76.怪人の話
「じゃあ、またね」
「じゃあねマリ!」
「また明日~」
「うん、バイバ~イ」
別れ道。
マリはチエリ、ナオ、アンナの3人とそこで別れた。
スマホを見ながら一人歩く。
4人で遊んでいて、辺りはすっかり暗くなっていた。
日は沈み、月は雲に隠れている。
そんな中、マリの背後から“ヒタヒタ”という音が聞こえてきた。
「ん?何?」
そのよく解らない音に、マリはそこまで気にならなかった。
しかし、しばらく歩いてもその音が消える気配はない。
嫌な予感がし、マリは一度振り返った。
黒ずくめの人影が、マリに向かって歩いてきていた。
足の動きと音は上手くマッチしていた。
“ヒタヒタ”という謎の音は、その人影の足音で間違いなさそうだ。
(何あれ?まさかストーカーじゃないわよね?)
ここ隠神市は、変質者の数が多い。
その点については学校から散々注意喚起を受けていたが、まさか自分がそれに狙われるとは思っていなかった。
とはいえ、まだストーカーと決まった訳ではない。
なのでマリは、歩を速めてみた。
するとどうだろう。
後ろから聞こえてくる足音のテンポが速くなった。
(何であっちも速くなるのよ!?絶対あたしのこと狙ってるでしょ!)
マリは、今度は走ってみた。
足音のテンポは、さらに速くなった。
明らかに向こうも走り出している。
(ちょっ、これ、ヤバいやつでしょ!)
マリは体力には自信があった。
できる限り全力で走る。
真っ直ぐに走っていてはキリがないと考え、路地を曲がりながら逃げた。
(くっ……。そろそろきつい……)
走り続けて体力の限界を感じたマリは、近くにあった家の庭に無断で入り、塀を陰に隠れた。
息を整えながら耳を澄ます。
足音は聞こえてこない。
(振り切った?振り切ったわよね?あはは………。残念でしたw)
ストーカーを心の内で罵りながらも、マリは胸を撫で下ろした。
とはいえ、いつまでもここにいてはいずれ住人に見つかり、不法侵入と扱われる可能性がある。
それはそれで面倒に感じ、マリはその家の庭から出た。
(家まで近いし、このまま気をつけながら帰ろう)
この辺りは暗くても、マリはどこだか解っていた。
少し歩けば我が家に着くという距離だ。
ストーカーに警戒しつつ、マリは早歩きで家に向かった。
こんなに家が恋しいと思ったことはなかった。
そしてついに家が見えた。
しかし、マリが感じたのは絶望感だった。
「な……なんで…………?」
先程マリを追ってきていたストーカー。
それがマリの家の前に立っていた。
「ちょっと待って………。待ち伏せてたわけ………?」
ストーカーはマリの方を見ると、そちらに向かって歩き出した。
陰になっていて正確に解らなかったが、心なしか笑っているようにも見えた。
「ッ!!!」
マリは家とは反対方向に走り出した。
その際に持っていた荷物を落とす。
(なんで!?なんであたしがこんな目に……!!)
心臓が早鐘を打っている。
先程全力で走った分の体力は、まだ戻っていなかった。
背後からは足音が聞こえてくる。
テンポの速さから考えて、やはりあちら側も走っている。
捕まればタダでは済まないだろう。
「助けて!助けて!!誰か!!」
マリは走りながら叫んだ。
しかし声は息切れのせいか、そこまで大きくはならなかった。
マリは先程と同様に、逃げ切れるように路地を曲がっていった。
すると運がいいのか、駐車場を見つけた。
ざっと数えて車が6台留まっている。
マリはそのうちのひとつの陰に隠れてやり過ごすことにした。
また見つかった時のために、ゆっくりと息を整えて待った。
道路の方からは、“ヒタヒタ”と足音が聞こえた。
(お願い!このまま通り過ぎて!)
予想通りここまで着いてきていた。
マリは息を潜める。
祈るようにして体を丸めて座り、顔を膝に埋めて目を瞑った。
足音は聞こえなくなっていた。
しかし、家に帰れるまで油断はできない。
あと1、2分は留まることにした。
(こうしてれば見つからないはず!だから早くどっか行って!)
ひたすらに願い続けた。
しばらく身を丸くして、もう大丈夫だろうと感じたところで、ゆっくりと顔を上げた。
マリは目を見開き、再び絶望を覚えた。
「……嘘………でしょ…………?」
目の前にはあのストーカーが立っており、マリを見下ろしていた。
ストーカーはかなりの大柄だった。
通り過ぎていたと思っていてが、気配を消して目の前まで来ていたようだ。
逃げようにも、足が震えて言うことを聞かない。
マリの体は、恐怖に支配されていた。
この時、丁度月が雲から顔を出した。
月明かりに照らされて、マリは初めてそのストーカーの顔を確認することができた。
「えっ……………」
これは、確認しない方が良かったのだろう。
上下黒ずくめのストーカーの顔は醜く、傷だらけで、口が耳元まで裂けていた。
ストーカーと言うよりは、怪人というのに相応しい。
そのあまりのグロテスクな姿に、マリは声も出せずにいた。
怪人は右手でマリの首元を、左手で横腹を掴み、持ち上げた。
「あっ……がっ……………」
マリの顔が苦しみに歪む中、怪人はその裂けた口を大きく開いた。
「い、嫌…………嫌ぁあああああ───────!!!」
頭部に強い衝撃が走った。
マリそれっきり、目覚めることはなかった。
お待たせしました。新章です。




