけ多少は退けているものの、剣が体をかすめれば、そのまま皮膚は裂け血が吹き出す。

 その恐怖とも戦っている。


 不意に、鋭い剣がラーソルバールを襲った。

 辛うじて受け止めたものの、今までの兵士と違う鋭い動きに、強い危機感を覚えた。

 即座に剣を弾き返し、力比べには持ち込ませなかったが、受け止めた時の剣の重さからすれば、押し込まれたら危険だったかもしれない。

 続いて横薙ぎ、振り下ろしと、強力な攻撃がラーソルバールを襲う。

(強い! しかもこれは正規の騎士の訓練を受けた剣……)

 動揺した瞬間に、斜めに振り下ろされた剣をラーソルバールは辛うじて受け止めた。

「どけ!」

 鎧の中から男の声がした。

 その声に、ラーソルバールの動揺は更に大きくなった。


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