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八百万  作者: マー・TY
第八章
88/115

88.怒りの話

 時刻は21時。

 シロはデパートから出てきた。

 空は真っ暗だが、まだ多くの人が歩いている。

 

(このまま家帰ってもなぁ~……。俺しかいねぇし、好きな番組もねぇし、課題も終わらせちまったし。つまんねー)


 シロはポケットに手を突っ込み、中のものを取り出した。

 小型の猫のぬいぐるみのキーホルダーだ。

 猫は灰色で、帽子を被っている。

 それはゲームセンターでクレーンゲームをした際、唯一取れた景品だった。

 

(こんなの俺が持っててもなぁ。……アオにやるか。あいつ猫派だしな)


 キーホルダーをポケットに戻すと、シロは左右を見渡した。

 少し散歩をしてから帰ろうかと考えていた。

 シロには父親は居らず、母親は深夜に仕事をしている。

 兄弟姉妹もいない。

 家に帰ってもシロはひとりぼっちだ。

 彼がこうして夜な夜な街に繰り出しているのは、その寂しさを紛らわすためなのだろう。

 遠回りするつもりで、シロは家の方向に歩き出した。

 日付が変わるまでには帰るつもりで。


「た、助けて!助けてください!」


「あぁ?」


 シロの元に一人の少年が駆け寄ってきた。

 眉毛より上の長さの前髪に、眼鏡と学生服といった、優等生を印象付けるような格好をしている。

 彼はシロの目の前で崩れ落ちた。

 とても息が上がっている。

 

「おい、どうした?」


 シロはしゃがみ、少年と目線を合わせた。

 

「友達が………。僕の友達が、大変なんです……!」


「友達?」


「お、お願いです!助けてください!」


「友達が大変って、お前………」


「お願いです!助けてください!」


 少年は助けを求めるばかりで、詳しい説明はしない。

 どうすればいいのか解らないが、かと言って放っておくこともできない。

 

「落ち着け。助けてやるから」


 シロは立ち上がり、少年の手を取った。




 少年に案内され、シロがやってきたのは廃工場。

 ただでさえ不穏な場所だが、夜であるということもあり、その不気味さは最高潮だ。

 最初こそ目が慣れなかったが、次第に周りが見えるようになってきていた。


「こんなとこにいんのかよ?」


「通り魔に追われちゃって、それで刺されたんです。動いたら危険な状態なんです………」


「そうなのか」


「あ、あそこです!」


 少年はドラム缶が複数置かれている場所を指差した。


「あそこの裏です。あの……見てきてくれませんか?」


「は?お前は?」


「僕は…ちょっと………」


 少年は顔色を悪くしていた。

 一度人が刺されたところをその目で見て、トラウマになっているのだろうか。


「解った。任せろ」


「あ、ありがとうございます!」


 シロはドラム缶の方に近づいていった。


「…………フフッ」


 その様子を見て、少年はニヤリと笑う。

 ズボンのポケットから、注射器を取り出した。

 それからゆっくりとシロの方に近づいていく。


(有名人の標本が欲しいと思ってたんだ。この人、この辺じゃ敵無しのシロだよね?まぁ、例え違ってても欲しいな)


 少年は背後からシロに迫っていき、首辺りに狙いを定めた。

 シロはドラム缶の裏側を覗き込む。


「は?」


 しかしそこには誰もいない。

 シロが唖然としているところを見計らい、少年は注射器を刺そうとした。


“ドスッ!”


 尖った物が刺さる音が響いた。

 しかし、刺されたのはシロではない。

 少年の方だった。


「うあっ…………」


「はっ?」


 音に反応したシロが振り返る。

 赤い狐の仮面を付けた男が、少年の背中にナイフを突き刺していた。

 赤狐だ。

 

「い…痛いぃ………」


 赤狐はナイフを少年の背中から引き抜くと、首元に当てた。

 

「おい待て!!」


 シロが止めに入ろうとしたが、遅かった。

 

「ま、まだ……死にたく──────」


「何を今更」


 赤狐は少年の首を、躊躇なく切り裂いた。

 血飛沫を上げ、少年は崩れ落ちる。

 倒れた少年を中心に、血溜まりができていく。


「テメェが通り魔って奴か?」


 シロは赤狐を睨み、身構えた。

 赤狐は首を傾げる。


「通り魔?何のこと?寧ろそれはコイツのことだよ」


 赤狐は息絶えた少年の頭を踏みつけて言った。

 

「コイツはさ、人を毒薬で殺し、ホルマリン漬けにして標本や剥製にしてたんだよ。昆虫の標本なんかをコレクションにする人とかいるよね。コイツはそれを人間でやってたんだよ。多分君もコレクションに加えるつもりだったんだよ」


「だったら、殺していいのかよ?」


「は?」


 シロは赤狐のやり方に納得ができなかった。


「お前ならそいつを警察に突き出すとかできたんじゃねぇのか?そいつが殺人鬼だからって、お前が殺して良いっつーことにはならねぇだろ」


「こんな奴警察に連れて行ってもどうせ死刑だよ。そうじゃなくても、反省するとは思えないね」


「そんなの解らねぇだろ!」


「100%反省するっていう確証もないんだ。どうせ悪は悪だよ。理不尽に人を不幸にしたり、殺したりする奴は死ぬべきなんだ。だから僕はそういう奴らを狙う」


「何様だテメェ……。殺す時点でその眼鏡と一緒だぞ!」


「僕をこんな奴と一緒にするな!!」


 赤狐は怒鳴り声を上げ、少年の頭を強く踏みつけた。

 “ゴキッ”と、骨が砕ける音が響く。


「正直君に憧れてた時期もあったさ。でもダメだね。やっぱり君は甘いよ。シロ君」


「何で俺のこと知ってんだ!?」


「何を言われようと、僕はこの“制裁”をやめない。だから邪魔しないでね。君を殺したくない」


 赤狐はそれだけ言うと走り去った。

 真っ暗な廃工場に、シロと死んだ少年だけが残される。

 シロは握り締めた右拳を震わせていた。


「何が“制裁”だよ………」


 シロの声には怒りが籠もっていた。

地味にミー・TYがいますね。

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