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聖と魔の名を持つ者~剣を手にした少女は、やがて国を守る最強の騎士となる/ラーソルバール・ミルエルシ物語~  作者: 草沢一臨
第一部 : 第十五章 その流れる先は

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(三)軍務省③

 手紙には、街の危機に駆けつけた事への感謝と、お褒めの言葉が書いてあった。さらに軍務省にて式典を行うので、出席するようにとの記載があり、国家治安省の連名となっている。

 要するに、私達は面倒なものに否応なく招かれ、一方的にお褒めの言葉を頂く事になるらしい。

「要らぬ気遣いだな」

 エラゼルは不機嫌さを隠そうともせずに、言い放った。

 隣には女性騎士も座っているので、多少は言葉を選んで欲しいものだ。とはいえ、私も考えている事は一緒なので、偉そうな事は言えない。

「まあ、そういう小さな英雄でも立てないと、今回の件は街の人達の心に闇しか残さないから」

 女性騎士は、そう言って苦笑した。

「要するに、我々には今回の一件を誤魔化す道化になれ、ということですか。ナスターク侯爵もお人が悪い」

 エラゼルはため息をついた。

「あ、すみません、色々慌しくてお名前を伺っていませんでした」

「ああ、私の事など気にしなくても良いのに。でも、お二人の事を知っているのに、こちらが名乗らないのも失礼だから一応ね……。私は、第一騎士団所属のマレーレ・ジョニア。階級は二星官です」

 最初の印象はもっとお堅い人かと思っていたけれど、そうではなかった。


 そうこうしているうちに、馬車は正門を通り城の敷地内に入ると、脇の小門を通って更に奥へと進む。

「もうすぐ軍務省前に到着しますね。あとは先に到着されている方々と一緒に行動していただきます。私の任務はそこまでです」

「あの、グランザーさんは今日はいらっしゃるんですか?」

「ああ、中隊長は今日は上から無理矢理休暇にさせられたらしいですよ。昨日は色々大変だったそうなので」

 マレーレさんはそう言って笑った。

 我々と同じように、グランザーさんも怪我をしているのではないだろうか。何事も無さそうにしていたが、弾き飛ばされて壁に激突していて平気な訳がない。

 今更ながらに心配になった。

「大丈夫ですよ。あの人の奥さんは癒し手として優秀な方ですから」

 マレーレさんは私の考えている事が分かったのだろうか。何やら意味ありげに笑っているのが少し気になった。

 理由を尋ねようと思った直後に馬車は止まった。

「さあ、着きましたよ。降りて下さい」

 言われるがままに降りると、そこは城とは別棟になっている砦のような建物の前だった。

「これが軍務省の別館と呼ばれる建物です。非常時に砦として使用できるよう設計されています。本館はあちらです」

 始めて入る場所と、見たことも無い建物に私は興味をそそられた。

「ミルエルシさん?」

 マレーレさんに呼ばれて気付くと、二人は先に歩いていた。私は慌てて後を追う。

 本館と呼ばれた建物に入ると、重厚な雰囲気に飲まれそうになる。この国の軍隊を統括する部署だけに皆、一様に顔は険しい。特に前日のような事件があったため、国家治安省や、魔法院との連携も含め、相当に忙しいのだろう。

 そんな様子を横目に、エラゼルと私は一つの部屋まで案内された。

「この部屋でお待ちください。では、私はここで」

 マレーレさんの敬礼に対し、私達も敬礼で返す。

 胸に当てた手を戻すと、マレーレさんの顔は先程までの穏やかな顔に戻り、小さく手を振って去っていった。

 私が部屋の扉を開けると中には、夜中に一緒に対応に当たったリックスさん達が腰掛けて待っていた。

「やあ。待っていたよ。ここは居心地が悪くてね」

 開口一番、リックスさんは不満を吐露した。

 軍務省というものは騎士になれば、必然的に関係してくるのだろうが、今はなるべくなら関わりを持ちたくない。

「皆さん何やら重々しい雰囲気ですね」

 私は苦笑した。

「お叱りを受ける訳じゃないんだが、軍務省の中だと思うとやはり緊張するよ」

 リックスさんがそう言った直後、私の背後の扉が開き事務官らしき人が現れた。

「準備が出来たので、皆さんは私の後についてきて下さい」

 そう言うと中の様子を気にする事もなく、すぐに扉の取っ手を放して歩いて行ってしまう。

 慌てて私達はその人の後を追った。


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