82.赤い話
シロの見舞いから翌日。
アオ達が通う隠神高校では、全部活動休止の知らせが出された。
昨日も人が二名、無惨な姿で発見されたという事件が報道された。
同様な事件は以前からもあり、警察も動き出している。
犯人の手掛かりは未だに掴めていないが、いずれの犯行も夜間に行われているという。
生徒のことより学業第一の隠神高校は休校にはしなかったものの、部活動休止という体制を取った。
放課後。
部活動が休止になり、やることもないリリは、なんとなく図書室にやってきた。
このまま帰っても良かったのだが、まだ明るいとはいえその帰路にリリは恐怖を感じていた。
最近怪人に追われ続けているせいか、いつ襲われるのかという不安に駆られていた。
気分転換できる時間が欲しかった。
「やぁ、リリちゃん♪」
「クロ、お前図書委員だったっけ?」
図書室の受付に座っていたクロがリリに挨拶をした。
クロはリリと同じクラスに所属している。
「剣道部、お休みになっちゃったね。君の華麗な剣技を見られないなんて、残念だよ」
「う、うるさいなぁ!」
「照れる君も可愛いよ☆」
「死ね!」
「ひどいなぁ~」
そう言いつつも、クロは全く傷ついていない。
リリのクロへの印象は、顔が良いだけのキザといったところだ。
ふと図書室を見回す。
今のところここには自分とクロ、そして知らない女子生徒の3人しかいない。
その女子生徒は、浮かない顔をして本を読んでいた。
「あの娘が気になる?あの娘はアオちゃんっていうんだ。僕らと同級生だよ。とっても良い娘なんだ。良かったら仲良くしてあげてね♪」
「あ、あぁ………」
話しかけようにも、本に集中しているところを邪魔するのは気が引ける。
リリは自由に回ることにした。
新聞が置いてあったので、手に取ってみる。
読むと最近の隠神市で起こっている残虐な事件が掲載されていた。
あの怪人のことを思い出してしまい、リリはすぐに新聞を元の場所に戻した。
「新聞は読む気起きない………」
リリは次に、小説のコーナーに入った。
冒険、恋愛、推理。
ジャンルは様々だったが、リリの目に止まったのはホラーだった。
「今の私の状況って、まさにホラーじゃないか?」
帰宅中に正体不明の恐ろしい怪人に追われる日々。
ホラーと言えば、リリにとってそれは怪人のことが初めてではなかった。
これはリリが小学生の頃に体験した出来事。
クラスに赤いワンピースを着た女の子がいた。
深く綺麗な真紅のワンピース。
それは他の赤い服とは比べものにならないくらいに美しかった。
リリは今でこそ剣道等のスポーツに夢中になっているが、この頃は女の子らしくお洒落にも興味があった。
ある時リリは、ワンピースについてその女の子に聞いてみた。
「そのワンピース、よく着てるよね。どこで売ってるの?それとも手作り?」
「う~ん………知りたい?」
「うん!」
「わかった。放課後私の家に来てよ。特別だよ?」
「やったー!」
リリはとてもワクワクした気分になった。
そして放課後、リリは女の子の家に連れてきてもらった。
その女の子の家はとても大きく、まさにお屋敷といった印象だった。
「すご~い!大きい!」
「ありがとう!さぁ、入って入って!」
「お、お邪魔します」
玄関前にはシャンデリアが吊り下げられている。
外見通り、家の中はとても広かった。
しかし、人の気配はしない。
「私の部屋はこっちだよ~。来て来て~」
「うん!」
リリは促されるがまま、女の子の自室に入った。
薄ピンクの壁紙に、ベッドや勉強机に本棚、クローゼットにフワフワのカーペット。
可愛らしい部屋だったが、それとは不釣り合いの銀色のたらいが置いてあった。
リリはその光景を不思議に思った。
女の子はクローゼットから何かを取り出すと、リリに説明を始めた。
「それじゃあこのワンピースについて話すね。まず白いワンピースを用意するの」
「え?どうして?」
「これから染めるから」
「染めるって、そのたらいで?中に何も入ってないよ?」
「今から材料揃えるの。ということで、まず……」
“ドスッ”
刺すような音が響き、リリは突然右腕に激痛が走った。
見るとカッターナイフが刺さっていた。
「ひゃぁあああ!!痛い!!痛いよぉ!!」
リリは刺された右腕を抑えて叫んだ。
「どうしてこんなことするの!?」
泣き出すリリを見て、女の子はクスリと笑う。
そして真紅のワンピースの真実を告げた。
「この赤いワンピースを作るにはね、いろんな材料を使うの。その中にね、血も入ってるんだ~♪それもたっくさん♪あなたが興味を持ってくれて良かった~♪」
女の子はリリの右腕に刺さったカッターナイフを抜くと、今度は首筋に当てた。
「素敵なワンピースのために、リリちゃんの血、頂戴♪」
その後、命の危険に瀕したリリは、暴れて女の子の家から逃げ出した。
そして次の日から、女の子は学校に来なかった。
リリはその一連の出来事を、誰にも話していない。
「まさか、また命の危機に陥るなんてな………」
そう言って苦笑する。
すると、下校を知らせるチャイムが鳴った。
窓の外を見ると、雲が掛かっていることもあり、薄暗くなっていた。
こんなことなら早く帰っていればと、今更後悔する。
「もうこんな時間だね。帰った方がいいよ。そうだ、アオちゃん寝てるから、起こしてくれない?僕はいろいろ片付けしてから帰るからさ」
「あ、あぁ………」
テーブル席を見てみると、アオは机に突っ伏して眠っていた。
背中に毛布が掛けられている。
クロがやったのだろう。
リリは近づき、アオの肩を揺らした。
「アオ、でいいんだよな?起きろ。帰る時間だぞ」
「う、うぅ………」
アオは眠そうに顔を上げた。
「本読んでたら眠くなるよな…。ほら、帰ろ────」
そこまで言いかけたところで、リリは言葉を失った。
アオは涙を流していた。
赤いと言ったら血~♪
血~と言ったらあ・か・い♪




