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聖と魔の名を持つ者~剣を手にした少女は、やがて国を守る最強の騎士となる/ラーソルバール・ミルエルシ物語~  作者: 草沢一臨
第一部 : 第十五章 その流れる先は

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(四)勲章と褒賞②

 私は軍務大臣の目をしっかりと見詰め、心を決めた。

「此度の件、身に余る光栄でございます。ですが、大変恐れ多いのですが、私は褒賞金を辞退させていただきます」

「なんと?」

「街の惨状、見るに堪えません。その私の分の褒賞金を、街の復興資金に回して頂けますでしょうか」

「いや、それでは他の者も受け取りにくかろう」

 大臣が困ったような表情を浮かべた。

 皆も一瞬押し黙る。良くない申し出だったろうか。

「いえ、僕も彼女と同じで構いません。僕も同じ思いです」

 私の隣でリックスさんが声を発した。迷いの無い、力強く優しい声だった。

 すると、皆が堰を切ったかのように異口同音で訴える。

 エラゼルは何も言わずに、嬉しそうに笑っている。

「それでは、エラゼル嬢だけか?」

 軍務大臣は戸惑いながら、エラゼルの顔を見た。

「侯爵、私が受け取るとお思いですか? 私が進んで同じ事を言えば、公爵家には金が有るから不要なのだと、皆に思われましょうから黙っていたまで。私の思いもラーソルバールと同じでございます」

 顔色ひとつ変えずに、さも当然のようにエラゼルは言う。その言葉に嘘偽りはないのは見れば分かる。

「皆、褒賞が欲しくてやった訳では無いと思います。街の危機に、ただ黙っていられなかっただけの連中だと思って頂ければよろしいかと」

 リックスさんはそう付け加えて苦笑してみせると、皆が微笑みを湛えてその言葉を肯定する。そんな反応が想定外のものだったのだろうか。全員の決意が固そうなのを見て、軍務大臣は大きくひとつ息を吐いた。

「……分かった。この褒賞金は私が責任を持って預かり、必ずや復興資金に使わせて貰う」

「皆の思いに感謝する」

 二人の大臣は、無礼な申し出を快く受け止めてくれた。

 この後、それぞれ感謝状と小さな勲章を手渡され、二人の大臣と握手を交わすと、皆が誇らしげな表情を浮かべた。

 こうして小さな式典は無事終了した。

 今回の一件は、公には暴徒が引き起こしたものとされている。

 街中に突然怪物が現れたと公表して、不安を煽るような事を避けたのだろう。そこは納得できる。

 けれど、いずれ真実は人の口から漏れる。

 その時はどうするのか、私は少しだけ気になった。


 新年早々の騒動は、ようやくこれで終わりになった。

 軍務省を出て緊張から解放されると、私は小さく息を吐いた。

「帰りは歩きか?」

 エラゼルが笑った。

「いや、僕らは来るときも歩きだったが?」

 両手を広げて不満を露にしつつ、苦笑するリックスさん。

「では、寒空を歩いて帰り、食堂で皆で暖かい物でも食べようか」

 エラゼルが晴れ晴れとした顔で先頭を歩いている。

「なあに? ご機嫌みたいだけど」

 隣を歩くように追い付いて、私は聞いてみた。

「誰ぞ褒賞金を返上して、がっかりしているのではないかと思っていたが、そうでは無かったのでな」

「そうだね……。みんなに申し訳ないことをしたと思っていたんだけど」

「気にするな。ラーソルバールが言わなくても彼が言っていただろう」

 エラゼルはチラリと振り返って、リックスさんの顔を見る。

「見た目とは違い、好漢ではないか」

ひと言余計だが、好漢であることは間違いない。

「うん、立派な人だね」

 濃い茶色の髪に、平均的な身長と細身の体格。リックスさんは騎士というよりは、魔術師と言った方がしっくり来るような外見をしている。

 当然、騎士としての訓練をしているので、見た目以上にしっかり筋肉はついているはずだ。

 闇の門の際にも落ち着いていたし、信じるに足りる人だという事を実感した。

「その褒賞金だけどさ、中身はどんなものだったのかな?」

「さあ。多くて金貨一枚といったところではないか?」

 フンフンと私は頷いた。

 家を失った人が少しの間食べていけるくらいの足しにはなっただろうか。

 私は空を見上げた。

 空は今のエラゼルと同じ顔をしていた。


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