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八百万  作者: マー・TY
第八章
93/115

93.自責の話

「失礼しました」


 レオンは冷めた口調で挨拶をし、職員室から出た。

 あれからマサルは病院に搬送され、レオン達含めたその場の生徒達は、それぞれ教師から事情を聞かれることになった。

 シロとシオンは特に何も言われることなく解放され、レオンとマサルの取り巻き達は厳重注意を受けて返された。


「レオン……」


 職員室前の廊下で、シオンとシロが待っていた。

 シオンは汚れた制服を体操服に着替えていた。

 

「姉さん、怪我してたよね?痛くない?」


「平気よ。……それよりマサル、傷を針で縫うことになるんだって」


「フ~ン……。まぁ、妥当かもね」


「何ですって……?」


 レオンのその冷たい言葉に、シオンは驚く。

 自虐的に笑いながら、レオンは続ける。


「あいつ、姉さんにあれだけのことやったんだよ?悪いことをしたら罰が当たるのは当然だよ。いや、寧ろ軽かったかな。どうせあいつらは反省せずに、同じことを繰り返すんだよ。だったらいっそ殺した方が──────」


「レオン!!」


 呪詛を唱えるように話すレオンの両肩をシオンが掴んで止めた。


「何をされても、相手を殺すなんてダメ!どんなに相手が悪くても、レオンも犯罪者になっちゃうのよ!?」


「だけど、注意だけなんて生温いよ。それなりの制裁は受けさせないと……」


「それは大人がすることなの!レオンがする必要はないわ!」


「大人の制裁は生温いって言ってるんだ!!」


 普段は仲が良いレオンとシオンだが、今日のことを巡って言い合いになってしまっていた。

 

「レオン……」


 見かねたシロが、レオンに声を掛けた。


「シロ君も、人を傷つけるような奴はいない方がいいって、死んだ方がマシだって、そう思うでしょ?」


「…………いや、そうは思わねぇよ」


 シロは今まで、クラスのいじめっ子から散々嫌がらせや暴行を受けてきていた。

 レオンは、シロなら同調してくれると考えていた。

 しかし自分の考えを否定され、言葉を失う。

 シロはレオンを説得するように続けた。


「お前の姉ちゃんの言うとおり、人を殺すのは良くねぇよ。それに、人は反省して学んでいく生き物なんだって、俺の母ちゃんが言ってた。だから、今日のことであいつらがいじめをしなくなるのを信じようぜ。な?」


「………うん」


 そう言ったものの、レオンは腑に落ちずにいた。

 しかし小学校ではそれ以来、レオンがいじめっ子に暴行を加えることはなかった。




 月日は流れ、レオンは中学生になった。

 中学校は小学校と比べればマシだったが、それでも荒れている者は荒れている。

 いわゆる“普通の中学校”だ。

 小学生気分のままで調子に乗っている者もいたが、大抵教師や先輩達に粛正されていた。

 ちなみに、シロは別の中学に行ったため、会うことがなくなった。


(シロ君は、相変わらずなのかな………)


 ある中学校に、一人で上級生複数人を倒せる程の強さを持つ新入生が入ってきたという。

 シロは相変わらず喧嘩ばかりらしい。

 レオンは普通に勉学や行事に励むという、至って平穏な中学校生活を送っていた。

 そして気づけば1年程が経ち、レオンは2年生に進級していた。

 ある日の帰り道、レオンはシオンと合流した。


「あ、姉さん今帰り?」


「レオンも?……奇遇ね」


 2つ年上のシオンは、この時高校1年生。

 レオンと同じ中学に通っていたが、今は進学し、隠神高等学校に通っている。

 2人は一緒に帰ることにした。


「レオン、学校楽しい?」


「うん。まぁ、普通」


「そう。……良かった」


「姉さんこそ、学校楽しい?」


「う~ん………。まぁ、普通……かな」


 何故だか知らないが、シオンはレオンから視線を逸らした。

 その笑顔は、どこか暗い。


「姉さん、何か隠してない?」


「えっ?いや、そんなことないわよ。ほら、早く帰ろう!夕飯何かな~」


 シオンは歩を速める。

 レオンは少し違和感を覚えながらも、シオンに続いた。

 しかし、本当はここで気づいておくべきだったと、レオンは後悔ことになる。




 さらに時は流れ、レオンは中学3年生になった。

 そろそろ進路について決めなければならない学年になった。

 レオンは特に進学する高校を決めておらず、ひとまずシオンが通っている隠神高校にしようと考えていた。

 そんな最中、レオンにとって忘れられない事件が起きる。


「すみません。灰崎に用が……」


 授業中、深刻そうな顔をした担任がレオンを呼びに来た。

 何の身に覚えがない。

 レオンは首を傾げながらも担任の呼び掛けに応え、教室から出た。


「先生、何の用ですか?」


「灰崎、落ち着いて聞いてくれ。……お前のお姉さんが、亡くなったそうだ」


「……………はっ?」


 レオンは一瞬放心した。

 いきなりシオンの死を告げられ、訳が解らずにいた。


「………いや。冗談はやめてくださいよ先生。授業中に呼び出してまで何言ってるんですか……」


「灰崎………。受け入れられないのは解るが………」


「…………冗談………ですよね?」


「……………」


 担任はレオンに掛ける言葉を見つけられずにいた。

 この時、レオンは本当に冗談だと思っていた。

 しかし、職員室の電話で母の声を聴いたとき、冗談ではないということを理解した。




 この日レオンは早退し、シオンが搬送された病院に向かった。

 霊安室に案内されて入ると、泣いている父母と、顔に白い布が被せられた死体があった。


「父さん……母さん………?」


 レオンは未だにシオンの死を信じられずにいた。

 しかし、こうして家族が泣いているところを見ると、現実味が増してくる。

 テレビのようなドッキリであってほしい。

 そのような想いでレオンは遺体に近づき、顔に掛けられた布を取った。


「ッ!!!」


 シオンで間違いなかった。

 間違える筈がない。

 シオンは目を瞑っており、顔は青白い。

 レオンは試しに、シオンに触れてみる。

 頬は冷たい。

 鼻や口元に手を当てても、呼吸をしている様子はない。

 首元に触れても、脈はない。


「あ……ああ………………」


 レオンはシオンから後退った。

 信じたくはない。

 しかし、認めざる負えなかった。

 シオンが、亡くなっていることを。


「あっ………うあ──────」


 レオンの両目から涙が溢れてきた。


「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ────────!!!!!」


 レオンはその場に崩れ落ちて号泣した。

 物知りで、優しくて、大好きだった姉は、もう二度と戻ってこない。




 警察から聞いた話だったが、シオンは自殺したのだという。

 目撃した生徒の証言によれば、昼休み、多くの生徒が見ている中で、シオンは教室の窓から飛び降りたのだという。

 また、別の生徒の証言では、シオンは高校1年生の頃から日常的にいじめを受けていたということだった。

 それを聞いたレオンの心の中で、自責の念が生まれた。

 どうして気づけなかったのか。

 自分にもできることがあり、それを成すことで変わったのではないか。

 シオンをいじめから助ける自分。

 そんな妄想が、何度も脳裏に過った。

 そして、それと同時にシオンのことをもっと知りたくなった。

 葬式が終わって数日後、レオンは何度も隠神高校に訪れた。

 教師やシオンのクラスメイト、同級生に話しかけ、情報を集めることにした。

 教師達のほとんどは惚けていたり、知らなかったりで、まともに取り合ってもらえなかった。

 ただ、ある一人の科学の教師によれば、証拠不十分、学校の圧力により、いじめは無かったことにされたという。

 教師達とは違い、生徒からの方がいじめについて具体的に聞くことができた。

 無視から始まり、物隠しや水掛け、暴行等と、どんどんエスカレートしていったらしい。

 服を脱がされた写真を撮られて脅され、周りに相談できずにいたという話も出た。

 そしてついには、自殺の瞬間を見た生徒に逢うことができた。

 その生徒によれば、シオンは家族への遺言を残し、悪戯っぽく笑い、「サヨナラ」と言って窓から飛び降りたという。

 それから、いじめの加害者は全く反省している様子はなく、寧ろシオンの死を嘲笑っていることも解った。

 ここまでを通し、最初は自分を責めていたレオンの中に、激しい怒りが生まれていた。


(やっぱりそうだ。人を苦しめるような奴は、何が起こったって反省することはないんだ………)


 いじめ加害者達の名前も教えてもらった。

 レオンは現在道端で、その生徒達の背後を歩いている。


(コイツらはきっとこれからも、他人を不幸にし続ける。殺さないとダメなんだ。犠牲者が出ないように、僕がそういう奴らを裁くんだ………)


 レオンは鞄から、赤い狐の仮面を取り出した。

 それはいつかの夏祭りで、シオンに買ってもらったものだった。

僕には双子の兄がいます。いつか別れることになると思うと、ちゃんと受け入れられるかどうか不安です。

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