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八百万  作者: マー・TY
第七章
76/115

76.怪人の話

「じゃあ、またね」


「じゃあねマリ!」


「また明日~」


「うん、バイバ~イ」


 別れ道。

 マリはチエリ、ナオ、アンナの3人とそこで別れた。

 スマホを見ながら一人歩く。

 4人で遊んでいて、辺りはすっかり暗くなっていた。

 日は沈み、月は雲に隠れている。

 そんな中、マリの背後から“ヒタヒタ”という音が聞こえてきた。


「ん?何?」


 そのよく解らない音に、マリはそこまで気にならなかった。

 しかし、しばらく歩いてもその音が消える気配はない。

 嫌な予感がし、マリは一度振り返った。

 黒ずくめの人影が、マリに向かって歩いてきていた。

 足の動きと音は上手くマッチしていた。

 “ヒタヒタ”という謎の音は、その人影の足音で間違いなさそうだ。

 

(何あれ?まさかストーカーじゃないわよね?)


 ここ隠神市は、変質者の数が多い。

 その点については学校から散々注意喚起を受けていたが、まさか自分がそれに狙われるとは思っていなかった。

 とはいえ、まだストーカーと決まった訳ではない。

 なのでマリは、歩を速めてみた。

 するとどうだろう。

 後ろから聞こえてくる足音のテンポが速くなった。


(何であっちも速くなるのよ!?絶対あたしのこと狙ってるでしょ!)


 マリは、今度は走ってみた。

 足音のテンポは、さらに速くなった。

 明らかに向こうも走り出している。

 

(ちょっ、これ、ヤバいやつでしょ!)


 マリは体力には自信があった。

 できる限り全力で走る。

 真っ直ぐに走っていてはキリがないと考え、路地を曲がりながら逃げた。

 

(くっ……。そろそろきつい……)


 走り続けて体力の限界を感じたマリは、近くにあった家の庭に無断で入り、塀を陰に隠れた。

 息を整えながら耳を澄ます。

 足音は聞こえてこない。

 

(振り切った?振り切ったわよね?あはは………。残念でしたw)


 ストーカーを心の内で罵りながらも、マリは胸を撫で下ろした。

 とはいえ、いつまでもここにいてはいずれ住人に見つかり、不法侵入と扱われる可能性がある。

 それはそれで面倒に感じ、マリはその家の庭から出た。

 

(家まで近いし、このまま気をつけながら帰ろう)


 この辺りは暗くても、マリはどこだか解っていた。

 少し歩けば我が家に着くという距離だ。

 ストーカーに警戒しつつ、マリは早歩きで家に向かった。

 こんなに家が恋しいと思ったことはなかった。

 そしてついに家が見えた。

 しかし、マリが感じたのは絶望感だった。


「な……なんで…………?」


 先程マリを追ってきていたストーカー。

 それがマリの家の前に立っていた。

 

「ちょっと待って………。待ち伏せてたわけ………?」


 ストーカーはマリの方を見ると、そちらに向かって歩き出した。

 陰になっていて正確に解らなかったが、心なしか笑っているようにも見えた。

 

「ッ!!!」


 マリは家とは反対方向に走り出した。

 その際に持っていた荷物を落とす。

 

(なんで!?なんであたしがこんな目に……!!)


 心臓が早鐘を打っている。

 先程全力で走った分の体力は、まだ戻っていなかった。

 背後からは足音が聞こえてくる。

 テンポの速さから考えて、やはりあちら側も走っている。

 捕まればタダでは済まないだろう。


「助けて!助けて!!誰か!!」


 マリは走りながら叫んだ。

 しかし声は息切れのせいか、そこまで大きくはならなかった。

 マリは先程と同様に、逃げ切れるように路地を曲がっていった。

 すると運がいいのか、駐車場を見つけた。

 ざっと数えて車が6台留まっている。

 マリはそのうちのひとつの陰に隠れてやり過ごすことにした。

 また見つかった時のために、ゆっくりと息を整えて待った。

 道路の方からは、“ヒタヒタ”と足音が聞こえた。


(お願い!このまま通り過ぎて!)


 予想通りここまで着いてきていた。

 マリは息を潜める。

 祈るようにして体を丸めて座り、顔を膝に埋めて目を瞑った。

 足音は聞こえなくなっていた。

 しかし、家に帰れるまで油断はできない。

 あと1、2分は留まることにした。

 

(こうしてれば見つからないはず!だから早くどっか行って!)


 ひたすらに願い続けた。

 しばらく身を丸くして、もう大丈夫だろうと感じたところで、ゆっくりと顔を上げた。

 マリは目を見開き、再び絶望を覚えた。


「……嘘………でしょ…………?」


 目の前にはあのストーカーが立っており、マリを見下ろしていた。

 ストーカーはかなりの大柄だった。

 通り過ぎていたと思っていてが、気配を消して目の前まで来ていたようだ。

 逃げようにも、足が震えて言うことを聞かない。

 マリの体は、恐怖に支配されていた。

 この時、丁度月が雲から顔を出した。

 月明かりに照らされて、マリは初めてそのストーカーの顔を確認することができた。


「えっ……………」


 これは、確認しない方が良かったのだろう。

 上下黒ずくめのストーカーの顔は醜く、傷だらけで、口が耳元まで裂けていた。

 ストーカーと言うよりは、怪人というのに相応しい。

 そのあまりのグロテスクな姿に、マリは声も出せずにいた。

 怪人は右手でマリの首元を、左手で横腹を掴み、持ち上げた。

 

「あっ……がっ……………」


 マリの顔が苦しみに歪む中、怪人はその裂けた口を大きく開いた。


「い、嫌…………嫌ぁあああああ───────!!!」


 頭部に強い衝撃が走った。

 マリそれっきり、目覚めることはなかった。

お待たせしました。新章です。

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