94.逢ってしまった話
「灰崎……灰崎!……」
自身を呼ぶ声が聞こえ、レオンは顔を上げた。
目の前に眉をひそめた世界史の教科担任が立っている。
過去を思い返しているうちに、いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
教科担任が来ているのを見るに、もう授業は始まっているらしい。
「すみません先生」
レオンは淡々と謝り、教科書、ノートを机の中から取り出した。
「何だ?お前寝不足か?」
「まぁ、そんなところですかね……」
「そうか。ゲームも程々にして早く寝ろよ」
「はい」
教科担任はレオンに注意だけをし、授業に戻った。
ゲームのし過ぎで寝不足になっていると勘違いされたが、本当は夜な夜な人を殺して廻っているのが原因だ。
しかし、レオンはそれをやめようとしない。
レオンにとって、まだまだ赦せない人間がたくさん存在するからだ。
(今日も頑張ろう………)
レオンは膝の上で、こっそりスマホを機動させる。
今日のターゲットを確認し、レオンは考え始めた。
できるだけ苦しめて殺せる方法を。
「ありがとうございましたー!」
店員のお礼に対して軽く会釈したアオは、コンビニから出た。
手に持ったビニール袋には、プリンと小さめのスプーンが入っている。
アオはそれを鞄に仕舞うと、シロの家を目指し、その途中の繁華街に入った。
(シロ君、プリン喜んでくれるかな?)
病気ではないにしても、シロは今日学校を休んだ。
そのためアオは、一応シロの家にお見舞いに行くことにした。
事前にシロにも連絡を入れ、承諾を得ている。
お見舞いの品も買った。
赤狐のこともあり、アオ自身シロのことを心配していたが、それ以上に会いたいという気持ちが強かった。
(今日あったことを話そう。ノートも執ってあるから貸してあげよう。……それと………)
アオは昼休みに図書室でシオンから聞いた話を思い出した。
(………言おうかな?…でも、シロ君信じてくれるかな?)
図書室にいる幽霊が赤狐の姉。
そんな話を、シロが信じてくれるかよく解らなかった。
“ドッ”
「わっ!?」
アオは人とぶつかってしまった。
考えることに夢中で、注意散漫になっていたようだ。
「ご…ごめんなさい……………ッ!!?」
アオは相手を見て固まった。
ぶつかった相手は、美男美女カップルのうちの男の方。
アオは彼から目線を逸らせなかった。
「あれ?もしかしてアオちゃん?」
彼はアオの名前を呼ぶ。
2人はお互いに顔見知りだった。
「ねぇヤーく~ん、その娘何なの~?」
「ごめんねナコちゃん。今日はもうこれで解散しよう」
「え~~~~?」
「そう落ち込まないでよ。愛してるよ♪」
そう言って彼は、ナコと呼ばれた少女の頬にキスをした。
ナコは満更でもない様子で、またデートをすることを約束させ、帰っていった。
「さてと……」
彼はアオに向き直った。
「アオちゃん。俺のこと憶えてる?」
「…………柳君」
「あはは!憶えててくれたんだ!嬉しいよ!……まぁ、忘れる訳ないよね~?」
柳と呼ばれた少年は、口角を上げて笑った。
アオに近づき、肩に手を回す。
アオは体をビクリとさせ、カタカタと震え始めた。
柳はアオの耳元に囁き始めた。
「本当に久しぶりだね。2年ぶりくらい?中2の途中くらいから会えなくなったよね。音信不通だったし。いや~、また会えて嬉しいよ」
「ッ!!」
アオは柳の腕を振り解いて逃げようとした。
しかし柳はそれを許さず、アオの腕を掴んで止める。
「どこ行くの?せっかくだから食事でも一緒にしようよ♪」
柳はアオの腕を掴む手に、力を入れた。
どうしても逃がしてはくれないらしい。
「離して……。痛い………」
「やめてよ~。俺が酷いことしてるみたいじゃん」
「離してよ………」
「廃人同然になったと思って諦めてたけど、元気そうだね。今ならこれ見せても大丈夫そう」
柳はスマホを取り出し、写真を漁った。
そして目当てのものを見つけ出し、アオに見せた。
「ッ!!!」
アオは目を見開いた。
過去の忘れたいのに忘れられない日々が、頭の中を支配し始めた。
「フフフ。ここじゃ人が多いし、こっちでお話しようか」
「痛いのは………。痛いのは、やめてください………」
「だ~か~ら~、そんな酷いことはしないって~」
片手で目を隠して怯えるアオを引きずり、柳は人気のない裏路地に入っていった。
「フ~ンフ~ンフ~ン………ん?」
すっかり怯えきったアオに対し、機嫌良さそうに鼻唄を歌う柳。
そんな2人の前に、赤い狐の仮面を付けた少年が立っていた。
赤狐だ。
「は?お前何?」
「……その娘を離せ」
「何で?何でお前みたいな変な奴にそんな命令されないといけないの?コスプレイヤーはこっから出て行けば?」
挑発するような口調で話す柳。
それに対して赤狐は、黒いパーカーの右ポケットを漁る。
出てきたのは、ナイフだった。
それを見た柳は、少し後退る。
「ははっ……。何それ?それもコスプレ?」
「本物だけど」
「もしかして、それで俺を刺すの?そしたら君捕まるよ?」
「だけどお前の一生は終わる。ていうか、刺したら捕まるとか今更なんだよなぁ……」
赤狐は手の中でナイフを回しながら、ゆっくりと近づいていく。
それに伴い、柳もアオを引きずりながら下がった。
「……………何?」
自分が置かれている状況に変化を感じたアオは、ゆっくりと手を顔から外した。
(……!!………あの人は……)
アオは目の前に赤狐がいることに気づき、再び驚いた。
赤狐を見るのは、これで3度目になる。
柳の方を見ると、表情が引きつっている。
アオは何となく状況を察した。
今から赤狐は、柳を殺そうとしている。
『あの子は、今も人殺しを続けてる。赤い狐の仮面で顔を隠して、悪人だけを狙ってね………』
嫌な過去に汚染されていた脳内に、シオンから聞いた話が浮かび上がってきた。
このままじゃいけない。
アオの中で、そんな声が聞こえた気がした。
「柳君こっち!」
「えっ?」
アオは柳の手を引き、路地裏から駆けだした。
「なっ!?待て!!」
赤狐はこの事態を予想できていなかった。
急いで路地裏から出ようとしたが、一度踏み留まった。
繁華街は人で賑わっている。
アオ達はそんな人混みの中に、上手く紛れて逃げている。
(学校で過ごしていて解るけど、赤狐のことを知っている人は多い。あんまり目立ちたくはないな……)
赤狐は仮面を外して服の中に隠すと、路地裏から出てアオ達の捜索を始めた。
アオの元同級生出したのいつぶりだろう




