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八百万  作者: マー・TY
第七章
84/115

84.奔走する話

「………」


 リリはしばらく言葉が出せなかった。

 自分なりに覚悟を決め、囮となってアオを逃がすつもりだった。

 しかし、アオはリリを突き飛ばし、怪人を引き連れて駐車場から出て行った。

 リリにとってはあっという間の出来事だった。

 現在リリは一人、駐車場に取り残されていた。


「何やってんだよ……私は………!!」


 怪人に狙われるのは自分一人で充分。

 そう考えていたからこそ、友人達やアオを巻き込むわけにはいかなかった。

 にも関わらず、アオは自ら囮となり、怪人の標的をリリから自分に移したのだ。

 リリはすぐに立ち上がり、駐車場から駆けだした。


「アオ!生きてるよな!?どこだ!!?」


 夜の住宅街を走りながら叫ぶ。

 アオからの返事はなかった。




 アオは曲がり角を利用して逃げていた。

 アオ自身、体力がある方ではない。

 だからこそ直線状の道では勝ち目はないと判断し、入り組んだ道を選んだのだ。

 怪人の方は苛立っていた。

 直線状の道ならすぐにスピードを上げて捕まえているところだが、巨体故か小回りが効かない。

 そのため苦戦を強いられていた。

 土地勘を活かし、待ち伏せを試みたが、アオは常に怪人の姿を確認しながら逃げているため、上手くいかなかった。

 敢えて怪人の目に映るように逃げるアオの行為は、怪人にとっては馬鹿にしているようなものだった。

 その苛立ちから、怪人はまともにものを考えられていない。

 アオにとってはそれが功だった。


「はぁ……はぁ………」


 アオの息が上がる。

 全力で走っているわけではななかったが、確実に体力は削られてきている。

 足への負担と、死への恐怖で体がガクガク震える。

 

“ヒタ…ヒタヒタヒタヒタヒタ”


 足音が聞こえてくる度に、アオは焦りを感じていた。

 囮になったものの、やはり死ぬのは怖い。


(リリちゃんは逃げられたのかな?…あはは……昨日シロ君から注意受けたばっかりなのに……怒られちゃうかな………)


 この日、トウとニコは先に帰宅。

 コユは急用。

 カイは助っ人として試合を控えているサッカー部と公園で練習。

 ショウはそれの付き添い。

 このように、アオの仲間達はそれぞれバラバラに放課後を過ごしていた。

 カイからの連絡に、アオは『本を読んで早めに帰る』と応えたものの、結局長く学校に居座ってしまった。

 そしてリリと知り合い、今に至る。

 注意を受けた翌日からこの様だ。

 アオは少し、自分が情けなくなった。


“ヒタヒタヒタヒタ───”


 そんなことを思っている間も、怪人は与えてくれない。

 捕まれば死。

 アオは怪人に意識を戻し、逃げ惑った。

 

(そういえば私、……今、どこを走ってるんだろう?)


 気づけばアオは、よく知らない道に迷いこんでいた。

 暗いうえに、アオ自身あまり来ることがない場所だ。

 怪人は未だに追って来ている。

 リリから遠ざけられればそれで良かったが、あの時アオは、自分が助かる方法は考えていなかった。


(とにかく、逃げよう……)


 アオはここで、思いっ切り駆けだした。

 怪人もスピードを上げるが、やはり曲がり角ではなかなか調子は出ないようだ。


(今まで見てきた通り、やっぱり曲がるのは苦手なんだ。……まずは、どこか隠れる場所を見つけて、休憩しよう)


 もう体力は限界だった。

 走っているうちに、アオは船着き場に辿り着いた。

 街灯が場をオレンジに照らしている。

 黒い海には漁船が何台か停泊している。

 ここから毎朝漁師達が沖に出て行くようだった。

 

「!」


 軽トラックが留めてあるのを発見し、アオはその陰に隠れた。

 その場に座り込み、ゆっくりと呼吸を整える。

 それでも心臓の鼓動は落ち着きそうにない。

 アオが隠れて20秒程が経過した時、スカートのポケットに入っていたスマホが振動した。

 びっくりしたが、声を出すのを抑え、アオはスマホを取り出した。

 カイからの電話だった。


「……もしもし?」


 アオは出来るだけ声を小さくして電話に出た。


『もしもしアオか?もうそろそろ8時だぞ?お前今何やってんだ?』


 当然アオを心配しての電話だった。

 

「えっと……。今、友達の家なんだ」


『友達の家?』


「うん。勉強を教えてたら暗くなっちゃって、もう泊まっていったら?って………」


 アオは嘘を吐いた。

 シロを病院送りにするような相手なのだ。

 カイはよく自分を頼れと言うが、アオはカイを命の危機に曝したくはなかった。

 それに、いつまでも守られてばかりの自分にも嫌気が差してきたところだった。


「こんな体験をしたことがないから、何だか新鮮で……。その、泊まらせてくれないかな?」


『解った!母ちゃんには俺が言っとくから、楽しんで来い!その友達、今度紹介してくれよ!』


「もちろん……。じゃあ、切るね」


『おう!』


 カイとの通話を終了し、アオは空を見上げた。

 嘘を吐いたせいか、罪悪感がこみ上げてくる。

 しかし、“必ず生きて帰る”という使命感は高まっていた。


「……頑張ろう」


 アオはそう言って、船着き場の様子を確認しようとした。

 その時だった。


“ドン!!!”


 大きな音と共に、軽トラックに衝撃が走った。

 アオは仰天し、その場に倒れ込んだ。

 恐る恐る目線を上げると、今度は軽トラックがアオの方に傾いていた。

 

「ッ!!」


 アオは急いでその場から離れた。


“ガシャン!!!!”

 

 大きな音を立て、アオが隠れていた場所に向けて軽トラックが倒された。

 

「そんな……」


 アオの目の前には、ひっくり返った軽トラックを見つめる怪人がいた。

 怪人は視線をゆっくりとアオの方に向ける。

 そして、アオの表情が恐怖に染まるのを見て、ニヤリと口角を上げて嗤った。

アオの生死や如何に……

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