9.人気者の話
「クロ君だ!」
「かっこいい!!」
「ねぇクロ君、今度の日曜日カラオケに行くんだけど、クロ君も来ない!?」
たくさんの女子生徒に囲まれているのは、1年4組の夏目黒乃。
アイドルのような綺麗な顔立ちと爽やかな性格で、入学早々から学年問わず、彼は多くの女子生徒の人気者になった。
彼女らは彼のことを、“クロ”と呼ぶ。
「もちろんいいよ。僕の歌声、披露させていただこう。それじゃあ僕は予定通り図書室に行くとするよ」
「図書室!?」
「あたしも着いてきていい!?」
「ちょっと!何抜け駆けしてるのよ!」
「ウチも行きたい!」
「う~ん………。構わないよ」
「やったー!」
「クロ君優しい!」
「それじゃあ行こうか」
クロは女子の行列を引き連れて、図書室に向かった。
「すご~い!」
「ウチ図書室初めての来た!」
「あたしも~!」
図書室には、静かさを求めて来る者も少なくない。
そんな静な場所でも女子たちの声量は収まることなく、廊下や教室にいるときと変わらないボリュームで喋り続ける。
読書を楽しんでいた者達の冷ややかな視線が、クロ達に突き刺さる。
「君たち、ここは静かに本を読むための場所なんだ。声のボリュームを下げてくれると助かるよ」
「あ、そっか!」
「ごめんクロ君!」
「ねぇねぇ!クロ君はどんな本を読むの!?」
小声で注意をするクロだが、女子達はあまり気にしてはいないようだ。
声量が下がったが、それでもまだ鬱陶しく感じる。
ひそひそ声で話しているが、図書室中に響いていることには変わりなく、たまに元の声に戻ったり、笑い声を出したりするのでタチが悪い。
こんな状況に、クロは苦笑した。
(参ったなぁ。これでは長居できない。ゆっくり本を選ぶこともできないな。出直すとしよう)
そう思ったクロだが、瞳に一人の女子生徒の姿が止まった。
歴史書のような本を取り出そうとしているが、背が足りないようで、苦労していた。
クロはその女子生徒の元まで行き、代わりにその本を取り出した。
「はい。この本が読みたいのかな?」
「あ……。ありがとう……ございます」
クロは取り出した本を手渡す。
女子生徒はお礼を言った。
彼女が見せたその微笑を、クロは美しく感じた。
「これはこの街の歴史書だね。興味あるの?」
「はい。ちょっと……」
「そうかそうか。そうだよね。不思議で魅力的だよ。この街は」
そこまで言った後、クロは気づいた。
クロに着いてきた女子全員が、クロが助けた女子生徒を睨んでいる。
クロは少し恐怖を感じた。
「あはは。それじゃあ僕は用事があるからこの辺で。僕の名前は夏目黒乃。また頼って」
「はい。ありがとうございます。……あ、私、日之道明生と言います」
「アオちゃんね。覚えておくよ」
クロはアオに手を振り、女子達を引き連れて図書室を出た。
日曜日の昼頃。
クロは約束通り女子たちとカラオケに向けて歩いていた。
女子複数なのに対し、男子はクロだけ。
完全にハーレム状態になっていた。
「クロ君、カラオケ着いたらタピろう!」
「何だい?そのタピろうって」
「タピオカのことだよ!今ブームなんだから!」
「そっか。チェックしておくよ」
そんな会話をしながら、クロはアオのことを考えていた。
(あの純粋な瞳。心地良い声。あれから忘れられないな)
“ドサッ”
その物音で我に帰る。
クロたちが歩いている道の、右斜め前の車道側に、一人の男性が蹲っていた。
持っていたであろう鞄を落とし、苦しそうに息を荒げている。
(助けなければ!)
クロは、男性の元に駆け寄ろうとした。
しかし、女子たちによって阻止される。
「ど……どうしたのかな?君たち」
女子達は不満そうにしている。
「クロ君こそどうしたの?」
「あそこに苦しそうな男性がいる!助けなければ!」
「どうだっていいじゃん」
「えっ──────!?」
一人の女子のその一言に、クロは絶句した。
女子たちが次々とクロに話し出した。
「私、この日を楽しみにしてたんだよ?」
「あんなオッサンのために、あたしたちの時間が潰されていいの?よくないよね?」
「ウチらより、あんなオッサンを取るの?」
「ウチらとあのおじさん、どっちが大事?」
「別にどうでもいいじゃん。関係ないし」
「きっとクロ君がカッコイイのを妬んで演技してるんだよ!」
「マジ?最低」
クロは何も言えなかった。
自分のこと以外に関心がない女子達に、恐怖を感じると共に怒りを覚えた。
「人命に関わるんだよ?僕達が助けなければ、あの人は死んでしまう。それでもどうでもいいと思えるのかい?」
「うん」
「クロ君さえいてくれれば、ウチらはなんとも」
話にならない。
女子達は男性を助けるよりも、クロとカラオケで遊ぶことしか考えていない。
「クロ君早く行こ!カラオケ屋さん閉まっちゃうよ!」
「せ……せめて救急車を……」
「その時間ももったいないよ!」
「お願いだ!助けさせてくれ!」
クロは女子達に引っ張られていく。
そのまま苦しむ男性を通り過ぎてしまう。
男性を介抱している者は誰もいない。
クロは無力な自分を呪った。
「大丈夫ですか!?」
その声が聞こえたのは、クロ達がその男性を通りすぎて20メートル程過ぎた時だった。
息を切らして走ってきたその少女は、男性の介抱を始め、スマホで救助を呼んだ。
その少女に、クロは見覚えがあった。
「アオちゃん………」
アオはスマホを上着のポケットに仕舞うと、男性の背中をさすりながら、男性を励ます。
「なんだもう大丈夫じゃん」
「優しい人がいてよかったね」
「行こう、クロ君」
「う……うん」
本当はアオを手伝いたいが、女子たちに囲まれては逃げられないだろう。
(ごめん。アオちゃん)
クロは大人しく歩きだした。
カラオケ屋に着いたものの、クロは心から楽しめなかった。
その日から数日後、各学年で役員決めがあり、クロは図書委員になった。
この日は委員会活動がある関係で、クロは一人の女子と一緒に図書室に向かっていた。
図書委員は1クラス2人なので、クロのファンの女子のうち一人がクロと一緒になった。
「クロ君のこと独り占めにしちゃった!嬉しいな!」
「あはは……」
苦笑するクロは図書室に着いて、指定された席に座る。
「あ……」
少し離れた席に、アオが座っていた。
白フードの少年と、楽しそうに話している。
その白フードの少年を、クロは羨ましく思った。
そして、無性にアオと話がしたくなった。
委員会活動が終わると、クロは一緒になった女子を先に帰らせ、アオに話しかけた。
「やぁ。アオちゃん」
「あ…、夏目……さん?」
「そう。覚えていてくれたんだね。それと、クロでいいよ。みんなにそう呼ばれてるし。それに、ため口でいいんだよ。僕も1年生だから」
「そう……か。クロ君………。猫ちゃんみたい」
アオがクスリと笑う。
クロの顔が少し紅潮した。
「知り合いか?そいつ」
「うん、そんなところ。それでクロ君、私に何か用?」
「あ……うん。ただ……君とお喋りがしたくてさ」
「そっか。いいよ」
「じゃあ俺は先帰ってるぞ」
「うん。またね」
アオは白フードの少年を見送った。
「彼、恋人かい?」
クロのその質問に、アオの顔が一気に真っ赤になった。
「ち、ちちち違うよ!友達なの!」
「あはは……。ごめんごめん。さて、何から話そうかな」
それから、クロはアオと共に、大好きな本について語り合った。
女子達に簡単に見つからない、図書室の奥で。
クロもアオも、楽しそうに笑った。
これはクロにとって、女子達と過ごす時間よりも有意義なものになった。
「すみませ~ん!クロ君いますか?」
その声で、クロは現実に戻された。
恐る恐る入り口を見ると、女子達がクロを探しに来ていた。
「どうやらここまでのようだ。楽しかったよ。アオちゃん」
「私も。ありがとう」
「礼を言うのは僕の方さ。また今度話しかけてもいいかい?」
「うん。私達、もう友達だよね」
「友達……」
アオにそう言われると、なんだか嬉しくなってきた。
「うん、友達。良い響きだ。……それじゃあまた」
「うん。またね」
クロはアオに別れの挨拶をして、女子達の元に戻った。
キャラ紹介
クロ
本名 夏目 黒乃
性別 男
学年 高校1年
誕生日 6月13日
趣味 読書
好きな食べ物 ナポリタン
嫌いな食べ物 特になし
美しい顔立ちと爽やかな性格から、女子からの人気者。
そのため学校にいるときは四六時中女子達に付き纏われる苦労人。
それでも女子に優しい。
アオのことが気になっている。




