87.慰めの話
「アオ!どこにいるんだ!?」
アオの名前を呼びながら、リリは夜の住宅街を走っていた。
もはや怪人への恐怖は忘れていた。
アオを助けられなければ、一生後悔する。
そんな気がして止まなかった。
「アオ!!返事してくれ!!」
いくら叫んでも返事が返ってこない。
もしかしたら、既に殺されているかもしれない。
残酷な光景が脳内を過り、焦りで声も大きくなる。
転びそうになりながらも足は止めず、気づけば船着き場に来ていた。
「あっ───!」
リリはアオが倒れているのを見つけた。
それと、赤い狐の仮面を付けた少年が、アオを見下ろしている。
「アオ!!」
リリはアオの元に駆け寄り、抱き起こした。
身体中ボロボロの状態で気を失っている。
リリは赤狐を睨んだ。
「お前がアオを、こんなにしたのか!?」
「……いや、僕じゃない。化け物だ。黒ずくめで大柄の」
赤狐からの返答に、リリは少し体を強張らせる。
「じゃあ、お前は何なんだよ!?」
リリからすれば、赤狐は得体の知れない不気味な存在だ。
だからこそ、語気が強まる。
するとリリの声に反応したのか、アオの目がゆっくり開いた。
「!!……アオ!」
「………リリちゃん………。…無事で、良かった……」
アオは弱々しく微笑んだ。
それからキョロキョロと辺りを見渡した。
「あれ?……あの人は……?」
「化け物だったら海に沈んでいったよ」
その問いに赤狐が応えた。
赤狐と一度遭い、その後殺人鬼であることを知ったアオは目を見開いた。
「多分もう、あいつが君達を襲うことはない。だから安心して帰りなよ。…それじゃあ」
アオが怪人を海に落としたという事実はひとまず隠しておくことにした。
言ってしまえば、アオが普通でいられなくなるような気がしたからだ。
赤狐は2人の元から立ち去った。
殺人鬼と聞くと思わず固まってしまうが、アオは赤狐に一度助けてもらっていた。
本人にその意図があったのかは解らないが、狂暴化した男子生徒から守ってくれたことがあった。
アオは恐ろしい存在だと思う反面、本当は優しい人なのだろうと思いつつある。
「アオ………」
アオの頬に水滴が落ちた。
リリの目から涙が溢れていた。
安心させたいと思い、アオはリリの頬に触れた。
「リリちゃん。……赤狐さんの言うとおりなら、もう襲われることはないよ。……もう、大丈夫だよ」
「………何でだよ」
リリの手が震えていた。
それから、考えていたことをアオにぶつけた。
「何で囮なんかになったんだよ!殺されてたかもしれないんだぞ!?今日知り合ったばかりの私のために、……どうしてそこまで……!!」
アオは起き上がり、リリを抱き寄せた。
優しく背中を摩る。
「……ほっとけなかったから。助けたいと思ったから。それだけだよ」
「それだけって………。アオ、……お前、…馬鹿な奴だよ……」
「あはは……。そうかも、しれないね………」
「……でも、…お疲れ。……ありがとな。アオ……」
「うん。リリちゃん……」
アオはしばらく、泣きじゃくるリリを慰め続けた。
時刻は夜の9時前。
アオはリリの家に上げてもらっていた。
電話でカイにリリの家に泊まると伝えてしまっていた。
それに、今の傷だらけの状態をカイ達家族に見られたくはなかった。
その旨をリリに伝えると、快くOKを貰い、今に至る。
アオは風呂に入れてもらった後に傷の手当てをしてもらい、それから夕食もご馳走になった。
リリが自分が助けられたことを話し、アオはリリの両親から盛大に感謝された。
それからアオは、リリの部屋で寝ることになった。
「私のベッド使ってくれ」
「えっ?いいの?……リリちゃんは………?」
「母さんが布団用意してくれたからな。私はこっちで寝るよ」
リリは床に布団を敷き、毛布を置く。
アオもそれを手伝った。
電灯を消し、2人はそれぞれ布団に入る。
しかしすぐには眠れず、眠気が来るまで会話をすることにした。
「全く実感湧かないけど、もうあいつから襲われることはないんだよな………」
「うん。きっともう安心」
「本当にお前には感謝しきれないよ。その…疲れたろ?寝るのに集中するか?」
「うん。……そうだ。ひとつお願いしてもいいかな?」
「ん?何だ?」
「今日のこと、私達だけの秘密にしてくれないかな?カイ……兄や友達が知ったら、多分怒られるし、……心配もされちゃうから」
「アオが言うならそうするよ。何かお前、ちゃっかりしてるな。ていうか、私が怒りたいよ!もっと自分を大切にしろよな………」
「ありがとう。…でも、やっぱり………ううん。何でもない」
「……お前、優しいな」
「ありがとう………」
アオもリリも、優しく微笑んでいた。
こうして喋っている間に、2人は眠気を感じ始めた。
2人は「おやすみ」と言葉を交わすと、眠りに着いた。
それから約一ヶ月が経った。
今となっては人が残酷な殺され方をされたという内容のニュースは聞かなくなり、怪人の噂も途絶えた。
シロも退院し、通学できるようになった。
その際アオの怪我の経緯を聞いてきたが、アオはリリと一緒に「階段から落ちた」と誤魔化していた。
そしてこの日、市民武道館で剣道の県大会が開かれていた。
この大会にはリリだけでなく、トウも参加する。
そのため、アオ達は応援に訪れていた。
カイやニコ達がトウを応援している中、アオとシロは女子の試合を見物していた。
「おいアオ、あいつじゃねぇか?」
「あっ……」
隠神高校の選手達が入場してきていた。
その中にはリリも入っている。
団体戦での出場であり、リリは先鋒を務めることになっていた。
「リリちゃん!!頑張って!!!」
アオは普段出さないような声量で、リリに声援を贈った。
その声はちゃんと届いており、リリは防具の中で笑った。
(アオが応援してくれるのか。なんだか負ける気がしないな。必ず全国大会に行ってみせる!)
いよいよ試合が始まる。
リリは真っ直ぐな目で対戦相手を見据え、竹刀を構えた。
今回で第七章は終了です。次の章も楽しみに待っていてください。




