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八百万  作者: マー・TY
第八章
91/115

91.憧れる話

 レオンによるシロの観察は続いた。

 シロはよくひとりぼっちで過ごしていたが、本人は特に気に留めていない様子だった。

 誰かといる時はあるが、大抵喧嘩をしている。

 喧嘩する度にシロの怪我は増えていった。

 そしてそれと同時に、いじめっ子達が負う怪我も増えていっていた。


(シロ君、喧嘩強くなってきてる?)


 格闘家等は場数を踏むほど強くなるといった話を聞いたことかある。

 シロは毎回、一人で複数人を相手していた。

 それでも怯まずに立ち向かっていたせいか、徐々に喧嘩慣れしてきているのだろう。


(このまま行ったら、シロ君がこの学校を支配する、なんてことがあるのかな………)


 シロはいじめをするような人間ではない。

 そんなシロがこの学校のいじめっ子達を束ねれば、この現状はマシになるだろう。


(まぁ、シロ君からしたら知ったこっちゃないんだろうけど………)


 眠そうに窓の外を眺めるシロを見ながら、レオンはそう心の中で呟いた。




「レオン、帰るよー!」


 4年生の教室の入り口で、少し背が高い眼鏡の少女がレオンの名前を呼んだ。

 彼女はシオン。

 2つ年上のレオンの姉だ。


「うん、今行く」


 レオンはランドセルを背負うと、すぐにシオンの元に向かった。

 この2人は仲が良く、下校の際は一緒だった。

 レオンは物知りで読書家のシオンのことが大好きだった。


「レオン、最近学校どう?」


「う~ん……まぁ、普通」


「そっか。それは何よりね。ところで、あの白いパーカーの子って転校生?最近見るようになったんだけど」


「シロ君のこと?」


「へ~、シロ君っていうの」


 シオンは柔やかな表情を浮かべた。


「レオンってさぁ、シロ君のことよく見てない?友達になったの?仲良いの?」


「いや、全然。……ただ───」


「ん?な~に?」


「何となく、気になるんだよね。あいつ、負けるの解ってるクセに、たった一人で何度もいじめっ子達に抵抗してて。転校してきた初日なんて、女子庇ってボロボロになってて。見て見ぬふりしてる方がいいのに」


「そう?私はカッコいいと思うわ」


「えっ?」


 意外な返答に、レオンは呆気に取られる。

 シオンはよくレオンの意見に同調してくれるが、今回は真反対だった。


「周囲がそういう雰囲気でもさ、シロ君はちゃんと間違ってるって思えてる。だからこそ立ち向かう。でも、行動に移すのはとっても勇気がいることよ。ちゃんと行動できるシロ君は尊敬できる子よ」


「………そうか。でも、僕にはそんな勇気ないよ」


「今はね」


「へっ?」


「これから、勇気がある子になればいいわ」


 シオンはそう言ってレオンの頭を優しく撫でた。

 レオンは照れくさくなり、頬を赤くする。


(……僕がシロ君のことよく見てるのって、シロ君のことをカッコいいって思ってるからかな)


 今度また、シロに話しかけてみよう。

 レオンはただそう思うのだった。




 シロが転校してきて3ヶ月。

 その間もそこまで変わらない日常が続いた。

 シロもまた、自分に正直に生活していた。

 そしてある日の朝。

 

「いでぇー!!」


「ぐすっ…う”ぅ”……」


「何だよコイツ!何なんだよコイツ!!」


 床に倒れていたり、泣きじゃくっていたり、教室から逃げ出していたり。

 いじめっ子達が全員悲惨な状態になっていた。

 その中心にはシロが立っていた。

 事の顛末はこうだ。

 いじめっ子達はいつものように、大勢でシロを揶揄っていた。

 彼らは大勢なら負けることはないと思っている。

 その中の一人が、シロのランドセルにぶら下がっていた御守りの紐を千切って奪った。

 シロは取り返そうとするが、彼らは御守りを仲間内でパスしあって楽しんだ。

 その様を見て、堪忍袋の緒が切れたのだろう。

 シロはいじめっ子一人一人を攻撃していった。

 どの殴りも蹴りも重かったのか、いじめっ子達はすぐにダウンしていった。

 そしてシロは、あっという間に全員を反撃できないくらいに圧倒したのだった。


(……人って、強くなるんだな)


 シロは一人のいじめっ子に近づく。

 そして怯えて後ずさりするいじめっ子から御守りを取り返した。

 シロはいじめっ子達に声をかけることもなく、自分の席に着いた。


「おはようシロ君」


「……あぁ」


 ふとレオンは、シロに話しかけた。

 なんとなく会話がしたくなったのだ。


「すごいね。一人であいつら負かしちゃうなんて」


「別にすごくねーよ」


「……その御守りさ、そんなに大事な物なの?」


「あぁ」


 シロは御守りを強く握り締めた。


「これ、母ちゃんが作ってくれたやつなんだ。俺がこの学校に来てから、よく怪我するからって。あいつらに取られてカッとなっちまった」

 

「………そっか」


 レオンはいじめっ子達を見た。

 ほぼ全員泣きじゃくっているが、彼らを慰めるような者はいない。


(まぁ、クラスを暴力で支配してたような奴らだし、当然だよな……)


 いじめっ子達を蔑みながらも、レオンの脳内に新たな考えが浮かんだ。


(これ、甘くない?)


 頬が腫れていたり鼻血が出たりしているものの、いじめっ子達にはほぼ外傷が見られない。

 シロは今の彼ら以上に傷ついてきた上に、今さっき大切な物を弄ばれた。

 彼らが今までやってきたことに比べれば、シロがこれだけで赦すのは甘い気がしたのだ。


「シロ君、もっとやらなくて良かったの?」


「は?」


「あいつら、今まで君に酷いことしてきたんだよ?今の君ならもっと苦しめることができると思うんだけど」


「いい」

 

「え?」


「これ取り返したからもういい。これであいつら、もう何もやってこねーと思うし」


 シロは御守りを眺めてそう言った。

 レオンはどこか物足りなさを感じたままだった。

当時の教諭達によれば、シロが模範的な生徒のうちの一人だったとかそうでないとか。

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