表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖と魔の名を持つ者~剣を手にした少女は、やがて国を守る最強の騎士となる/ラーソルバール・ミルエルシ物語~  作者: 草沢一臨
第一部 : 第十四章 崩れゆくもの

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

112/589

(三)燻る炎③

「キミじゃない……」

 謎の人物はエラゼルを見るなり首を振った。

「何が目的だ!」

 エラゼルが食って掛かる。

「だから言ったろう? 馬車の中で聞いてなかったのかい? 僕の大事な手駒を殺してくれたばかりか、僕の実験の邪魔をしてくれたお礼がしたいんだよ」

「礼なら、私に言ってくれても構わん!」

 エラゼルはグランザーさんと息を合わせるように剣を抜いた。

「勝気な女の子は嫌いじゃないけどさ。言っただろう? キミじゃないんだよ。邪魔をするなら、キミ達にも消えてもらう。……ああ、僕の事を見たんだから、結局殺すしかないんだった……」

 一瞬、魔力の高まりを感じた。

 慌てて、馬車から転がり出る。

「ラーソルバールっ!」

 エラゼルが私を見て叫んだ。

炎弾(ファイヤーバレット)!」

 エラゼルに向けて謎の人物からの魔法が飛ぶ。その瞬間、私はエラゼルの前に立った。

 もの凄い速度で迫る炎の塊。魔法での遮断は無理だった。私は剣で炎を一閃する。

 その瞬間、炎は霧散した。

「な! 魔法を剣で切って消した?」

 魔法を放った男は、驚きを隠さなかった。

「ふふふ……。面白いねえキミ。そうそう、キミだよ。キミにお礼をしようと思っていたんだよ」

 男は舌なめずりするように、不気味に笑った。

「今回の仕掛け人はあなた?」

 私は男を睨みつける。

「だとしたら、どうする?」

「……なら、私もお礼をしなきゃね……」

「そうだな。同感だ」

 エラゼルが私の横に出て、剣を構えた。

「こらこら、ここは大人の領分だ。街の人を悲しませたこの男を、騎士として許す訳にはいかん。捕まえて背後関係を吐かせてやる」

 グランザーさんの怒りと気迫が伝わってくる。その表情は非常に険しい。

 物音に気付いた住人達が窓から顔を覗かせるが、騒ぎに巻き込まれたくないとばかりに扉を閉める。

 私としても住民の巻き添えは困るので、出てこないで居てくれたほうが有り難かった。


「おや、三人程度で僕の相手が務まると思っているのかい?」

「貴様、たった一人で我々の相手が出来ると思っているのか?」

 挑発には挑発で返す。エラゼルが不敵に笑う。

「エラゼル、少しだけでいいから相手に隙を作って。今の私じゃ、全力の動きはほとんど出来ない」

 エラゼルにしか聞こえない程度の声で伝える。

「努力しよう。だが、私が仕留めても構わんのだろう?」

「もちろん」

 私の答えに無言で頷くと、エラゼルはグランザーさんに目で合図を送った。

 先に動いたのはグランザーさんだった。あっという間に距離を詰めると、物凄い横薙ぎをしてみせる。

 騎士団長クラスに劣らぬ剣は、さすが三月官と思わせた。

 紙一重といったところで、下がって避けた男だったが、読んでいたかのように、エラゼルがそこを襲う。男はさらに一歩後退したが、斜め下から切り上げた剣は、男のローブの裾を切り裂いた。

「ち! 僕のお気に入りを」

 男は苛立ったように吐き捨てる。

 エラゼルがニヤリと笑い、人差し指で自らの頬を指して見せた。

 男が頬に手を当てた途端、形相が変わる。その手と頬は血で真っ赤に染まっていた。

 男にとって、二人の力量は想定外だったのだろうか。

「貴様等は生かして返さん!」

 男は怒りに震えた声で叫んだ。

「それはこちらも変わらん」

 グランザーさんが容赦なく斬りかかる。男も避けてはいるのだが、当たりそうな攻撃が全て、何かによって弾かれている。

 エラゼルが切りつけた時には無かったものだ。

(何が原因?)

 何か呪文を唱えて魔法を発動させたようにも見えない。

 痺れを切らしたエラゼルも、同時に切りかかる。さすがに二人が相手となると、男も回避が厳しくなったのか、表情から余裕が無くなった。

 再びエラゼルの剣がローブの袖を切り裂いた。彼女の剣はグランザーさんのように弾かれない。

(そうか!)

 理解できた。

 だが、動こうにも体が痛い。エラゼルに偉そうに言った手前、ここでただ立っている訳にはいかない。

 体の痛い箇所に魔力を流すようイメージし、歩いてみる。少しだけ、痛みが引いた気がした。

 私は戦う三人に近付くため、歩を進める。

 時折風が運んでくる焦げ臭い匂いが、苛立つ私の心に悲しみの要素を加える。

 これ以上、勝手をさせるものか! 街のために涙を流すのは、これが終わってからだ。

 自分に言い聞かせた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ