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八百万  作者: マー・TY
第八章
97/115

97.笑顔の話

「シロ君………」


「わりぃ待たせた」


 親友が来てくれたことにより、アオは安堵した。

 表情に元気が戻る。

 それに対し、柳と赤狐の目は突然現れたシロに釘付けになっていた。

 

(は?マジかよ……。コイツシロだよな!?この辺じゃサシだと最強っていう白フード!!……コイツとダチとかアオちゃんどうなってんだよ!?赤狐とも知り合いっぽいじゃねぇか!!)


 巷で恐れられている2人がいるこの状況を、柳は簡単に呑み込めずにいた。

 一方赤狐は、シロの登場に焦る。


(出口側にはシロ君がいる。絶対逃がしてくれない。ゴミを殺して、その混乱に乗じて逃げることしか思いつかない。……いや、それで行く!速攻で!!)


 赤狐はすぐに動いた。

 左腕でアオを突き飛ばし、右手に持ったナイフで柳の首を狙った。

 柳の首を切れば目的達成。

 そのつもりだったが、失敗した。

 ナイフを持った手を、背後から掴まれたのだ。


「ッ!!?」


「まだ殺し足りねぇのかよ!!」


 赤狐を止めたのはシロだった。

 赤狐はシロの手を振り解こうとするが、強く掴まれていて離れない。

 逆にシロが赤狐の腕を捻り、ナイフを手から離させた。

 そして落ちたナイフを拾い、ベランダに投げる。

 割れた窓から飛び出したナイフは、そのまま落下していった。

 

「くそっ!!」


 赤狐はシロの腹を蹴り、手を振り解いた。

 それから空かさずアイスピックを取り出し、固まる柳の首目掛けて突き刺そうとした。


「ダメ!!」


 しかし、それもまた防がれた。

 アオが赤狐からアイスピックを奪おうと試みる。


「邪魔するな!」


「殺させないから!」


 普段の赤狐なら、少女一人くらいどうにでもできる。

 しかし、無理に振り解こうとすれば、アオにアイスピックが刺さる恐れがある。

 そのため赤狐は、本気を出せなかった。


「アオ!手ぇ離せ!!」


 シロが横から赤狐に体当たりをした。

 アオはタイミング良く赤狐から離れる。

 吹き飛ばされた赤狐は、古びた壁に体を打ちつけた。

 その拍子にアイスピックが手から落ち、それをシロが拾ってナイフと同じように捨てた。

 

「……くそっ、…なんで……」


 赤狐の目の前には、アオと柳を庇うようにシロが立つ。

 正直なところ、分が悪い。

 柳を狙わずに逃げておくべきだったと、今更ながら後悔した。

 赤狐にとって今すべきことは、シロを無力化させることだ。

 シロを動けなくし、アオも気絶させれば、後は柳をいくらでも好きなようにできる。

 

「ごめんねシロ君」


 素早く床を蹴り、赤狐は一瞬でシロに近づいた。

 顔面、顎、鳩尾、脚と、順に一撃入れていく。

 流石のシロの表情も苦痛で歪む。

 背後に回り込み、肘で後頭部を打つと、シロは小さく呻いて膝を着いた。


(後はアオさん……)


 シロが倒れたショックで戸惑うアオを見逃さず、赤狐は倒しに掛かった。

 しかし、それもまた思い通りにならなかった。


「待てよ」


 突然左足を引っ張られ、その衝撃で赤狐は前に転んだ。

 

「まだ俺はくたばってねぇぞ!!」


 足を引っ張ったのはシロだった。

 シロの頑丈さは、赤狐の想像を絶するものだった。

 シロは右足で赤狐を踏みつけに掛かる。

 それに対して赤狐は、体を転がして躱した。

 体勢を整えるべく、赤狐は素早く起ち上がった。

 しかしその時には既に、シロの手が赤狐の顔に伸びていた。


「逃がすかよ!!」


 シロは赤狐の顔を鷲掴みにし、勢いよく床に叩きつけた。

 

「ッ!!」


 あまりの衝撃で、一瞬意識が飛びそうになった。

 シロは仰向けに倒れた赤狐の上に、馬乗りになる。


「素顔、見せやがれ!!!」


 シロは赤狐の仮面を、思いっ切り引き剥がした。


「ッ!?………お前は……!?」


 赤狐の仮面の裏に隠れていたレオンの顔。

 それを見たシロは唖然とし、動けなくなっていた。




(………彼が、赤狐の正体……。シオンさんの弟………)


 アオはレオンの顔をまじまじと見つめた。

 顔つきはどことなくシオンに似ている。

 その子供っぽくて可愛らしい顔から、彼が殺人を犯しているということが想像できなかった。

 

(……シロ君。……もしかして、彼と知り合いなのかな?)


 アオは視線をシロに移す。

 先程は容赦なく攻め立てていたが、今は驚いた様子で動きを止めていた。


「お前、レオン……だよな?」


「……憶えててくれたんだ。シロ君」


 そう言いながら、レオンは弱々しく笑う。

 仮面を付けていた時とは打って変わって、その表情は穏やかだった。


「………バレちゃったなぁ。君にはバレたくなかったんだけどな。ほら、こうやって止められた」


「お前、小学の時から考え変わってねぇみてぇだな」

 

「変わる訳ないじゃん。僕の姉さん、いじめで自殺したんだ」


「………そうかよ。そんで、どうして殺人鬼になった?」


「あの時も言った筈だよ。人を傷つける奴は、反省なんてしない。無自覚な奴だっている。だから、傷つく人が出てこないように、そんな奴らを殺して廻ってた。そしたら、いつの間にか殺人鬼“赤狐”って呼ばれるようになってた」


 レオンは顔を逸らし、不機嫌そうに応えた。

 シロは少し考えてから、改めて話を訊く。

 

「こう言うのはアレだけどよぉ、お前の姉ちゃんを自殺に追い込んだ奴らだけじゃ気が済まなかったのか?」


「そいつらを赦せなかったのもあるけど、僕は姉さんに何もしてあげられなかった。だから、姉さんみたいな犠牲者を出さないことが、きっと償いなんだ」


「………“償い”……な。あン時言ってた“制裁”といい、どんだけ勝手なんだテメェは!」


「うるさい!」


 そう一言言ったと思うと、レオンは体を素早くずらし、シロを転がり落とした。

 それから、シロ達から距離を取る。


「何を言われたってやめるつもりはない。君に止められる義理はない!」


「レオン!!」


「お、おいおい!まだやるのかよ!?」


 睨み合うレオンとシロ。

 それに狼狽える柳。

 険悪な空気が流れ始めていた。

 そんな中─────


「レオン君!」


 居ても立ってもいられず、アオが口を開いた。

 シオンのことを思うと、アオもレオンを止めたいと思っていた。

 力になりたかったのだ。


「レオン君はお姉さんの、どんな顔が好き?」


「はぁ?何その質問?」


「教えて、くれないかな?」


「………」


 アオの声色は、落ち着いていて優しい。

 レオンは気恥ずかしそうにそっぽを向いて応える。


「……決まってるだろ?笑顔だよ。僕は、姉さんのあの優しい笑顔か好きだった」


「そっか。……解るよ。私もカイの……兄の笑顔が好きだから」


「ずっと見ていられると思ってたよ………」


「……じゃあさ、レオン君」


「何?」


「今のレオン君を見て、お姉さんは……笑顔になれるのかな……?」


「え………?」


 アオのその言葉に、レオンは言葉を詰まらせた。

 やれやれと言うように頭を掻きながら、シロもレオンに言う。


「小学生の頃、お前がいじめっ子にブチ切れて病院送りにした時、お前の姉ちゃんはどんな顔してたか憶えてねぇのか?」


「……僕は………、僕は…………ただ………」

 

 レオンはその時のシオンを思い返していた。

 シオンはレオンのために、心から怒っていた。

 暴力で返してはいけないということを、シオンが一番解っていた。


「姉さん………」


「シオンさんに、会いたい?」


「!!?……どうして君が姉さんの名を……!?」


「学校の図書室に行って。きっと会えるよ」


「何……!?」


「シオンさんを、安心させて……逝かせてあげてくれないかな?」


 これはアオの本心だった。

 どうしても、シオンに浮かばれてほしかった。


「ッ!!!」


 アオの心が通じたのだろうか。

 レオンは、部屋から飛び出していった。


「おい、行かせて良かったのかよ?」


「大丈夫。レオン君はきっと、もう人は殺さないよ」


「何で解んだ?」


「シオンさんに会えば、きっと………」


「……そうかよ。……で、そいつは何なんだ?」


 シロは柳を指差して訊く。

 突然注目された柳は、ギクリと反応した。

 

「え、えぇと………」


 アオも戸惑っている。

 アオ自身、レオンがいなくなった後のことを考えていなかった。

 柳の存在はトラウマであるのもあり、話しづらい。

 それにシロは気づき、溜息を吐いて訊き方を変えた。


「元同級生か?」


「うん……」


「あいつにもいじめられたのか?」


「……………うん」


「そうか」


 シロはそう言うと、手をパキポキ鳴らしながら柳に近づいていった。

 その様子に柳は震え上がる。


「お、おい!何だよ!?」


 柳の言葉は、シロの耳には入らない。

 シロは右拳を、思いっ切り柳の顔面に叩き込んだ。

 柳は呻き声を上げて倒れる。

 床に鼻血が零れていった。


「シロ君………?」


「お前、今日のこと忘れんじゃねぇぞ。アオ、帰るぞ」


「ちょっと、シロ君!?」


 シロは戸惑うアオの手を引いて行く。

 2人も部屋から出て行った。


「………何なんだよ…………くそっ………!」


 薄暗い部屋の中には、柳だけが残されていた。

八章は次でラストです。

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