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聖と魔の名を持つ者~剣を手にした少女は、やがて国を守る最強の騎士となる/ラーソルバール・ミルエルシ物語~  作者: 草沢一臨
第一部 : 第十五章 その流れる先は

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(二)歌声①

 私とエラゼルは、救護院の許可を得て、外に出た。あれだけ痛かった体も、ほぼ元通りになっている。

 若干足元がふらつくのは魔力酔いというものらしい。大きな怪我で治癒魔法を受けたときなど、大量に魔力を浴びた際に一時的になる症状だということだ。魔力循環の悪い人ほどなりやすいのだとか。余計なお世話です。

 それでも先程よりも良くなっている気がするので、もうすぐ消えるだろうと思っている。

 よろよろと頼りない歩きをしている私を見かねたエラゼルが、苦笑いをしながら肩を貸してくれた。

 歩くこと少しばかり、二人は近くに食堂を見つけ、中に入った。


『雲の上』という名の店は食堂と謳っているが、どちらかというと酒場に近い雰囲気で、酒を手にした多くの人で賑わっていた。

「良かった……」

 私が店に入って一番最初に発した言葉だ。

「何がだ?」

 エラゼルは私の顔を見る。

「夜中みたいな事があって、みんなが怯えていたり、落ち込んでいたりしたらどうしよう、ってずっと不安だったの」

「ふふ……そうだな。滅入りそうだった気持ちが救われる気がする」

 エラゼルは私よりも街の惨状を見ている。

 私が気を失っている間に彼女が見たものは、その心を締め付けるに十分なものだったに違いない。破壊され、消火されて焼け跡になった建物、怪我人と死者。そして嘆く人々。聞いただけでも、悲しくなる出来事だ。

 彼女は口にこそ出さなかったが、さぞ辛かっただろうと思う。一緒の部屋で寝ようと言った理由が、その辛さを一人で抱えたくなかったからなのかもしれない。


 二人はカウンターの隅に空いていた席に座った。

「おや、綺麗な娘さんが二人も。珍しいねえ」

 店の女将だろうか。嬉しそうに迎えてくれた。

「お酒は無しで、食事だけ。お勧めでお願いします。二人ともお腹が減りすぎちゃって……」

「ふふ。分かったよ。一番のを用意してあげる」

 笑顔を崩さず、手際よく食事の仕度をしてくれる。

 調理をしているのは二人。女将さんは配膳と両方だろうか。店内の人数を捌ききるのは大変だろう。

「フィアーナ! こっちも手伝って!」

 女将さんに呼ばれて、娘さんだろうか調理場に入っていく。

「あら、ラーソル。久しぶり」

「あ、お久しぶり。そうか、このお店はフィアーナのご家族でやってたんだ」

「そうだよ」

 私と話しながらもフィアーナは手を止めない。

「なんだ、知り合いか?」

 エラゼルが不思議そうに首を傾げた。

「うん、幼年学校時代の同級生……って、こらこら。あなたも一緒のクラスになったことあるんじゃない?」

「げ、エラゼル!」

 フィアーナはエラゼルを見て顔をひきつらせた。

 察するに、幼年学校時代は良い付き合いでは無かったようだ。当時のエラゼルを知ってるのだから、当然の反応かもしれない。

「ああ、すまん。あの頃は周囲が見えてなかった。ゆえにクラスの皆の顔を確とは覚えていないのだ」

 エラゼルは腰掛けたまま、フィアーナに向かって頭を下げた。

「え、なに、どういうこと?」

 状況を飲み込めないフィアーナは私の顔を見る。

「うん、色々あったんだよ」

 彼女も私がエラゼルに敵視されていた事を知っている。そんな二人が一緒に居るのだから、何事かと思うだろう。

 しかも、「あの」エラゼルが自分に頭を下げてくる。理解ができるはずもない。見かねた私がフィアーナに目配せすると、彼女は察したように大きく息を吐いた。

「公爵家の娘が平民に頭を下げないでよ。どうしたらいいか分からないじゃない」

「そうか。すまない」

「だから、それが……。んもう、なんか調子狂うなぁ」

 苦笑するフィアーナを見て、私は笑いを堪えるのに必死だった。


「で、どうしてここに? 家とは全然違うでしょ」

 フィアーナは手を止めない。食材の用意や、調味料の受け渡しを行いながら、私に質問をする。

「うーん、それがね……」


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