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聖と魔の名を持つ者~剣を手にした少女は、やがて国を守る最強の騎士となる/ラーソルバール・ミルエルシ物語~  作者: 草沢一臨
第一部 : 第十三章 思い惑う

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(三)王太子③

「ひとつ、頼みがある」

 王太子が言い辛そうに切り出した。

「頼みとは? 私のような者に出来るものでしょうか」

「貴公だからこそだ……。私に、双剣の扱いを教えて欲しい」

 一瞬、父の動きが止まった。

 驚き、そして悩んでいるのだろう。だがラーソルバールは、王族からそのように求められる父が誇らしかった。

(父上を知っていてくださった方が、こんなにいらっしゃるとは)

 幼い頃に夢見た本物の「きし」がこんな近くにも居たのだ。

 デラネトゥス公爵だけに止まらず、王太子という国の重要人物にも、父の名は覚えられているという事を知り、涙が出そうになった。

 そんな様子を察したのだろうか、シェラはラーソルバールの傍に寄り、そっと肩を抱き寄せた。

「私の体は自由には動きません。それに私には司書の仕事もございますゆえ……」

「体のことは承知しておるので、手取り足取り教えてくれとまでは言わぬよ。たまにで良いのだ、司書にも話をつけておく……」

 王太子の請うような顔に、父は抗えなかった。

「そこまで仰るのでしたら、殿下のご都合に併せ、時折伺わせて頂きます」

 答えを得た時、王太子は満面の笑みを浮かべた。

 まるそれは、夢を叶えた時の少年のように見え、緊張していたラーソルバールも釣られて笑顔になった。

 傍らに居たシジャードは、それを見てようやくほっと胸をなでおろしたのだった。


「ウォルスター殿下はどうされました? また来ると仰っていたので、王太子殿下と一緒にまたこちらに来られるものと思っておりましたのに」

 エラゼルが問うと、王太子はにやりと笑った。

「あいつめ、戻ってきたと思ったら、この話を使って、またあの場から逃げようとしたのでな。私の代わりに残してきた。勿論、父上に許可を取った上でだ」

 愉快そうに笑う。

 王太子があの場を離れる口実は「双剣の鷲に会いに行きたい」で、国王には十分だろう。

 国王も、それが子供の頃からの王太子の憧れの存在である事は、知っていたのだろうから。

「罪な事をなさいますな。あの方は常に、翼を付けて飛んで回りたいと思っておいででしょうに」

 エラゼルの言葉に、正にその通り、とラーソルバールは苦笑した。

「はっはっは、そうだな。では、早いところ戻って解放してやるとするか。先ほどの件は、シジャードに仲介を任せる。宜しく頼むぞ」

「ははっ!」

 シジャードは敬礼し、頭を下げた。

「では、名残惜しいが、今度は我が師として会えるのを楽しみにしておるぞ。皆の楽しい時間を奪って済まなかったな」

 皆が頭を下げて王太子を送る。

 上機嫌で戻る姿は、エラゼルをして「あんなお姿を見たことが無い」と言わしめる程だった。


「ふう、社交界とはいえ、気が張る事この上ないな」

 父が苦笑する姿を見て、ラーソルバールが口を開いた。

「終わった訳じゃなくて、これからが大変でしょ、父上は」

 王太子との約束があるのを忘れるな、と言ったのである。

「さあ、お役目も終わったし、私は戻るよ。クレストさん、今度は伝言を持って伺いますよ」

 シジャードもラーソルバールの言葉に乗っかる形で、挨拶をすると、先程まで居た場所に戻って行った。

「新年会ってのは気が休まらないもんだね」

 平然とするエラゼルを見た後、シェラの顔を見てラーソルバールは大きく溜め息をついた。

「ほんとにね」

 友はその気苦労を酌むように、同じく溜め息をついた。


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