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八百万  作者: マー・TY
第六章
75/115

75.帰る話

 “かんかんだら”は怒りに満ちた表情をしながら、カイの様子を伺っている。

 カイは構えながら、ふと“かんかんだら”の背後にある社を見た。

 社には“かんかんだら”の下半身が巻き付いている。

 カイはそれについて、目を逸らすことなく熊田に訊いた。


「あいつが巻き付いてる建物に何かあんのか?」


「あの中にあるのは、ダラを封印するための術具だ。しかし、それは今崩された状態になっている。我々はそれを使い、ダラを再び封印するために来た。だがそれには時間が掛かる。そのために生贄が必要だった」


「そうか……」


 カイはそれを聞き、再び社に巻き付いた蛇の下半身を凝視した。

 そしてまた、白い歯を見せて笑った。


「じゃあ、俺がコイツ何とかして、おっさん達が封印成功させれば勝ちだな!」


「なっ……!」


「よし、来い!ダラ!」


 その声に反応してか、“かんかんだら”は一瞬でカイに詰め寄った。

 両肩両腕を掴み、力尽くで砂利の上に押し倒す。

 痛みよりも、カイの顔に焦りの表情が浮かんだ。

 

「やべっ!力強ぇ!!」


 “かんかんだら”は口を裂けるほど大きく開いた。

 上半身は間違いなく人間の女性のものだ。

 にも関わらず、その口の中には鋭い牙が生えており、それはまるで蛇のようだった。

 その牙は、今にもカイの喉元に突き刺さろうとしている。

 

「くそっ!!」


 カイは必死になって藻掻いたが、“かんかんだら”の力は強く、腕を振り解くには到らない。

 このまま殺されるのではないかと、一瞬カイはそう感じた。

 しかしその考えをすぐに取り消し、カイはそれでも足掻く。

 すると、鈍い音がしたのと同時に、“かんかんだら”の力が少し緩んだ。

 カイはそれを見逃さず、“かんかんだら”から逃れた。


「危ねぇ……」


「こんな化け物を一人で何とかしようなんて、無茶するんじゃないわよ!」


 カイが振り返ると、太く長めの木の枝を持ったコユが仁王立ちしていた。

 倉田に拘束を解いてもらったようだ。

 “かんかんだら”は頭を抑えている。


「コユ、それでダラを殴ったのか?お前やるなぁ!」


「あたしだってやる時はやるの!」


「俺も協力しよう。人数は多い方がいいよね」


 コユに続いて倉田も前に立った。

 “かんかんだら”は唸り声を上げる。


「ほらこっちだ!!」


 カイの挑発に乗った“かんかんだら”が、再びカイに襲い掛かる。

 カイは伸ばされた腕をなんとか避けたが、やはり“かんかんだら”の動きは速い。

 攻撃は尚も続き、カイは休む暇も無くギリギリで躱し続けていく。

 コユはそれをハラハラしながら見ていた。

 

「カイ!だから協力しようって!」


「………いや、これでいいかもしれない。コユちゃん、俺達はこれを使おう」


「え?」


 倉田は持っていたバッグから、コユに公民館で調達した物を渡した。

 一方熊田達は、カイが“かんかんだら”に追い詰められていく様を茫然と見ていた。


「本当に…あの少年は何者なのだ……?」


 住職はカイの動きを驚いた目で追っていた。

 そんな住職達の前に立つ熊田の拳は震えていた。


「彼は何故………ッ!君達、住職を頼む!」


 熊田は2人の巫女に住職を任せると、社の方に走り出した。




「はぁ、はぁ、……やっぱ速ぇ!!」


 伸びてくる腕を躱したり受け流したりしているうちに、カイの体力はどんどん削られていく。

 カイに余裕は無いが、“かんかんだら”もカイを捕らえられないことに苛立ちにを覚えている。

 切れている手からの体液も止まっていない。

 するとここで、急に“かんかんだら”の動きが止まった。


「はぁ、はぁ、攻撃をやめた……?」


 “かんかんだら”は顔と腕をダラリと下げている。

 「疲れたのか?」と考えられたが、それは違った。

 “かんかんだら”は突然顔を空に向け、地獄の底から響いてきそうな声で叫んだ。


「なんだ?……うおっ!?」


 その叫び声と同時に、足元が揺れ出した。

 

「急に何!?また地震!?」


「これ、ダラが引き起こしてるみたいだ!」


 地震によってコユや倉田達は動けなくなってしまった。

 カイもまた、砂利に指を食い込ませて揺れに耐える。

 “かんかんだら”はしばらく空を見上げて、それからゆっくりとカイに視線を戻した。

 地震は“かんかんだら”の動きに合わせるかのように治まった。


「止まったか……。……ぐっ!?」


 地震に耐えることに集中していたカイは、“かんかんだら”の伸ばされた腕に気づけなかった。

 “かんかんだら”は2本の手でカイの首を掴み、そして持ち上げた。


(がっ!……やべぇ!………くそっ!離せよ!!!)


 カイは足をバタつかせて暴れた。

 “かんかんだら”の手の甲も引っ搔いて抵抗する。

 “かんかんだら”は残った3本のうち1本で、頭を掴み上げる。

 このままカイの首をへし折り、頭を握り潰そうという勢いだ。


「カイ!」


 コユはカイのピンチに気付き、立ち上がった。

 そして恐れることなく“かんかんだら”に向かっていく。

 倉田の止める声も、コユの耳には入らなかった。


(カイ!このままアンタが殺されるところなんて、黙って見てられるわけないじゃない!アンタが死んだらアオは絶対泣くし、あたしだって───!!)


 コユは点火棒で、倉田から貰った物に火を点けた。


「カイを放して!!」


 コユの左手に持つそれから緑色の火花が飛び出した。

 コユにそれを腹に当てられた“かんかんだら”は、悲鳴を上げてカイを落とした。

 コユが倉田から受け取ったのは、市販の花火だった。


「アンタでも火は熱いようね!」


「げほっ!……コユ、ありがとな!また助けてくれて……」


「当然でしょ!」


 怯んだ“かんかんだら”に追い打ちを掛けるように、薄赤色の煙が覆った。

 それは倉田が投げた球状の花火だった。


「倉田さん!」


「花火セットがあってよかった。ほら、これはカイ君の分だ。避け続けるのはきついでしょ?」


 倉田は点火棒と、いくつかの花火をカイに渡した。


「面白そうだな!…よしっ!」


 “かんかんだら”5本の腕で煙を払った。

 カイ、コユ、倉田の3人はそれぞれ分かれて“かんかんだら”を取り囲んだ。

 次々と花火を点火させ、“かんかんだら”を翻弄する。

 しかしこの戦法、花火が切れ、次の花火を点火させるまでに隙ができる。

 コユがまさにそんな状態になってしまい、“かんかんだら”の手が伸ばされた。


「あっ……!」


「やらせるか!!」


 カイがコユに伸ばされた腕に火花を浴びせた。

 

「カイ、ありがとう」


「へへっ、気にすんな!」


 “かんかんだら”は火傷した腕を庇っている。

 その間倉田から花火を向けられ、“かんかんだら”は思わず身を引いた。

 その時“かんかんだら”は、蛇の下半身の方に違和感を覚えた。

 社に巻き付けている自身の下半身。

 それが先の方からだんだん引き剥がされていくのが解った。

 この時、社の裏には熊田がいた。


「これさえ、剥がれれば……!!!」


 熊田は“かんかんだら”の下半身を先から解きに掛かっていた。

 常人にはとても解けるものではないのだが、熊田の力は凄まじく、下半身はどんどん剥がれていく。

 とはいえ流石に黙って解かれる訳はなく、“かんかんだら”は剥がされた分の下半身で熊田を地面に叩きつけた。

 しかし今の一瞬。

 それが“かんかんだら”にとって命取りとなった。


「これでどうだ!!!」


 隙を見抜き、カイが着火させた花火の先を“かんかんだら”の顔に向けた。

 朱色の火花が“かんかんだら”の顔面にかかる。

 

「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”───────────!!!!!」


 “かんかんだら”は顔を抑え、悲痛の叫びを上げた。

 顔面に命中しなかった火花が髪の毛に当たり、燃え上がった。

 火を消すために5本の腕をバタつかせるが上手く消えず、火はさらに長い髪から着物にも燃え移った。

 “かんかんだら”は砂利の上に転がり、のたうち回る。

 そして社に巻き付いた下半身が緩み、ついには完全に地面に落ちた。


「今だ!住職さん!」


「う、うむ……!」


 住職と2人の巫女は、直ぐさま社の中に駆け込んでいった。

 “かんかんだら”に点いた火は背中にまで燃え移り、大きくなっていた。

 黒い煙が上がっており、肉が焼き爛れるような臭いもする。

 動きも次第に鈍くなってきていた。

 その様子を、カイ、コユ、倉田は離れて見ていた。

 念のため、点火棒と花火は準備している。


「俺がやったとはいえ、なんか残酷だな……」


「封印とか関係なくて、このまま死ぬんじゃないの?」


 囮の役割を終え、社も解放されたにも関わらず、カイとコユは暗い顔をしていた。


「いや、ダラはその辺の人間や蛇とは違う。化け物だ。きっとまた襲ってくる頃には、傷は再生してるだろうさ。だから封印するんだ」


 倉田は2人に、静かにそう告げた。

 しばらくして、“かんかんだら”の姿は徐々に薄れてきた。

 それからカイを一度睨み付けた後、虚空に溶けていった。




『解った。今からやる』


「あぁ。頼んだ」


 全てが終わったことをガレンに伝えたカイは通話を切り、スマホを仕舞った。


「君達………」


 カイとコユの元に、熊田が近寄ってきた。

 住職達は後ろで見守る。


「ありがとう。そして済まなかった。私は君達に酷い仕打ちをした。それにも関わらず、我々に協力してくれたこと、感謝する」


「いいっていいって!もう終わったことだしなっ!」


「あたし、まだアンタらに生贄にされそうになったこと、赦せてないんですけど」


「ほ、本当に申し訳ない………」


「フンッ」


「まぁまぁ~……」


 カイは今ではもう気にしていないようだが、コユは不機嫌そうにそっぽを向いた。

 そんなコユを倉田が宥める。

 コユは倉田に、ふと興味を持った。


「倉田さんだっけ?助けてくれてありがとね」


「いや、礼には及ばないよ。俺はただ、カイ君の闘志っていうか、覚悟を見て応援したくなってさ。それに………」


「それに?」


「……俺もさ、君達と同じように、別の世界から迷いこんできたから」


「えぇっ!?」


 カイとコユは、とても驚いていた。

 倉田はそのことについて、さらに詳しく話す。


「俺がここに迷いこんだのは9歳の頃だった。その時は空間異常とかそういうの解らなかったんだけどね。泣いてた俺に、この町の人は優しくしてくれた。帰る手段が見つからなかったから、それからこの町で生活し続けたんだよね」


「あたし達今から帰れるらしいけど、倉田さんはどうするの?」


「俺はずっとここにいるよ。ここでの生活に愛着が湧いちゃってさ。そもそも俺が元いた世界と君達の世界が一緒って訳でもなさそうだからね」


「そっか……」


 コユが頷いた直後、突然空間が歪みだした。

 虚空が渦を巻いていき、やがてそれは白く大きな円形になった。


「なっ!?……これは……」


 熊田や住職達はその白い穴に驚き、目を奪われていた。


「おっ!これをくぐれば帰れるんだな!?」


「えっ?大丈夫なの?」


 興味津々なカイに対して、コユは不安そうにしている。

 突然現れた得体の知れない白い穴を、くぐれと言われて躊躇わない者は少数だろう。

 

「大丈夫だって!ほら、手ぇ繋ごうぜ!」


 カイはコユに手を差し出す。

 不安そうな者や元気のない者を元気付けるのは、カイの特技のうちの一つだ。

 

「大丈夫?また知らないところに飛ばされたりしない?」


「う~ん……まっ、その時はその時だろっ!」


「全くアンタは………」


 コユは苦笑し、カイの手を繋いだ。

 

「カイ君、コユちゃん、元気でね」


 元の世界に帰ろうとする2人に、倉田は手を振り、別れの挨拶を告げた。

 

「あぁ!またな!倉田さん!」


「本当にありがとう。じゃあね!」


 カイとコユは手を振り返し、白い穴を一気にくぐり抜けた。

 2人がその先に着いたのを確認したのか、白い穴は徐々に小さくなっていき、ついにはただの空間に戻った。

 



 白い穴から出てきたカイとコユが行き着いたのは、暗い林の中だった。


「カイ!コユちゃん!おかえり!!」


 涙目のアオが駆け寄ってくる。

 2人は初めて、元の世界に帰ってこれたことを実感した。


「2人とも怪我してない!?」


「ちょっとしたけど平気だ。心配掛けたな、アオ」


「もうアンタと会えないかと思ったわよ」


 3人が仲良く話しているところに、ガレンも寄ってきた。

 カイとコユを連れ戻すのに使った機材は、既に片付けられていた。


「上手くいったみてぇだな」


「おぅ!父ちゃん、アオ、ありがとな!」


「た、助けてくれてありがとうございました!」


「気にすんな。これも俺の仕事だからな。それよりお前ら仲良いんだな!手なんか繋いじまってよぉ」


 ニヤニヤしているガレンの言葉に、コユはギョッとした。

 未だにカイと手を繋いでいることに気付き、顔が赤くなる。

 そして慌てて手を離した。


「ん?どうしたコユ?」


 カイは特に気にしてない様子だったが、コユの心臓はバクバク鳴っていた。

 その様子を見て、アオはクスリと笑った。


「コユちゃんって、恥ずかしがり屋さんなのかな?」


「もう、アオ!揶揄ってるの!?」


「ハハハ!青春だなぁ!そんじゃあ、帰るぞお前ら。俺が送ってってやる」


「よっしゃぁ!我が家だ!!」


「パパ、私自転車……」


 いつもは暗く静かな雑木林。

 しかし、この日の一時だけは賑やかだった。

今回登場した怪異


裏S区

霊の通り道とされる地域。現在は新S区と名前を変えている。


第六章はここまでです。今回でカイとコユの距離が縮まったのではないでしょうか。第七章もお楽しみに。

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