78.追われる話
「はぁ……。何で私だけ帰り道、みんなと違うんだろうなぁ」
帰路を歩きながら、リリは溜息を吐いた。
今日も真面目に授業を受け、剣道部として熱心に竹刀を振り、友人達と一緒に笑い合った。
学校ではいつも通り明るく過ごせる。
しかし最近、リリにとってこの帰宅中が憂鬱になっていた。
“ヒタ………ヒタ……………”
「!!」
足音を聞いた瞬間、リリの体がビクリと反応した。
本能が危険信号を放っている。
背後に目をやると、数十メートル先に大男が近づいてくるのが解った。
上下黒ずくめで、傷だらけで醜い顔、耳元まで裂けた口。
“怪人”と呼ぶのに相応しい外見だ。
「…来たか………!」
リリは舌打ちをし、駆けだした。
それを合図にしたのか、背後の足音のテンポが早くなる。
(くっ!…走り出したか!)
リリはスピードを上げた。
彼女はこれまでに三度、正体不明の怪人に追われている。
一番初めは1週間程前の部活帰り。
いつものように帰宅していると、男性の叫び声を聞いた。
正義感の強いリリは助けようと、声が聞こえた場所に駆け付けた。
そこにいたのは、仰向けに倒れた20代くらいの男性と、現在リリを追っている怪人だった。
男性の目は大きく見開かれ、ぐったりして動く様子もない。
怪人は男性の口の右端の皮を摘まむと、上下に引いた。
“ブチブチブチブチ────────”
口が右端から裂けていき、耳まで達した。
くっきり見えた歯を、血が赤く染める。
怪人はリリの方を見ると、ニタリと笑った。
流石に恐怖を覚えたリリは、その場から逃げ出した。
それに反応したかのように、怪人はリリの後を追った。
捕まれば死。
そう意識し、全力で走った。
気付けば家に着いており、リリは胸を撫で下ろしたが、その日から怪物に目を付けられたのだろう。
怪人に追われた日から、さらに二度も追われている。
そしてついに今日、学校から一人死者が出た。
首が折られ、腹が裂けたといった、無惨な姿で発見されたのだという。
そんな芸当ができるのは、リリが目撃したあの怪人だけだろう。
思った通り、捕まれば死が待っている。
リリは、これからも怪人に追われることを想像した。
誰かに相談しようにも、危険すぎるので巻き込むわけにはいかなかった。
自分で何とかするしかない。
リリはいつしか、そう思うようになった。
「ぐっ………!」
リリは息を上げていた。
部活終わりのせいなのか、リリは辛さを感じていた。
それに、捕まれば“死”という緊張感からか、力を使いすぎてしまっている。
そして一つ、違和感を覚えた。
(気のせいか?……なんだか足音が大きくなってるような………)
走りながらリリは、背後の様子を伺った。
怪人は少しずつだが、リリとの距離を縮めてきていた。
(ヤバい!)
ただでさえ早まっていた心臓の音が、ますます早くなる。
このままでは殺される。
ふと目線の端に曲がり角を見つけたリリは、そこへ駆け込んだ。
残った体力で、細かな道を走って怪人を錯乱させる。
そして入った道から脱出し、すぐに家の方向に駆けだした。
家に到着し、玄関のドアを開け、バタンと閉める。
「はぁ………はぁ…………」
家に着いたことへの安心感から緊張の糸が切れ、リリは玄関のドアを背に座り込んだ。
「おかえり~。…って、ちょっとリリ!!そんなとこに座ってどうしたの!?」
玄関の音を聞いた母親が、リリを心配する。
そんな母親に、リリは笑いかけた。
「いや~……。体力付けるために帰り道は走ることにしたんだよな。体力ある方が何かと有利だろ?」
「もう、相変わらず頑張るわねぇ。汗だくじゃないの。お風呂沸いてるから入って来なさい」
「は~い!」
リリは立ち上がり、自分の部屋に向かった。
荷物を置き、部屋着を持って風呂場に向かった。
体を洗い、浴槽に浸かったところで、リリは帰宅中のことを思い返した。
「また追われた………」
四度目。
リリは今日、四度目の怪人からの襲撃から逃げ切った。
命を守り切ったものの、それでもリリは安心できずにいた。
きっとまた襲われる。
その上、いつ終わるかも解らない。
そんな状況下に、リリは絶望感を抱いていた。
「やっぱ、あいつを何とかしないとダメなのか……?でも、あれは……」
怪人の体格はリリの3倍以上。
得意の剣道を駆使しても、リリには怪人を倒せる自信が無かった。
「………ていうかあいつ、速くなってる……よな?」
リリは感覚的に感じていた。
怪人の足は、リリが初めて追いかけられた日よりも、少しずつだが速くなってる。
怪人の足の速さ、そして持久力は、人を追っている間に着実に成長しているようだ。
今はなんとか逃げ切れている。
しかしこれは、いずれリリが捕まることを意味していた。
「あいつが私より速くなった時、…私は、……殺されるのか……」
リリは天井を見上げた。
怪人に捕まり、殺されるのは時間の問題。
自分はいったい、何回目で死ぬのだろう。
「殺されるってなったら、痛いのは嫌だな……。でも、あいつに捕まったら、……バラバラか?」
温かい湯船に浸かっているにも関わらず、リリの体に悪寒が走る。
歯がガチガチと鳴り出す。
「嫌だ……まだ死にたくない……」
温かいはずの風呂場で、リリはひとり、徐々に迫る死の恐怖に震えていた。
キャラ紹介
リリ
本名 風谷凛々
性別 女
学年 高1
誕生日 11月11日
趣味 運動
好物 白米
男口調だが女子。
気さくで面倒見が良い姉御肌。
剣道は中学からやっている。
何故かリリのファンになる女子が多い。




