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八百万  作者: マー・TY
第七章
83/115

83.覚悟する話

 図書室が思いの他暖かく、いつの間にか眠ってしまったようだ。

 嫌な夢でも見ていたのか、アオの目からは涙が溢れていた。


「大丈夫か?……その、そんなに強く揺らしたつもりはなかったと思うんだが、…えっと………」


 アオの傍で知らない女子生徒が心配そうに見つめていた。

 背が高く、右目が髪で隠れていて見えない。

 彼女はとても困惑した表情を浮かべている。

 アオは頬を手で拭って、初めて自分が涙を流していることが解った。


「……あはは。大丈夫です。ちょっと嫌な夢を見てしまって……。あなたのせいじゃないですよ」


「そ……そうか。あぁ、敬語じゃなくてもいいぞ。私も1年だからな。……あっ、名前は風谷凛々だ。気軽に“リリ”でいいぞ」


「そっか……。私はアオ。日之道明生。よろしく」


 アオは弱々しく笑った。




「へぇ。リリちゃん、剣道やってるんだ」


「あぁ。試合に向けて練習中だ」


「試合があるなら、応援に行くけど………」


「おっ!来てくれよ!」


 アオとリリは、早速意気投合していた。

 殺人事件の影響で、2人とも1人で帰るというわけにはいかない。

 というわけで、一緒に夜道を歩いていた。

 リリにとっては、剣道部の仲間と一緒に歩いている時間より、アオと一緒にいる時間の方が長く感じた。


「アオは、スポーツとかやらないのか?」


「苦手だなぁ。でも、私にはお兄ちゃんがいるんだけど、そっちの方が凄いよ」


「兄ちゃんいるのか」


「うん。私、双子なんだ」


「マジで!?会ってみたい」


 お互い会話で盛り上がる。

 しかし、その楽しさでリリは忘れていた。

 恐るべき存在がいることを。


“ヒタ………”


 その聞きたくもない足音に、リリはビクリと反応する。

 待ち伏せしていたのか、電柱の陰から巨漢が現れ、アオとリリの前に立ち塞がった。

 リリが恐れるあの怪人だった。


「チッ…来たか…………」


「……?」


 いつも一人だったからこそ、リリは今まで何とか逃げられてきた。

 今まで誰も巻き込みたくないがために、一人で怪人と向き合ってきたのだ。

 しかし今はアオがいる。

 運動が苦手だというアオを連れて逃げるのは、一人で逃げるよりも難しいことだ。

 だからといって、アオを放っておくわけにはいかない。


「アオ、走るぞ」


「えっ?」


 リリは自分の荷物を捨て、アオの手を引っ張って歩いてきた方向とは逆に走り出した。

 怪人も走り出す。


「何なの!?あれ……!」


「説明は後だ!逃げろ!殺されるぞ!」


 リリの必死の「殺される」という言葉に、アオもただ事ではないことを知る。


「とりあえず学校に戻るぞ!」


「う、うん!」


 アオも荷物を捨て、2人は学校を目指す。

 学校に戻れば教師達が守ってくれると考えた。

 死への緊張からか、アオの足は覚束ない。

 それでも頑張って逃げた。


「………ん?」


 逃げてる最中、リリは違和感を覚えた。

 あの特徴的な足音が全く聞こえてこない。

 振り返ると、怪人の姿は無かった。


「アオ、ちょっと待て」


「えっ?」


 リリはアオの足を止める。

 アオも怪人が追ってきていないことに気づいた。


「逃げ…切れたの……?」


「嘘だろ?……あいつがこんなあっさり……。やっぱり何を考えてるのか解らないな。…厄介だ」


「……そうなんだ」


 怪人の姿が見えなくなっただけで、またいつ襲ってくるのか、またどこに潜んでいるのかも解らない。

 2人は変わらず学校を目指した。

 アオの息が上がっていたため、走りから歩きに切り替え、体力の回復に計る。

 その間に、アオはリリに気になることを聞いた。


「リリちゃんは、あの人のこと知ってるの?」


「まぁな。……最近部活帰りにあいつに襲われるようになってな……。私、あいつが人殺してたところ、見たんだよ」


「……怖かった?」


「あぁ。怖かった。それからだなぁ。あいつが追いかけてくるようになったのは。……しかもあいつ、だんだん足が速くなってきてるような気がして………」


「……成長してるってこと?」


「あぁ。しかもなんか、ただ追ってくるだけじゃなくてな、何ていうか、考えて追ってきてるっていうか……」


「頭を使ってるんだ………」


 この会話から、アオは怪人について少し理解した。

 そうこうしていると、学校がもう目の前だった。


「着いたな」


「そうだね」


「まぁ、とりあえず職員室まで行こうぜ。最悪先生達に車で送ってもらおう」


「あっ……」


 リリは早速校門に向かった。

 怪人のことを考えていたアオは、リリとの会話を思い出した。


「待って!!」


「えっ?」


 アオはすぐさまリリを呼び止めた。

 怪人は頭を使っている。

 それにリリが言うには、怪人の足の速さは成長しているのだという。

 命が掛かっているため、リリも全力だっただろう。

 少なくとも、リリはアオより足が速い。

 アオに合わせて走っていたリリを、怪人が取り逃がすとは思えなかった。


「アオ、どうした?」


「あの人がいるかも。……今学校に連絡してみるから………ッ!?」


 アオがスマホをポケットから取り出した瞬間、校門から巨大な人影が出てきた。

 アオの反応を見て、リリも後ろを振り返った。


「逃げるぞアオ!」


「うん!」


 2人は再び駆け出した。

 怪人もそれに反応して走り出す。

 待ち伏せが失敗したせいか、怪人は面白くなさそうだ。

 持久で勝負はできないと判断したアオとリリは、曲がり角を利用して走った。

 途中で駐車場を発見し、たくさんある車の陰に隠れた。


「ここでやり過ごそう」


「そう…だね………」


 2人は息を潜め、呼吸を整える。

 学校から出てきた怪人の姿を、アオははっきり見た。

 筋骨隆々で、いかにも強そうだった。


「最近新聞とかニュースで、惨殺された死体が発見されたっていう事件があったろ?」


「うん。見た」


「はっきり言える。それの犯人、多分あいつだ」


「えっ?」


「さっき言ったみたいに、私、あいつが人殺してるところ見たんだ。あいつに殺された人、四肢が変な方向に曲がってて、口の端を引き千切られてた」


「そんな……」


「捕まったら、絶対ヤバい………」


 その話を聞いて、アオは寒気を感じた。

 シロもきっと、あの怪人にやられたのだと考えた。

 シロから聞いた特徴が一致していた。

 話に出てきた人面犬も、酷い殺され方をしたという。


“ヒタ……ヒタ………”


 あの特徴的な足音が聞こえた。

 2人は思わず口を塞いだ。

 静かにしていれば、このままやり過ごせる。

 しかし、足音な徐々に近づいてくる。

 リリは難しい顔をする。

 そして何かを決意したようで、小声でアオに言った。


「ここを離れるぞアオ。あいつが姿を現したら、私が囮になって走る。その間に、お前は家まで走れ」


 アオは目を見開いた。

 

「そんなことしたら………」


「これはもともと私の問題なんだ。お前が危険な目に遭うことはないんだよ。命の危険を負うのは、私だけでいい」


「………」


 危険な目に遭うのは、自分だけでいい。

 その考え方は、アオとよく似ていた。

 リリは震えている。

 きっと今まで、とても怖い目に遭ってきたことだろう。

 それでもリリは、自分よりアオを優先しようとしていた。

 しかしアオはこれ以上、リリに怖い思いはさせたくなかった。


“ヒタ…ヒタ…ヒタ…”


 怪人はもうすぐそこまで来ていた。


「よし……!」


 リリは覚悟を決め、立ち上がった。

 

「リリちゃん」


「…何だ?」


 アオも立ち上がった。

 そしてリリに向き合い、一言告げる。


「ごめんね」


「えっ……?」


 アオはリリを突き飛ばした。

 何が起こったのか解らず、リリはその場に尻餅を着いた。

 アオは車の陰から出て、怪人の姿を確認した。

 駐車場の灯りに照らされ、2m以上の巨体に裂けた口や血走った目がはっきり見えた。

 不気味に感じつつも、勇気を出して大声で言った。


「こっちだよ!」


 アオは駐車場から駆けだした。

 面白さでも感じたのか、怪人はアオの追跡を感じた。

アオの命懸けの鬼ごっこ、スタート!

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