89.心配な話
「だぁ~~~~~!!!終わった~~~!!!」
午前7時、隠神警察署。
シロはドカッと待合室の椅子に座り、気怠げに叫んだ。
あの後シロは少年を放っておけず、警察に電話した。
それから事情聴取のためにこの警察署に連れて来られた。
シロが思っていた以上に長引き、結局一睡もすることなく朝を迎えた。
「シロ、お疲れ様」
シロの母親であるナギが、シロを気遣う。
当然警察から連絡が着たため、職場から抜けて署に来ていた。
彼女はシロの事情聴取が終わるまで、ずっと待合室で待っていた。
「母ちゃん、帰ってても良かったんだぜ?」
「馬鹿!帰れるわけないでしょう!アンタが警察にいるって聞いて心配したんだから!」
「わりぃ……」
申し訳なさそうに下を向く我が子を見て、ナギは溜息を吐いた。
「アンタ、よく夜の街を歩いているんだって?……そうよね。ひとりぼっちだと、やっぱり寂しいわよね。あたしが家に居た方がいい?」
「いや、そんなことねぇよ。俺が生活できてるの、母ちゃんのお陰だからな。……やっぱ俺もバイトするか………」
「気にしなくていいの!アンタはアンタで勉強頑張ったらいいから」
ナギはそう言い、シロの頭をガシガシと撫でた。
「取り調べで疲れたでしょう?今日はもう学校休みなさい。あたしが連絡入れとくから」
「そうする……」
ナギは早速スマホで学校に電話を掛けた。
その様子を見て、シロもスマホを起動させた。
(アオにメッセージ送っとくか)
シロはLINEを利用し、アオに今日は学校を休むという旨のメッセージを送った。
「……………」
先程からシロは、赤狐のことばかりを意識している。
シロにとって、アオは信頼できる相手だ。
だからこそ、追加で次のようなメッセージを送った。
『狐の仮面付けた男を見たら連絡してくれ』
隠神高校の昼休み。
アオは図書室でスマホを眺めていた。
LINEで送られてきたシロからの2つのメッセージ。
一つはシロが今日学校を休むという内容。
そしてもう一つは、狐の仮面を付けた男を見たら教えてほしいという内容だった。
(狐の仮面……付けた男…………)
これに関してアオには、心当たりしかない。
赤い狐の仮面を付けた男を2回も見ている。
そして彼が殺人鬼であることも知っていた。
(あの人のこと……かな?どうしてシロ君はこんなこと……。危ないこと、考えてないよね?)
アオはシロの力になりたいと考えているが、これはおそらく危険なことだ。
例え狐の仮面を目撃しても、秘密にしておくことにした。
アオはスマホを切り、一息吐いた。
その束の間………。
「ボーイフレンドからのメッセージね」
「びゃっ!!」
突然背後から話しかけられ、アオは仰天した。
黒縁眼鏡に黒髪ロング、冬用の制服の少女が悪戯っぽく笑っている。
「シ……シオンさん。……それ、慣れませんよ。……変な声出ちゃいました……」
「フフフ。良い反応。やっぱりあなた可愛いわ」
シオンは図書室に住み着いている霊だ。
訳あって成仏せずに残っている。
この世に留まる力を補給するため、時々アオに怪談を持ってきてもらっている。
現在アオとシオンがいるのは、図書室の奥にある本棚。
アオがスマホを見ていたのは、シオンを呼んでもすぐに出てこなかったからだ。
「改めまして、シオンさん。怖い話、集めてきました」
アオはノートをシオンに差し出した。
このノートには、アオが集めた怪談が記載されている。
「ありがとう。ゆっくり読ませてもらうわね。……ところで、あなたのLINEのことだけど………」
「……あぁ、シロ君………いえ、友達からの……。もしかして、見てました?」
「覗き見ちゃったわ。……あなたの友達、赤狐を捜しているようね」
「知ってるんですか?」
「えぇ」
シオンは微笑んでいるものの、その表情はどこか暗い。
少し間を置き、口を開いた。
「赤狐はね、私の弟よ」
「えっ!?」
衝撃の事実に、アオは再び驚いた。
シオンは赤狐について、自身の死の経緯も踏まえて語りだした。
「私ね、いじめられてたの。それが耐えられずに、自ら命を絶っちゃった。でも、やっぱり後悔とかあったのかな。しばらくこの世に留まれてた。家に帰ったりしたわ。家族は私のこと見えてなかったけどね」
「…………」
「弟は私を自殺に追い込んだ子達を赦せなかったみたい。それで、その子達を殺しちゃったの」
「………!!」
「それで留まってくれれば良かった。だけどあの子は、今も人殺しを続けてる。赤い狐の仮面で顔を隠して、悪人だけを狙ってね………」
「………そうだったんですか」
アオはシオンがこの世に留まり続ける理由を知った。
殺人鬼となった弟を、放っておけないのだ。
シオンは優しく微笑み、アオの頭を撫でた。
「聞いてくれてありがとうね。誰かに打ち解けたかったの。……でも、気にすることないわ。これは私達の問題だから。ほら、そろそろ5限目始まるんでしょう?また会いましょう」
シオンはアオに小さく手を振り、ゆっくりと消えていった。
「シオンさん………」
本当に気にしなくていいものなのか。
シロのこともあり、アオの心配事が増えた。
シロのお母さん、いつか描きたいな。




